最近、「グリーン・ニューディール」という言葉をよく聞く。戦前の大恐慌時のニューディール政策にちなみそう呼ばれるが、「緑の内需」といった意味だそうである。米国のオバマ次期大統領は、今後10年間で15兆円を自然エネルギーやエコカーなどに投じて500万人の雇用を生み出すと提唱する。
EUでも2020年に自然エネルギーの比率を20%にする目標を立てる。英国では2020年までに風車7,000基を建設し16万人の雇用を創出すると報じている。実際、国連環境計画(UNEP)によると、風力発電事業だけで世界で30万人の雇用があるらしい。
風力発電の普及が遅れているわが国では、事業推進による雇用創出の効果はなおのこと大きいだろう。すでに本連載の第15回で報じたとおり、風力発電機は羽根で風を受けてロータを介して主軸が回転、その回転速度を増速機により発電可能な回転速度まで増やし、発電機により発電する(誘導発電機)とおり、過酷な条件でベアリングを含め多くのメカが活躍するシステムである。その普及・発展には、多分野の機械技術者によるところが大きいだろう。
わが国でもグリーン・ニューディールを意識した動きは出てきている。2009年度税制改正大綱では、「地球温暖化対策(低炭素化促進)のための税制のグリーン化」を掲げ、自動車関係諸税の見直しによる低炭素車の普及拡大を盛り込んでいる。「低公害車・低炭素車のうち、2009年4 月1 日?2012 年4 月30 日までの間に新車に係る車検を受けるものについて、自動車重量税の減免措置を講ずる。また、同期間に初回の継続検査等を受ける低公害車・低炭素車についても、自動車重量税の減免措置を講ずる」というものだ。
こうした背景もあり、電気自動車(EV)の開発や試験運用も進んでいる。たとえば三菱自動車では、電気自動車「i MiEV(アイ ミーブ)」を東京電力、九州電力、中国電力、関西電力、沖縄電力、北海道電力、北陸電力といった複数の電力会社や、北陸3県(福井、石川、富山)、神奈川県といった地方自治体と実証走行試験を実施、先ごろコンビニエンス・ストアのローソンにも試行配備している。三菱自動車では、2009年夏の国内市場投入に向け開発を進めているという。
同EVは、現在主流のガソリンエンジン車とは機構がまったく異なる。エンジンの代わりに小型の永久磁石式同期モーターを搭載、変速機を持たずにモーターから駆動輪(後輪)までドライブトレインが直結している。モーター特有の速い応答性を生かし駆動輪のスリップ制御を行い、減速時のエネルギーを回生ブレーキにより回生するため、減速回生時のスリップ率も制御し、加速域から減速域まで高い安定性を確保している。開発されたEV用リチウムイオン電池では、10・15モードで130kmの走行が可能で、さらに航続距離延長を狙う。いずれもガソリンエンジン車とは違うコンポーネンツを積んでいる。現状ガソリンエンジン車による省燃費化の開発も活発に進められており、EVが上市されたからといってガソリンエンジン車の市場が経済の要因を上回って急激に縮小することは考えにくく、これまでとは違う自動車および自動車部品の市場が創出されると考えても、間違いではなかろう。
年初から、主だった産業における生産・販売見通しの縮小などのニュースが取りざたされているが、今こそ自社の位置づけや得意とする技術を再認識しつつ、時流を見ながら今後の事業展開をじっくりと見据える好機だと考える。蓄積してきた技術が新しい産業の台頭によって完全に駆逐されることはないと信じる。また駆逐されることなく新しい産業でも重用され続けるよう、保有技術の研鑽と進化に努めたい。