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第27回『時計じかけのオレンジ』

 本作は、アンソニー・バージェスの同名小説を『2001年宇宙の旅』のスタンリー・キューブリックが監督し映画化したものである。

 舞台は近未来のロンドンの都市。夜な夜な徘徊してはウルトラバイオレンスと強姦を繰り返すグループのリーダー、15歳のアレックス(マルコム・マクドウェル)は仲間の裏切りにあって逮捕され、14年の実刑判決を受け刑務所に送られる。だがその2年後アレックスは、2週間で社会復帰できるという政府の実験的更正プラン「ルドビコ式診療方法」の被験者に志願する。

 この治療法では、アレックスを椅子に縛りつけヘッドギアで脳波を監視し、「リドロック」という器具でまぶたを上下から引っ張り、まばたきできない状態のままウルトラバイオレンスや強姦、はたまたナチスによる処刑などの映画を日に2回見せるもの。しかもアレックスの崇拝するベートーヴェンの音楽がBGMで流れている。

 「自分の置かれた過酷な状況と目撃している暴力との連係を確立させ、犯罪性反射神経を抹殺する原理」という治療の結果、アレックスは生理的に暴力やセックスに嫌悪感を覚える体質にされる。女性の裸体はおろか、愛するベートーヴェンの第九を聞いても吐き気を催してしまう始末である。こうして、これまでの生きがいのすべてを失ったアレックスの悲劇が始まる。

 それにしても、まばたきを封じるリドロックというこの装置は、ある種の拷問である。まばたきは涙を送り出すポンプで、人は1分間に約20?30回程まばたきを繰り返し目の表面をリフレッシユさせる。涙は目を異物などから守りつつ潤し、目が傷つくのを防ぎ正常な機能を確保している。機械の潤滑油と同じである。ドライアイになるのは、パソコンなどに長時間向かって目を見開いたままで、涙のポンプ機能が働かず目の潤滑がなされていないためであろう。

 してみると、同じ映画でも感動的な場面が多い、涙を誘う映画のほうが、目には優しいのだろうか。この映画は名作ではあるが、その種の映画でないことは確かである。