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「パリなのかテキサスなのか、一体どっちなんだ」と思わせるタイトルのこの映画は、乾いたライ・クーダーのスライド・ギターが延々と流れる、ヴィム・ヴェンダース監督のロード・ムービーである。

 20代前半の妻ジェーン(ナスターシャ・キンスキー)と幼い息子ハンター(ハンター・カーソン)を置き去りにし放浪する、ひげ面の初老の男トラヴィス(ハリー・ディーン・スタントン)は、テキサスをさまよったのちに倒れ、ジェーンからハンターを託された弟ウォルト(ディーン・ストックウェル)に車で連れ戻される。7歳になったハンターとトラヴィスの再会は初めギクシャクしたものだったが、次第に親子の絆を取り戻していく。ヒューストンの銀行からジェーンが毎月ハンターのために送金し続けていることを知ったトラヴィスは、ジェーンを捜しに、ハンターとともにロサンゼルスからヒューストンへとドライブに出る。

 作中、弟ウォルトはテキサスからロサンゼルスに戻る長距離ドライブを嫌い飛行機を使おうとするが、トラヴィスは子供のようにさんざん駄々をこねる。「だって地面を離れるじゃないか」と。弟が迎えに来るまではひたすら歩き、その後のレンタカー乗り換えでも同じ車にこだわり、もちろん自発的に旅立つとすれば車を買う。本作のタイトルの正解は、テキサス州の荒地であるパリ。トラヴィスの両親が出会った土地だと言い、やっと椅子が置けるくらいの土地を購入してあると言う。両親の思い出とのつながり。置き去りにしたロサンゼルスにいる息子ハンターとのつながり。そして家を出てヒューストンにいる妻ジェーンとのつながり。飛行機の揚力で地面を離れることは、トラヴィスにとって重力によって地面につながれた彼らとの絆が絶たれるような、身を切られる思いなのかもしれない。

 ところでトラヴィスがジェーンを捜すべくハンターと乗り込むのは、中古のフォード・ランチェロ。1959?1979年にわたり製造された、古きよきアメリカで好まれた2ドア、FR式ピックアップトラックである。近年はかの地でも環境保全の観点から大型車は敬遠されるようだが、ハイブリッド車や電気自動車で本作のドライブ・シーンがリメイクできるとは決して思えない。車は重たいボディーで、やはりずっしりと地面とつながっていなければならないのである。

 ヒューストンでジェーンを捜すトラヴィスとハンターが、トランシーバーで連絡を取り合う場面も出てくる。一般にトランシーバーは電話と違って送信か受信のいずれかしかできず、送受信の切り替えはPTT(Push To Talk)スイッチのオン・オフで行う。相手の声を確認してから、こちらの声を発信する。

 ふと、誰かとのつながりを確認したくなる作品であり、ライ・クーダーの音楽にのどの渇きを覚える映画である。