第103回 ACTA構想に技術製品の安全信頼性確保を期待
経済産業省( http://www.meti.go.jp )と外務省は8月16日~8月20日、米ワシントンで開催された模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)の第10回関係国会合の概要を公表した。参加国は、我が国をはじめ、米国、EU、スイス、カナダ、韓国、メキシコ、シンガポール、豪州、ニュージーランド、モロッコ。今回の会合では、次回会合を本年9月に日本で開催し残された実質的論点を解決すること、署名の前に条約の全条文を公表することなどの合意をみた。
ACTA構想は、2005年に当時首相だった小泉純一郎氏が模倣品・海賊版拡散防止のための法的枠組みの必要性について発言したことを機にスタート、2008年6月には現在の11ヵ国が参加した関係国会合が開催、条文案をベースとした本格的な議論が始まった。そうした経緯からも、今回の会合でも、わが国がACTAの早期実現を目指し、今後も関係国との議論を積極的にリードしていく姿勢を示した。
模倣品・海賊版による被害は世界で年間80兆円に上り(世界税関機工および国際刑事警察機構資料より)、国際貿易に限定しても20兆円以上に達する(OECD資料より)という。ACTAが指摘しているのは、「模倣品は安全性や耐久性に問題を抱えているものが多くあり、こうした模倣品は誤って購入した消費者に危害を加える上に、企業の信頼を損なうおそれがある」ということである。模倣品が引き起こすおそれのある被害と商品分野の例として、加工精度や材料の品質が低劣なことによる装置・部品の故障・破壊の被害をもたらすベアリングや自動車部品を挙げる。
実際にベアリングの分野では1990年代の終わりから、ブランド名を使用することでメーカー品と誤解を招きかねないようなベアリング製品がアジア、中近東、中南米、アフリカなどに多数流通、問題化してきている。これに対して、日本ベアリング工業会では、「こうした偽造品は、わが国ベアリングメーカーの知的財産権を侵害するばかりでなく、品質面で問題があるケースも多い。これらを使用した自動車や電気製品などは早期破損に繋がる可能性が高く、消費者や工場の作業者などを危険にさらすことになるほか、機械の突然停止による生産効率の低下、メンテナンスコストの増大など経済的な損失を招くことも少なくない」との危惧を表明、不正商品の生産拠点があると思われる中国に2000年11月末に第1次ミッションを派遣、以来2008年までに第8次ミッションを派遣し、中国政府機関に対して、不正なベアリングによる身体、生命への危険性を訴えながら、その製造・販売の撲滅に向け取締りの要請を行うなどの対策に努めている。
こうした努力が結実して海外の偽造品に対する抑止効果を発揮、偽造品の流通量は減少に向かってきていたが、2008年後半からの世界同時不況を契機に大量の在庫が発生したため、再び偽造品の製造が復活し始めたという。
一方、タイでは2005年ごろからタイ政府の強力なバックアップのもと、偽造品対策を始め、中国同様ミッションを派遣し、日本ベアリング工業会が現地で対策委員会を設け、偽造品の識別方法を伝授するなどして水際対策を強化、当時市場の20%を占めていた偽造品の流通を現在ではかなり低いレベルにまで抑えこんでいる。しかし、今なお中国からの偽造品流入ルートは存在し、タイにおいても、再び偽造品の流通が増えることが懸念されている。
日本ベアリング工業会では、「低価格が売りの偽造品は安価で劣悪な原料や部品が使用され、また製造現場から輸送に至るまでの品質管理がまったくなされていない。わが国製品の権利侵害を訴えるよりも、“偽造品は品質がまったく保証されていないため、ベアリングのユーザーにとって危険きわまりない”ということを前面に訴え偽造品対策に取り組んできた。これからも取組みを強化していく」方針だ。
こうしたベアリング産業の共通の利害問題に対して、日米欧のベアリング工業会が協調して関連法規に基づきながら効率的に対処する目的で、世界ベアリング協会(WBA:World Bearing Association)が2006年9月に京都でWBA設立総会を開催、WBA定款が採択されWBAが設立された。WBAでもこの日本ベアリング工業会の取組みが評価され、偽造品対策が強化されてきている。
しかし、効果を上げてきているとはいえ、先述のとおり特に中国においては「いたちごっこ」の様相を呈しており、業界団体だけの取り組みでは限界があるだろう。世界的な法的枠組みがどうしても必要だ。ベアリングなど技術商品の安全性・耐久性を確保するためにも、模倣品・海賊版拡散防止条約、ACTA構想の実現に強く期待したい。