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 スティング。このタイトルから若い方は、ロック・バンド、ポリスの元ボーカルのスティングをイメージするかもしれない。実際に彼はミュージシャンながら 『さらば青春の光』や『デューン/砂の惑星』、『ブライド』、『ストーミィ・マンデー』、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』など映画出演も多い。本名ではなく、アマチュア時代から蜂のような横縞のシャツばかり着ていたことから、スティング(蜂のように、ぐっさり刺す)のニックネームがついたという。

 本作も、イカサマ師たちが大掛かりな演出で相手に最後のとどめを刺す、最終章『スティング』(最後に、ぐっさり)からタイトルをとっている。

 世界的な不況の続く1930年代。暗黒街のメッカ、シカゴにほど近い下町で、ジョニー・フッカー(ロバート・レッドフォード)ら道路師と呼ばれる詐欺師は、通りがかりの男から金をだまし取る。実はこの金、ニューヨークの顔役ロネガン(ロバート・ショウ)の賭博の上がり金。翌日、ジョニーの恩師であるルーサーはロネガン一味の手で始末される。復讐を誓ったジョニーは、シカゴの娼婦館に住み込むルーサーの親友、ヘンリー・ゴンドルフ(ポール・ニューマン)を訪ね、ポーカー賭博と競馬に眼がないロネガンを破滅させる大芝居をたくらむ。

 本筋には関係ないが、ヘンリーの寝起きする娼婦館の中で、何と巨大なカルーセル(回転木馬)が動いている。回転木馬は、モーターなどの動力によって円盤を回転させ、円盤上の木馬をクランク機構で上下させる。木馬のメンテナンスはヘンリーの仕事らしく、宿のおかみさんに「木馬がガタつくから、ギヤを見ておいてね」と言われ、ギヤボックスに油を差す場面がある。その後、油で動きが滑らかになったのか、酔った女たちが回り続ける木馬に乗ってはしゃぐ場面が出てくる。

 ロネガンをはめるためだけの一度限りのドリームチーム。彼らはどこを目指し、どこに向かうのか。どなたも一度は耳にしたことがあるであろうスコット・ジョプリン作曲、マービン・ハムリッシュ編曲の軽快なラグタイム音楽『エンターテイナー』と相まって、めぐるめぐる回転木馬が、イカサマ師たちの人生を象徴しているように思える。ともあれ、いくつもの軽妙なトリックが演じられた後、小気味よいスティングが待ち受ける、愉しい作品である。