第67回 国際ロボット展に見るメカ技術
日本ロボット工業会と日刊工業新聞社は11月25~28日、東京・有明の東京ビッグサイトで、国内外の産業用・民生用ロボットと関連機器を一堂に集めた「2009国際ロボット展」を開催した。今回のテーマは「RT 次代への挑戦-Challenge for the next-」で、開催規模はIR(産業用ロボット)やSR(サービスロボット)、RT(ロボットテクノロジー)などのメーカーおよび大学・研究機関など、192社64団体856小間。
産業用ロボットの課題として、わが国生産拠点の海外流出に歯止めをかける生産性の向上、つまり加工・組立て作業の自動化率の向上が挙げられる。こうした点で今回注目を集めたのが、パラレルリンク機構を採用した小型組立てロボット「ゲンコツロボット」だろう。4軸タイプは手首軸の先端回転軸は、3000°/secの高速回転動作が可能で、掴んだ部品の向きを瞬時に切り替えることで、部品の整列や実装を高速に行う。6軸タイプ(手首複合3軸)は、3軸手首を持つ6自由度構造を実現、つかんだ部品の向きを変えたり、斜めに挿入したり、捻りを加えたりといった複雑な動きが可能になっている。
回転ジョイントとリンクにより機械を駆動するパラレルリンク機構の6軸加工機は国内でも1990年代後半に各社で上市されたが、(1)その構造から重力による変形の影響を受けやすく、特に稼動域の端近くで駆動する場合に送り駆動系と比べ運動精度は大きく劣る、(2)シリアル機構工作機械に比べ切削力などの外乱に対する剛性が小さいなどの理由から、現在一般の工場で稼動しているパラレル機構工作機械は極めて少ない。
これに対しゲンコツロボットでは、人間の手の動作と同じ柔軟な動作を行うことが可能で、携帯電話のように微細で複雑な電子部品から構成される機器の組立てにも柔軟に対応できるとしており、パラレルリンク機構の利点がロボットでは生かされそうである。
もちろん複雑な動きを必要とする作業ばかりではなく、単軸ロボットが活躍している場面は多い。ここでは作業性向上のため高速性や高精度のほかメンテナンスフリーといった要素も重要である。THKでは、ボール(およびローラー)リテーナ入りの直動案内とボールリテーナ入りのボールねじを組み合わせた電動アクチュエータなどを出展した。リテーナ(保持器)を組み入れたことで、ボールとボールとの接触を避け、低摩擦化による高速性や、摩耗の低減による高精度化や長寿命化などを可能にしている。
また、自動車の組立工場などで主流の多関節ロボットでは関節部分の回転速度とトルクのコントロールに減速機が用いられている。ナブテスコでは小型、軽量ながら剛性に優れ、過負荷に強いのが特長。このため加速性能がよく、滑らかな動き、正確な位置決め精度が得られ、ロボットの制御性を格段に向上させることができるコンポーネントタイプの精密減速機やそれをベースにして、サーボモーターと簡単に取り付けができグリースを密閉したギヤヘッドタイプ精密減速機などを出展した。
また、その関節部にはラジアル荷重、アキシアル荷重、モーメント荷重などの複雑な荷重がかかる。これに対し日本トムソンでは、これらの荷重をひとつの軸受で受けるべく、円筒ころを直交に配したクロスローラベアリングなどを展示した。
一方、介護や福祉など重労働や地雷処理など危険な作業を担うサービスロボットは、人間と強調して動く場面が多い。そこでISO13849のパフォーマンスレベルeと呼ばれる高い安全基準への合致も求められる。つまり人間をサポートするメカ技術のほか、人間に危害を加えることを避けるセンシング技術が求められる。
これに対し日本精工では、平地や傾斜面、多少の凹凸面での移動が可能な車輪型移動ロボットで、グリップを介して人の行きたい方向を察知し、進路上にある障害物を自律認識して回避しながら進むヒューマンアシストガイダンスロボットを展示した。また、これをサポートするため、不意の障害物に対する緊急回避を可能にするセンサ技術として近接覚センサ技術を、進路の状態を把握するセンサ技術としてリアルタイム円錐走査センサ技術を出展した。わが国の視覚障害者は約30万人で盲導犬を使いたい人が約1万2,500人いるのに対し、盲導犬の数は現在約1,000頭しかいない。日本精工ではこの技術を将来的に、車椅子、盲導犬や介護犬の代用などへの応用が可能な、人間をアシストする自律移動ロボットへとつなげたい考えだ。
そのほかTHKがボールねじ+リンク機構をを応用したロボットハンドを出展するなど、今回の国際ロボット展の出展では、メーカーが新規なロボットおよび要素技術を披露して来場者から適用の可能性を探ろうという意味合いも多かったようにうかがえる。わが国の生産力を向上させ、また人間をアシスト・サポートするロボット技術の今後の進展に期待したい。