バラク・オバマ氏が第44代アメリカ大統領に就任した。世界同時不況の中、景気浮揚策で大きな期待がかかる。本作は世界大恐慌から日も浅い1931年の作品で、舞台となる世の中の景気は、やはりよくない。
職も住むところもないチャーリー(チャールズ・チャップリン)はある日、盲目の花売りの娘(ヴァージニア・チェリル)と出会う。妻と別れ自殺しようとしている富豪(ハリー・マイヤーズ)を助け懇意になり、その伝で花をまとめ買いしたりしたり、車で家まで送ったりしたものだから、娘に金持ちの紳士だと思われる。そんな中、娘とその祖母が家賃滞納で立ち退きを迫られていることを知ったチャーリーは、自力で金を稼ごうと、なぜか賭けボクシングのリングに上がり…。
やせっぽちでいかにも弱々しいチャーリーだが、レフリーの陰に隠れては相手に猫手パンチ、ぐるぐるパンチ…と、ちょこまか動き回っているうちに、ゴングを鳴らすロープが身体に巻きついてしまう。現在のゴングはスチールの鐘を真鍮のハンマーなどで鳴らすが、劇中のゴングはロープを引くと槌が鐘にぶつかって音が出る仕組みだろうか。そんなわけでチャーリーが動くたびに「カーン、カーン」と鳴るものだから、ストップ、ファイト、ストップ…の繰り返し。東北楽天のアトラクションで、マスコットの「カラスコ」をテコの原理で打ち上げ、上にあるゴングにぶつけて「カーン」と鳴らすというのがあったが、もちろんチャーリーのゴングとは比較にならない。こちらのほうが、動きがコミカルで数倍面白い。
不況で自分の生活もままならない中にあって、ホームレスの男と盲目の娘という袖すり合う二人が織りなす本作は、チャップリンが監督、脚本、主演、編集、作曲(テーマ曲「ラ・ヴィオレテーラ」)も手がけ、サイレントながら笑いと哀愁、愛と救いが描かれた一作である。