第140回 SURTECH 2011にみる環境対応表面改質技術
「SURTECH 2011表面技術総合展」が7月13日~15日、東京・有明の東京ビッグサイトで開催、電気めっきや無電解めっき、PVD(物理気相成長)やCVD(化学気相成長)などドライコーティングといった、各種表面改質の最新技術が広く紹介された。
環境保全・省エネと機能の両立を目指すめっき技術
環境負荷物質として6価クロムの使用が規制される中、6価クロムめっきに替わる表面改質技術が模索されている。その優れた耐食性と高硬度から6価クロムが多用されてきた航空機分野では、すでに高速フレーム溶射などの適用が始まっているが、めっき業界もただ手をこまねいているわけではない。
上村工業では、後処理なしで6価クロムを上回る耐食性と硬度を持つ、6価クロム類似の光沢白色系クロムめっき「ユープロ クロム CLH‐1」を出展した。航空機での適用をにらんでであろう、融雪塩への耐性も6価クロムめっきより高いという。また、6価クロムめっきに比べ耐食性は劣るものの、3価クロムめっきは、安全性、ミストの少量性、排水処理の容易さ、均一の電着性、不純物除去の容易さなどから、6価クロムめっきの代替技術としての最有力候補とも言われる。同社では、めっき浴管理法を改善し、均一電着性に優れる3価クロムめっき「ユープロ クロム CTA‐3」も紹介した。
また、電力不足を反映してか、めっき析出のエネルギーを低減させる提案もあった。
日本表面化学では、浴温度20~40℃でのめっきを可能にしたため、冷却設備を省きエネルギーコストを削減するほか、一定時間あたりのめっき析出量が従来品の約1.8倍にするなど生産性を向上させた亜鉛‐ニッケル合金めっき「JASCOストロンNiジンクZN-208」を出展した。
日本カニゼンでは、ELV、WEEE、RoHS規制に対応した、無電解Niめっき用の後処理剤を紹介した。めっき全面への吸着被膜を形成し、水切り性・シミ対策に特に有効なタイプⅠ、めっきピンホール部を中心にした不動態皮膜を形成し、錆防止効果に特に優れるタイプⅡ、めっき全面への不動態皮膜を形成し耐変色性や防錆性に優れるタイプⅢの三つのラインナップを示した。
機能性向上で適用が広がるドライコーティング技術
金型や工具、機械部品などに硬質被膜を成膜し耐久性を付与し長寿命化を図るPVD、CVD、プラズマCVD(PCVD)などドライコーティング技術も出展された。
ユケン工業ではPVDの一種であるイオンプレーティング法を用いたセラミック被膜コーティングを紹介した。樹脂成形金型に被覆することで、一般的な樹脂成型金型用処理である同社の無電解ニッケル-フッ素樹脂複合めっきに比べて、離型性が同等に良好で、硬度が5~6倍程度と高い耐摩耗性を実現するという。
また耐摩耗性つまり耐久性を高めつつ、低摩擦つまり省エネルギー・省燃費を両立する被膜として、パーカー熱処理工業では自動車エンジン部品や舶用エンジン部品などへのダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングの適用を提案した。リニア・イオン・ソースとUBMスパッタ、FCVAソースの適切な組み合わせで適切な膜を成膜できる「Hybrid PVD System」では、摩擦摩耗特性に優れた多機能DLCコーティングの密着性を高め、コストパフォーマンスもよいという。
「使える表面改質新技術」を育てる
今回、展示会に合わせて講演会が開催、中でもドライコーティングをテーマとした講演が多数行われた。
その中で、「DLC膜の標準化」をテーマとした講演会は、自動車をはじめ適用が進むDLCへの関心の高まりからか、多くの関係者が参加し、ディスカッションを行った。標準化はDLC膜の分類基準を確立し、正しい被膜を選択しやすくすることで、DLCの適用を促す取組みである。
「表面改質、浸炭・窒化、高周波熱処理技術のロードマップ」と題する講演会で「表面改質とドライコーティング」をテーマに講演した東京都立産業技術研究センターの内田 聡氏は、「DLCは高機能性を付与するドライコーティング技術として早くから認識されながら、自動車分野で採用されてようやく注目されるといった具合で、適用がかなり遅れた。(DLCに限らず)使える技術は現場で積極的に使って、いかに使える技術を育てるかに心を砕くべきだ」と語った。氏は、小さい失敗を積み重ねることで、致命的な失敗を防ぐとも語った。そうした試行が繰り返される中で、技術の信頼性が向上していくということだろう。小ロット品からでも、新しい表面技術の適用を進めていこう。SURTECH 2011で展示された新技術が、早い時期に何らかの産業でトライされ、改善・育成されて、ゆくゆくは環境保全や機械の効率向上、ロングメンテナンス化など高機能化に役立っていくことに期待したい。