時速350kmのefSET(提供:川崎重工業) 鉄道車両はCO2排出量が少ない大量輸送手段として、世界的にその重要性が見直されている。自動車や航空機による輸送を鉄道や船舶による輸送で代替する「モーダルシフト」が進展し、国土交通省では2005年に38.1%だったモーダルシフト化率(500km以上の産業基礎物資以外の雑貨輸送量のうち、鉄道・船舶で運ばれる輸送量の割合)を2010年度までに50%に引き上げる目標を掲げている。
特に都市間移動の主要交通手段として、時速250km以上の高速鉄道の導入が検討され、現在米国、ブラジル、ロシア、インド、ベトナムなどが具体的に新規建設計画を進めている。今後20年ほどの期間に世界で1万km前後の高速鉄道路線が増設される予定で、これに応じた高速鉄道車両の需要が見込まれ、高速車両用の軸受の開発競争が激しくなってきている。
鉄道車両用軸受には、モータ(主電動機)に使用される主電動機用軸受、モータの出力を車軸に伝える駆動装置に使われる駆動装置用軸受、車体重量を支える車軸軸受がある。これら軸受は、いずれも鉄道の走行に大きく関わる基幹部品として高信頼性が要求される一方、メンテナンス周期の延伸が求められている。
車軸用軸受は、軸を直接支持し、また線路樹脂製保持器を採用した車軸用軸受(提供:NTN)からの振動が直接伝わる過酷な環境下で使われ、かつ転がり疲れ寿命の長寿命化が求められている。そのため欠陥につながる介在物の少ない高清浄度鋼が使用されている。また高速化に伴うシール摺動部の発熱を抑えるため、軽接触タイプなどの低発熱シールが使用されている。潤滑寿命の延長からは、封入グリースの改良とともに、従来の鋼製保持器から海外メーカーで一般的な樹脂製保持器を採用して摩耗粉を抑制している。
グリースポケット形状を工夫した主電動機用軸受(提供:日本精工) 主電動機のブラシレス化に伴い唯一の摺動部品となった主電動機用軸受では、その寿命が主電動機のメンテナンス周期を左右するようになっている。主電動機軸受には60~90kmで中間給脂が行われているが、120万kmへのメンテナンス周期延伸のニーズに対し、長期グリース補給を維持できるグリースポケット形状などの工夫がなされている。主電動機内を流れる電流により転動体と軌道面接触部が溶融する電食を防ぐため、セラミック製の転動体を用いたり外輪に樹脂やセラミック被膜を施すなど、絶縁対策がとられている。
ところで、鉄道車両用軸受に関する規格は、欧州委員会の「欧州高速鉄道ネットワークの相互運用性に関する規格」に基づいて、鉄道車両用車軸軸受に関する規格「EN規格」が制定されている。欧州各国はもちろん中国市場で標準採用されており、このEN規格に準拠した鉄道車両用軸受の開発が進んでいる。
鉄道車両では、カナダのボンバルディア、ドイツのシーメンス、フランスのアルストムがそれぞれ世界シェア20%近くを持ちビッグ3と言われる一方、日本企業は合わせて10%程度のシェアだが、急追すべく海外に活路を見いだそうとしている。新幹線以来の高速車両開発で培った車両および軸受の高信頼性技術が、世界市場でますます活躍していくことを期待したい。