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第105回 インプラント医療機器を支える表面改質技術

提供:瑞穂医科工業提供:瑞穂医科工業 経済産業省では先ごろ、「平成22年度医療機器分野への参入・部材供給の活性化に向けた研究会」を開催、本年度の活動を開始している。

 世界的な高齢化が進展し医療機器市場の大幅な拡大が見込まれる中、2007年4月には文部科学省、厚生労働省および経済産業省によって「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」が策定され、また2009年12月には「新成長戦略(基本方針)」が閣議決定され、ライフ・イノベーションによる健康大国戦略として、医療・介護・健康関連産業の成長産業化が謳われるなど、医療機器産業の活性化はわが国の成長において重要な役割を担っている。

 わが国は世界に誇る優れた科学技術やものづくりの力を有し、近年そうした高度な工業技術を活かして医療機器産業への参入を目指す中小企業の動きが活発化してきている。一方で医療機器産業は薬事法をはじめ法律・制度の影響を大きく受ける産業で、また、国際的な規制や品質管理の問題など、医療機器分野への参入には高い障壁があるとの指摘もあり、医療機器産業への参入を促す環境整備が求められている。さらに、医療機器のリスクに対する懸念から、部材供給者が医療機器、特に埋込み(インプラント)型治療機器を中心とする医療機器への部材供給を躊躇しているとの指摘は顕著で、こうした部材供給問題も医療機器産業の活性化の阻害要因の一つとなっている。

 こうした指摘に対し経済産業省では2007年度にインプラント型の医療機器などに対する材料や部材の提供を活性化するための方策について、関係業界と共同で検討を開始、2008年度には、現状把握とともに対策の基本的方向性について検討するために、「医療機器分野への参入・部材供給の活性化に向けた研究会」を立ち上げた。本年度は同研究会を継続開催するとともに、医療機器分野への参入方策および部材供給の活性化方策を検討する二つのワーキンググループを立ち上げ、具体的課題の抽出および対応方策に関する議論を深めたほか、医療機器産業の活性化および医療機器産業に参入する中小企業の支援を行う全国の医療機器クラスターを支援するための枠組み構築に向けた活動を展開した。

提供:瑞穂医科工業提供:瑞穂医科工業 整形外科で使用されるインプラント製品である人工関節で最も多い股関節でも、そのほとんどを海外メーカーが占めている。人工股関節は、生体適合性が高く耐摩耗性・低摩擦性に優れる超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)製のソケットと、コバルトクロム合金や各種セラミックスなどでできたヘッドとの組合わせからなり、市場で多いのは、メタル・オン・ポリエチレン(コバルトクロム合金などメタルのヘッドとUHMWPEのソケットの組合わせ)だが、瑞穂医科工業では国産技術として潤滑性を持たせたメタル・オン・メタルのシステムを手がけている。メタル材料としては耐摩耗性に優れたコバルトクロム合金が主だが、コバルトイオンの溶出を防ぎつつ生体適合性と潤滑性を高めるコーティング技術として、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)など様々なコーティングを適用する研究が行われているという。

 しかし人工股関節に要求される寿命30年という長期使用を考えた場合、コーティングの密着性低下による耐久安全性の劣化が懸念される。そこで、微粒子を圧縮性の気体に混合して高速衝突させるという表面改質技術WPC処理を併用することでDLCコーティングの密着性を高める研究も産学共同で進められている。

提供:銀座大幸歯科提供:銀座大幸歯科 また、虫歯などで歯根がなくなった場合に使われる人工歯根というインプラント材料には、噛む力に耐える強度と耐食性、生体親和性に優れた素材が求められる。人工歯根としてはチタン合金母材に母材と同様なチタン材料をプラズマ溶射によって高密着力でコーティングされている。溶射によって表面多孔性構造(ポーラス)にすることによって新生骨が人口歯根表面ポーラスに侵入し、結合することが分かっている。


shot また同じ人工歯根の用途で、数~数十μmの二次粒子からなるハイドロキシアパタイト微粒子をショットピーニング装置により噴射して、人工歯根など生体内で使用されるチタン合金やステンレス鋼などの表面に埋入させて濃化層を形成させ、表面の生体親和性を高める試みがなされている。

 こうしたわが国の高度な工業技術をインプラント製品に適用する上で、厚生労働省の承認を得てわが国のインプラント市場を拡大するための明確な評価基準の確立が求められ、現在、インプラント製品の評価法をJIS化する動きが広がっている。わが国の医療機器市場のさらなる拡大のためにも、生体材料のJIS規格化をすすめていくとともに、上述の表面改質技術などにより安全性が高められたインプラント製品の仕様の明確化と安全性の情報発信の強化がますます求められている。