日本トライボロジー学会、2019年度学会賞を発表
日本トライボロジー学会(JAST)はこのほど、「2019年度日本トライボロジー学会賞」の受賞者を発表した。表面改質関連では、以下などが受賞した。
論文賞
「In Situ Raman Observation of the Graphitization Process of Tetrahedral Amorphous Carbon Diamond-Like Carbon under Boundary Lubrication in Poly-Alpha-Olefin with an Organic Friction Modifier」大久保 光氏(東京理科大学)、田所千治氏(埼玉大学)、平田祐樹氏(東京工業大学)、佐々木信也氏(東京理科大学)
近年、厳しい摺動環境に晒される自動車用エンジン部品の低摩擦化表面改質技術として、鋼材よりも大幅に硬く、無潤滑下で固体潤滑剤並みの低摩擦特性を持つダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜の適用が急速に拡大している。その一方で潤滑油中におけるDLC膜の潤滑メカニズムについては未だ不明瞭な部分が多く、DLC膜に対する潤滑油の潤滑メカニズムを解明するには摩擦界面におけるDLC膜の構造や表面に形成される反応生成物の経時変化を摩擦挙動とともに正確にとらえる必要があることから、研究グループでは開発したDLC膜や潤滑剤の構造解析に有効なラマン分光分析と摩擦試験機とを組み合わせたマイクロラマン分光in-situ摩擦試験機を用いて、境界潤滑下におけるDLC膜の摩擦・摩耗挙動に及ぼす有機系摩擦調整剤の影響について調べた。
in-situ摩擦試験機では摩擦面のラマン分光分析を摩擦係数の時間変化とともに測定できる。なお、DLC膜の構造変化はラマン波形の構造指標値(ID/IG)より求めた。その結果、有機系摩擦調整剤の添加はDLC膜の摩擦による膜構造の変化を抑制することを明らかにした。この原因については、摩擦力と関係する摩擦面の閃光温度とDLC膜の構造変化開始温度との関係から考察を行い、摩擦調整剤添加油の場合は摩擦面の閃光温度がDLC膜の構造変化開始温度に至らなかったため、構造変化の進行が抑制されたものと結論した。なお、潤滑油の組成にかかわらずID/IGとDLC膜の摩耗量の間には線型的な相関関係が確認された。
以上のことから、境界潤滑下におけるDLC膜の摩耗は、DLC表層のsp2構造の増加に伴う膜の軟質化が原因となって起こり、有機系摩擦調整剤の添加は構造変化を抑制することで摩擦低減効果を発揮するものと結論した。
マイクロラマン分光
in-situ摩擦試験機(写真提供:東京理科大学 佐々木研究室)
論文賞
「ベース油中CNxの摩擦界面その場反射分光分析による摩擦メカニズムの解明」岡本竜也氏・梅原徳次氏・村島基之氏(名古屋大学)、斉藤浩二氏・眞鍋和幹氏・林 圭二氏(トヨタ自動車)
CNx膜の低摩擦発現メカニズムの解明を目的に、研究グループでは、ベース油中でのサファイア半球とCNxとの摩擦時において、摩擦界面その場反射分光分析を用いて、CNx膜の表面粗さ、油膜とCNx膜の構造変化層のそれぞれの厚さおよび体積分極率を測定し、それらの摩擦係数に与える影響を明らかにし、得られた結果から、CNx膜の低摩擦発現メカニズムを検討した。具体的には、光学モデルとして雰囲気層にサファイア、その下に油膜、表面粗さ層、構造変化層、基板層にCNx膜として、得られた反射光スペクトルにフィッティングすることで、それぞれの層の膜厚、屈折率、消衰係数および表面粗さを算出し、さらにその値から構造変化層と油の体積分極率を推定した。
その結果、両面の粗さの減少と油膜厚さの増加から、摩擦初期に摩擦係数が急激に減少した原因として、境界潤滑領域の荷重分担比が減少したことが定量的に示唆された。また、構造変化層および油膜の体積分極率の増加により、油膜分子が構造変化層の極表面に吸着し、薄い吸着分子膜が形成されることで境界潤滑領域部分の摩擦係数が減少したことが、摩擦繰返しによる低摩擦発現の一つの要因であることが示唆された。
以上のように本研究では、摩擦界面その場反射分光観察が、表面粗さの減少に伴う潤滑形態の遷移や、構造変化層の生成に伴う体積分極率の変化をin-situでとらえ、摩擦係数に及ぼすそれらの影響を解明することが可能な重要なツールであることを明らかにした。今後、同ツールが摩擦界面における現象解明のために汎用的に活用されることが期待されている。
摩擦界面その場評価ピンオンディスク摩擦試験機
kat
2020年4月22日 (水曜日)