第106回 わが国金型産業の競争力向上のビジネスモデルを
自動車向け金型国内2位の富士テクニカ( http://www.fujitechnica.co.jp )は9月17日、政府が出資する企業再生支援機構の支援により、同3位の宮津製作所から金型関連事業を譲渡する形で本年12月中に事業統合することを決定した。自動車向け金型でそれぞれ9.0%、5.2%の国内シェアを持つた富士テクニカと宮津製作所が事業統合することで、すでにタイ大手自動車部品大手メーカーのタイサミットの傘下にあるシェアトップ(同13.5%)のオギハラを抜き、自動車向け金型国内最大手メーカーが誕生することとなる。
富士テクニカと宮津製作所はともに自動車向け独立系金型メーカーとして、国内自動車メーカーはもちろん、ゼネラルモーターズなど米国ビッグスリーや欧州の自動車メーカーとも取引が多い。富士テクニカは北南米に、宮津製作所は欧州市場での売上比率が高く、今回の事業統合でも顧客基盤の補完という統合シナジーが期待される。しかし、今回の事業統合に至った金型業界の置かれた状況としては、北米市場や国内市場が低迷する中での国内勢による消耗戦の展開や、新興国の自動車市場が拡大する中での地場企業の金型事業への参入と価格競争にともなう金型製品価格のグローバルでの大幅な下落がある。
このため富士テクニカでは今回、外部からの資本の受入れを含む財務基盤の強化と、日本の金型技術を結集し技術優位性を生かした事業モデルを策定することにより、新興国の金型メーカーとの差別化と国内企業間の過当競争の解消を図ることが必要との判断から、ともに金型業界のトップメーカーである宮津製作所との事業統合を決めたもの。
金属やプラスチックなどの素材に圧力を加え特定の形状の部品に成型するのに使われる金型は、大量生産において製品の品質・性能・生産性を左右する重要な要素でマザー・ツールとも呼ばれ、金型産業は日本の代表的な基盤産業の一つに位置づけられている。わが国の金型産業は、世界最高レベルの技術力を背景に、自動車をはじめ国内外の製造業全体の競争力向上に寄与してきた。日本の金型なしには車が作れないと言われた時代もあったが、1990年代以降の自動車・電機分野での海外生産に伴う産業空洞化の進む中、わが国金型産業は低迷し始めた。従業員20人未満の中小企業が9割を占めるという金型産業では、技術の流出により自らの商権を奪われることを懸念して、海外進出に二の足を踏む企業が多かった。
確かに金型の守るべき蓄積された技術は多い。金型の生産では一般的だった放電加工から近年、切削による直彫り加工の適用が進んでいるが、高速・高精度加工を実現するためのビビリ抑制や耐久性向上などの工具技術、微小送り・位置決めの直動案内技術や5軸制御などの工作機械技術などが用いられている。また金型には、生産効率に関わる長寿命化や製品品質に関わる精度の維持といった要求から、耐摩耗性や耐焼付き・凝着性、離型性、耐熱性、耐疲労性など様々な表面特性が求められる。富士テクニカでもたとえば、自動車メーカーの省燃費化を目的とした軽量化のため、薄くて強度が出る高張力鋼板を成型するための高硬度な金型を作るべく、金型の摩耗を防ぐ皮膜を形成する溶射技術を使用条件に合わせて開発、自動車鋼板パネルを生産するメーカーでは摩耗による金型のメンテナンス頻度が減り、生産性を向上しているという。
さて、富士テクニカではこうした高い技術力を持つわが国の金型技術が新興国で価格だけによらない競争力を示すべく、国内工場に高い技術力・高い管理能力を集約させマザー工場としてさらなる強化・発展を図りつつ、中国やインドネシア、マレーシアなど海外製造拠点を早期に育成・強化し、グローバル・サプライチェーンの確立を目指したいとしている。新興国での現地生産により価格競争力を高める一方、国内拠点には研究開発機能を持たせ技術競争力を高める考えだ。
今回の富士テクニカと宮津製作所との事業統合に対して経済産業省では、(1)わが国が優れている品質・納期管理能力に加え、新興国に勝るコスト競争力を構築し、持続性ある雇用基盤の構築と、着実な再生が進展すること、(2)経営統合後の会社が、わが国を代表する競争力を身につけ、飛躍的に発展することや、他の金型企業ひいては他のものづくり企業においてもこうした取組みが進み、わが国ものづくりの競争力の向上、さらには、日本経済の成長につながることを期待していることを、企業再生支援機構に対し意見している。わが国で生まれ築き上げられた高い金型技術が、今後も世界の産業の生産を支え続ける、そんなビジネスモデルを金型業界に示していくことを今回の事業統合の成果として期待したい。