第161回 メガソーラーの効率を向上する材料・表面改質技術
日立製作所などは来年夏の稼働をめどに、宮城県石巻市の男鹿半島に、国内最大級となる出力10MW級の大規模太陽光発電所(メガソーラー)を建設する計画を発表した。トヨタ自動車でもまた、子会社の工場がある宮城県大衡村で10~20MW級のメガソーラーの建設を予定している。本年7月から、太陽光などの自然エネルギーを電力会社が固定価格で買い取る「全量買取制度」が始まるが、メガソーラーで発電した電力は同制度を利用して東北電力に売られる予定だ。
メガソーラーで使用されている機械要素技術
一般家庭の屋根や屋上などに取り付けられる太陽光発電は通常、2kW~4kW程度の発電能力を持つが、これに対してメガソーラーは電気事業者が進める大規模な太陽光発電で、1ヵ所で1MW以上の発電能力を持つ発電所を言う。国内でも、東日本大震災に伴う電力危機を受けて、また、今後の全量買取制度をにらんで、ソフトバンクなども原子力発電代替のエネルギー確保を目的にメガソーラーの設置を提案している。
メガソーラーでは大規模な太陽電池モジュールを数十基並べて集光するが、太陽の移動に合わせてパネルの角度を自動調整する追尾システムを備えている。1 軸追尾システムは、太陽電池モジュールを傾斜角30°で追尾架台に設置し、あらかじめインストールされたプログラムに従って日の出から日没まで太陽を追尾するシステムで、集光2軸追尾システムは、モジュール受光面が太陽に対して常に垂直になるように、方位角と傾斜角を変化させる追尾システム。ベアリングの技術を応用して大同メタル工業が、ロボットの変減速機やモーターなどの技術を応用してナブテスコなどが手掛けている。
野ざらしの状態でこの追尾システムを長期にわたり稼働させるには、追尾するための可動部分は低温から高温までの潤滑に対応する固体潤滑剤などで常に動ける状態にしている。あるいはベアリング部分などに摺動性の高い樹脂材料などを使って無潤滑での稼働を可能にしている。パネルを太陽に対して常に最適な向きに保つことで、20~40%の発電量の向上が期待できるという。
発電効率を高める材料・表面改質技術
また、メガソーラーはできるだけ日照時間が稼げる場所に設置されることから、太陽光パネルは常時、砂や埃にさらされる。太陽光パネルに付着した汚れにより、こちらは20%もの発電効率低下を招くことがあるという。これに対し、機能性コーティング剤の開発ベンチャーであるジャパンナノコートでは、帯電防止による汚れ防止と低屈折入射により発電効率を高める太陽光パネル用コーティング剤を開発している。
太陽光パネルは、光が当たると発電する太陽電池と、太陽電池を覆うカバーガラスで構成されているが、カバーガラスには汚れ付着対策とカバーガラス自体の入射効率の向上という二つの課題がある。カバーガラスの上に汚れが付着し積層すると太陽光が遮られ、発電効率が大きく低下する。日照時間が多いことから中東などの砂漠地帯でマスダール計画などメガソーラープロジェクトが進められているが、風で飛ばされて帯電した細かな砂がパネルに付着、毎日の清掃を欠かすと20%も発電効率が低下するとの報告がなされており、ガラス表面の帯電防止機能をいかに高めるかが課題となっている。また、フローガラスなど一見透明に見えるガラスだが、反射率が12%ほどあることからエネルギーロスが発生しており、反射を抑えていかに入射率を高めるかも課題となっている。
開発された太陽光パネル用コーティング剤は、10nm以下の複数のシリカ粒子と2nmの酸化スズと溶媒としてのエタノール、水などからなり、無機100%のシリカバインダーが持つ高透明、常温硬化乾燥性、強密着性、高耐候性、超親水性といった特性に、帯電防止による汚れ防止機能と低屈折機能を加えたものとなっている。同品を3㎜のフロートガラスに塗布すると低屈折効果によって可視光の透過率が5%以上アップする。これにより、中国や台湾のパネルメーカーの実験では、発電量が2.2~3.4%アップしたとの結果が得られた。
帯電防止に関しては108オームの表面抵抗値(ガラスの場合1011~1012オーム)を示し、砂や埃の付着を大幅に減少させる。また密着性は0.4μmのアルミナ微粒子による2000回転ポリッシャーによる10分研磨やクルマのゴム洗車機を10回通しても剥離しない耐久性を持つ。
こうした太陽光パネル用コーティング剤を均一な薄膜に塗布するために、都ローラー工業は平滑な常温ダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングを施したドクターロール(ゴムロール)を持つナノコーターを開発している。このドクターロールによって太陽光パネルのガラスに塗布されたコーティング剤は、最も発電効率の良好な膜厚80~90nmに成膜され、光透過度は8%アップの94%程度に向上している。
電力供給がいまだ安定せず、また今夏から全量買取制度が始まる日本は、海外勢が注目する太陽光発電市場でもある。パネル生産世界シェア6位のカナダのカナディアン・ソーラーでは、2013年に東北地方で15万kW規模の太陽光パネル工場を稼働させる計画を進めている。海外勢も含めた国内メガソーラー市場で低コスト化を売りに参入する海外勢に対抗するには、上述のような材料・表面改質技術など我が国の誇る技術を適用し、発電効率を最大限に高めつつ、長期メンテナンスフリーなど信頼性向上を図ることが、ますます必要となってきている。