トライボコーティング技術研究会、第15回岩木賞贈呈式、第25回シンポジウムを開催
トライボコーティング技術研究会と理化学研究所は2月24日、埼玉県和光市の理化学研究所 鈴木梅太郎記念ホールで、「岩木トライボコーティングネットワークアワード(岩木賞)第15回贈呈式」および「第25回『トライボコーティングの現状と将来』シンポジウム-ナノ多孔高分子フィルム、先進コーティング、高機能3Dプリンタ、CT技術-」をハイブリッド開催した。
第15回岩木賞受賞者と関係者
岩木賞は表面改質、トライボコーティング分野で多大な業績を上げた故・岩木正哉博士(理化学研究所元主任研究員、トライボコーティング技術研究会前会長)の偉業を讃えて、当該技術分野と関連分野での著しい業績を顕彰するもの。トライボコーティング技術研究会が提唱して2008年度に創設、現在は未来生産システム学協会(FPS)が表彰事業を行っている。
第15回目となる今回は、東海国立大学機構 岐阜大学 武野明義氏が業績名「クレージング現象を利用したナノ多孔高分子フィルムおよび繊維の開発」により大賞に輝いた。また、新明和工業が業績名「ダイヤモンド成膜工具の刃先先鋭化装置の開発」により事業賞に輝いた。さらに、慶応義塾大学 小池 綾氏が業績名「高重力場を援用した高機能 3Dプリンタの開発」により奨励賞を受賞した。
大賞の業績「クレージング現象を利用したナノ多孔高分子フィルムおよび繊維の開発」は、高分子材料の初期破壊現象であり工業的には抑制されるべき現象であるクレージング現象を制御しつつ活用しナノ多孔高分子フィルムおよび繊維を開発するという世界唯一の技術である。高分子のクレーズの内部はナノオーダーのフィブリル(繊維束)とボイド(孔)からなるスポンジ状ナノ構造であり、本業績では、脆性に破壊する高分子フィルムの破壊直前の状態を管理・制御する技術を開発することで、フィルムあるいは繊維状の素材に、安定したクレーズを生じさせるとともに、規則構造を持たせることに成功したもの。本技術により、視点により透明性が異なる視界制御性フィルムや水中にマイクロバブルを発生する膜として上市されていることや、本技術を繊維製品等に多用途展開するベンチャー企業FiberCrazeがスタートしていることなどが評価され、受賞に至った。
受賞の挨拶に立った武野氏は、「大学院生だった40年前に理化学研究所で岩木正哉先生のご指導を受けて研究を進めた。今回岩木先生の偉業を讃えて創設されたこの賞を受賞する栄誉にあずかり、岩木先生から賞をいただいた気分で大変感慨深い」と語った。
左から、大森会長、武野氏、当日プレゼンターを務めたFPS表彰顕彰部門長 藤井 進氏
また、事業賞の業績「ダイヤモンド成膜工具の刃先先鋭化装置の開発」は、一般的にダイヤモンド成膜がTiNやTiAlNなどのPVD膜に比べて膜厚が厚く切削工具に施すと刃先Rが大きくなり切削性能が低下するのに対し、プラズマイオン処理によりダイヤモンド成膜された切削工具の刃先を先鋭化する装置を開発し、CFRP加工などで従来から行われている「捨て穴加工」を排除し生産効率向上に寄与する技術を確立したもの。従来からレーザーを用いてダイヤモンド成膜した切削工具の刃先を先鋭化する技術はあったが、ツールパスの設定が難しく、加工後の表面状態が必ずしも良好とは言えず一部基材の露出も見られる場合がある。本開発は、プラズマのアンテナ効果を利用し、主として刃先のダイヤモンド被膜をイオンエッチングすることで先鋭化とドロップレットの低減を可能にしたほか、一度に複数本の工具が処理可能で従来技術が抱える問題を解決できることなどが評価された。
受賞の挨拶に立った岡本氏は、「栄誉ある賞をいただき、先鋭化装置の開発者一同が喜びを感じている。本賞を受賞し評価されたことは装置の大きなPRとなる。これを機に拡販へとつなげていきたい。先鋭化装置は販売実績がありながらも、まだまだ改良すべき点も多く、関係各位のご指導をいただきながら、より良い装置に仕上げていきたい」と語った。
左から、大森会長、岡本氏、藤井氏
さらに、奨励賞の業績「高重力場を援用した高機能 3Dプリンタの開発」は、世界に先駆けて実施した高重力場アディティブマニュファクチャリング(AM)の研究成果である。宇宙空間の微小重力場で金属AMを用いた保全などを行う際、粉末が浮き、スパッタがどこまでも飛び、内部欠陥が浮力の減少でいつまでも排出されないなど、粉末床溶融結合法(PBF)は実行困難となる。本業績では、10Gまでの高重力場を作用させる装置を開発、造形プロセス評価において、1Gでは造形面に粉末が凝集したのに対し、10Gでは凹凸の少ない粉末床を形成し、スパッタの発生が合成加速度の逆数に比例して減少することが、また、造形物品質評価では、1層造形物のうねりが10Gで低減しボーリング現象を抑制することや多層造形物の密度と硬さが向上し金属組織の微細化が図られることが確認された。高重力場を援用した超微細構造造形を用いることで機能性表面生成への重要な一歩となる可能性が評価された。
受賞の挨拶に立った小池氏は、「栄えある賞を受賞したことを機に、開発技術を社会に広めていきたい。同時に、社会に役立てていただけるよう研究開発を深化させたい」と述べた。
左から、大森会長、小池氏、藤井氏
贈呈式の後はシンポジウムに移行。岩木賞の記念講演として大賞に輝いた東海国立大学機構 岐阜大学 武野明義氏が、事業賞に輝いた新明和工業 岡本氏が、奨励賞に輝いた慶応義塾大学 小池氏がそれぞれ講演を行った後、以下のとおり3件のトライボコーティング技術研究会会員による講演がなされた。
・「DLC コーティング技術とアルミ切削工具への応用展開」小磯裕太氏(日本電子工業)…従来の水素含有DLC(a-C:H)膜中にケイ素(Si)を含有させた豊田中央研究所開発のDLC-Siコーティング技術を同社のプラズマ熱処理技術とプラズマCVD装置のノウハウにより実用化した「NEO Cコーティング」のほか、UBMS法+PACVD法で成膜するDLC-P(a-C:H)やアークイオンプレーティング法で成膜するDLC-A(ta-C)、UBMS法で成膜するDLC-S(a-C:H)やW-DLC(a-C:H:W)、PACVD法で成膜するSi-DLC(a-C:H:Si)など多種の標準ラインナップを有するPVD方式で成膜した「NEO VCコーティング」の技術を紹介。製造プロセスにより構造や硬さ、表面粗さなどの特性の異なる各種のNEO VCコーティングを成膜した切削工具を用いてアルミニウム合金のドライ切削特性について評価したところ、アルミニウム合金のドライ切削にはドロップレット数を抑えたta-C膜であるDLC-Aが適している一方で、シリコンを多く含むアルミニウム合金の切削では工具摩耗が見られたことを報告した。
・「無機-有機ハイブリッドコーティングの設計と応用―機能性ハードコート材の開発―」佐熊範和氏(東京都立産業技術研究センター)…無機結合を代表するシロキサン結合(Si-O)エネルギーは極めて大きく耐光性・耐久性に優れる。しかしこうした優位性を持つポリシロキサン樹脂をコーティング用途に展開するには、脆性・密着性・硬化性・溶解性・安定性などのハンドリング性に劣るため、その改善を目的にHybrid sol-gel法を用いて有機ポリマーとハイブリッド化した無機-有機ハイブリッド樹脂を合成した。粒子ハイブリッドとしてはコロイダルシリカ(ナノシリカゾル)表面の-SiOHを反応対象としHybrid sol-gel法による有機ポリマーとの共重合により硬度・耐熱・耐久性が高まった透明ハードコート化が可能になる。無機-有機ハイブリッドコーティングとしてはまた、防汚型ハードコートやUV吸収性ハードコート、屈折率制御型ハードコートなどが実現できることを紹介した。
・「新たに発見された離散ラドン逆変換厳密解に基づくCT画像」高梨宇宙氏(理化学研究所)…フィルター逆投影(FPB)法はCT画像再構成法の数学的な基礎を与える連続空間上で定義されたラドン変換から自然に導かれるが、計測データが離散的なため骨と軟部組織の境界や金属と樹脂部品の境界などで再構成画像にアーチファクトを生じる。一方、吸収係数を未知数、投影データ群を既知数とした連立方程式を解くことで画像再構成を行う代数的再構成(ART)法は問題設定の段階から空間を離散化して取り扱うため同様のアーチファクトが生じにくい反面、ラドン変数で保障される投影データと断層画像の一対一対応が壊れてしまう。こうした問題に対し、適切な離散化で意図的に過剰系を作りそこに含まれる正則系を取り出すことでラドン変換の逆変換の厳密解を構成するアルゴリズム「SOL」を考案した。3Dプリンタで造形した既知の体積の撮像ターゲットを作成し同ターゲットのX線CT画像データを取得、SOLとFBP法を用いて同じデータに対し三次元再構成を行い、得られた三次元データを、画像解析ソフトによるセグメンテーション手法で体積を評価し撮像ターゲットの体積と比較したところ、SOLの体積評価精度がより高い結果となり、SOLの厳密解再構成画像の評価値が有効であると示された。
第25回シンポジウムのもようkat 2023年3月6日 (月曜日)