日本機械工具工業会、「令和2年度日本機械工具工業会賞」発表
日本機械工具工業会( http://www.jta-tool.jp )はこのほど、「令和2年度日本機械工具工業会賞」の受賞者を発表した。業界功労賞で坂戸瑞根氏(神戸製鋼所)、佐々木清吉氏(エフ・ピー・ツール)の2名が受賞したほか、技術功績大賞1件、技術功績賞2件、技術奨励賞3件、環境賞5件(環境大賞1件、環境賞1件、環境特別賞3件)が選定された。
業界功労賞■坂戸瑞根 氏(元神戸製鋼所)1934年生 86歳
【功績の内容】
坂戸氏は平成元年5月、日本工具工業会副理事長に就任。2期4年の任期の間、日本工具工業会の発展並びに会員の融和等に尽力した。工業会の運営にあたっては、理事長職を27年にわたり運営してきた大和田理事長をサポートした。当時の工業会は生産額・出荷額において最盛期を経験、しかし、その後、バブル崩壊となるなど工業会の運営にも大変苦労の多い時期であった。また、神戸製鋼所工具事業のトップとして、平成3年に画期的な商品であるミラクルエンドミルの商品化に尽力した。ミラクルエンドミルが起点となり、それから生まれた各社の派生商品は現在でも我々工具業界にとって重要な商品の座を占めており、氏の功績は大きく評価される。企業を退職してからは、JICA等から発展途上国の技術指導のため、海外にも出かけ、氏の永年にわたる技術力・経験を基に、発展途上国の産業発展の支援にも貢献した。
■佐々木清吉氏(エフ・ピー・ツール)1944年生 76歳
【功績の内容】
佐々木氏は平成19年6月、旧超硬工具協会監事に就任、また統合した平成27年には引き続き日本機械工具工業会の監事を歴任、通算10年両工業会の監事を務めた。特に、平成20年秋のリーマンショック後は監事の立場から理事会において緊縮財政の必要性をいち早く意見具申した。その結果、平成21年6月就任した倉阪克秀理事長による会費並びに事業内容の10%削減が打ち出された。厳しい環境下、協会運営の大幅な見直しなどが断行された。その一方、会員の増加や地区会員懇談会、委員会活動の活性化など一連の成果を上げることにつながった。また、協会賞、『生悦住賞』、『新庄(陰徳の士)賞』の運用に対する適切な提言を行うなど会計方法の近代化と基礎を築かれる等、協会活動の振興発展に尽力した。
技術功績大賞「スミボロンバインダレス工具シリーズの開発」
住友電工ハードメタル 東 泰助、原田高志、久木野 暁
【新規性】
・独自の大容量超々高圧焼結技術(10万気圧以上)により、超微粒BL-CBN(粒径:数百nm)に加え、新開発の超々微粒CBN(数十nm)からなるBL-CBNの量産技術を確立した(世界初)。
・従来CBN工具比5~10倍の刃数となる超多刃BL-CBNエンドミル(例:φ5で16枚刃)の開発により、難削材で超高能率加工を実現した。
「クレセントラインバーの開発」
富士精工 松下宣哉、藤井章博、近藤浩徳
【新規性】
専用機加工では支持治具上の支持穴と工具本体外径との隙間量を極小にすることで支持穴中心位置と工具中心位置を適合させるが支持治具位置の精密なアライメント調整や隙間量の管理が必要である。
本開発品は加工対象物の両端の穴を支持穴とし遠心力を用いて円周方向に工具を密着させるため、支持治具が不要であり隙間量の管理もなく支持穴中心位置に対し正確な工具中心位置を実現できる。
「両面インサート式高送りカッタWJXの開発」
三菱マテリアル 萩原隆行
【新規性】
両面インサートの多くは、その対称性から上下面に対して垂直な外周面で構成されるが、高送り工具に必要とされる低切削抵抗やランピング加工角度が両立できない。本製品は業界初の上下非対称ねじれ凹逃げ面を特徴とし、二つの性能を両立した。同時に、荒加工に適した強固なクランプ機構と切れ刃強度を達成した。
「高能率加工工具『ST4-TFX』の開発」
日本特殊陶業 吉川文博、安藤巨樹、野﨑翔太
【新規性】
従来工具と比較し、ハイレーキなすくい角を有することで切削抵抗を低減することに成功した。高切込み時に発生する多量の切屑を制御可能な形状設計により安定加工と良好な加工面を両立した。加えて高切込み加工に対応するために、被膜は高いAl含有率で硬度を維持しつつ、軟質相である六方晶を敢えて析出させ、かつその割合を制御することで、潤滑性を向上させ切削抵抗を低減した。更にはこの六方晶の存在により被膜の耐溶着性、耐チッピング性を向上させることができた。高負荷加工に設計されたこれらインサート形状と被膜との相乗効果により高切込み加工でも安定加工が可能となった。
「アクアREVOドリルオイルホールの開発」
不二越 松本克洋、大野伸一郎
【新規性】
穴加工では穴の奥でドリルが回転すれるため、クーラントの流量、流速、方向性を可視化することが困難であった。流体解析と、コーナやシンニング部の摩耗進行メカニズムを解析することで、独自のオイルホール形状を導き出した。クーラントでコーナとシンニングを狙い撃ちした結果、冷却性能が向上し、摩耗進行を抑制した所に新規性がある。
「刃先交換式ボールエンドミルBR2P形の開発」
MOLDONO 永渕憲二 、小林由幸、木内康博
【新規性】
従来親刃・子刃2種類のインサートで使用する刃先交換式ボールエンドミルは従来もあった。しかし、インサートの拘束性を保つための貫通溝を設けると、最も切削抵抗のかかる切れ刃底面の溝に応力集中が発生して欠損する問題点があった。これを親子刃一体形のインサートにし、インサートの拘束性を維持する貫通溝を非平行として、最も切削力のかかる親刃側底面を非貫通溝にする工夫によって、インサートの拘束性を維持しつつ切削力のかかる切れ刃底面の応力集中を緩和したことに新規性がある。さらにねじれ切れ刃形状の採用により、切削抵抗を削減することができるため、加工能率の改善と長寿命化を実現できる。
「環境大賞」
京セラ
140点満点110.7点、米中の貿易摩擦がアジア全体に波及し、成長率が鈍化し各社、得点が伸び悩む中、得点率79.0%という高評価結果だった。環境マネジメントシステムに基づく高レベルの組織的な仕組みが構築されており、地球温暖化防止、廃棄物削減等、環境活動に積極的に取組み、改善の推進力も高いと判断出来る。これらの環境活動は、他社の規範となり、2020年度環境大賞にふさわしいと判断した。
「環境賞」(新設)
三菱マテリアル
1位には僅かに及ばなかったものの140点満点106点、京セラ同様に、米中の貿易摩擦がアジア全体に波及し、成長率が鈍化し各社、得点が伸び悩む中、得点率76.0%という高評価だった。近年、一部の企業にて環境大賞が独占される中、環境賞を新設し2位の企業に授与する事により、工業会全体の環境への取組のモチベーション向上に繋がると判断した。三菱マテリアルの環境活動は、他社の模範となり賞賛に値すると判断した。
「環境特別賞」
オーエスジー、タンガロイ、日本特殊陶業
3社ともに、廃棄物対策の取組について継続的な活動が顕著にみられ、2017年度実績より連続(3年)して廃棄物排出量を削減している。また、再資源化率においても2015年度実績より連続(5年)してほぼ100%を達成している。環境管理活動についても継続的な取組を実施し、ⅭO2原単位排出量も2015年度実績より連続(5年)して数値が安定している。他社の模範になるものであり、環境特別賞とする。