米国フロリダ州ケネディ宇宙センターから日本時間の7月9日に打ち上げられたスペースシャトル「アトランティス」が11日、地上400kmにある国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングし、搭乗員4人がミッションを開始した。1981年の初飛行以来、有人宇宙開発を支えてきたスペースシャトルは今回が最終飛行となる。
有人宇宙開発では、高真空環境での実験などを通して得られた技術が真空を利用する半導体産業などに転用されてきた。しかし、その技術を多く利用しているわが国においては有人飛行を米国とロシアに委ねてきた。近年では若田光一宇宙飛行士がスペースシャトル「エンデバー」でISSに赴き、船外実験プラットフォームと船外パレットを取り付け日本実験棟「きぼう」を完成させた。現在ISSで医学実験のミッションを薦める古河聡宇宙飛行士はロシアの「ソユーズ」に搭乗した。
「きぼう」の全体イメージ
若田さんが操作し船外実験プラットフォームの取付作業を行ったロボットアームは、「親アーム」とその先端に取り付けられる「子アーム」を動かすが、この潤滑には高真空などの宇宙環境から、地上で使われる一般的な潤滑油やグリースが使えない。そこで、たとえばロボットアーム関節に使われる、軽量・省スペースで1/160という大きな減速比を実現する宇宙用ハーモニック・ドライブ減速機では、低蒸発でトルク損失を軽減する宇宙用真空グリース・オイルが適用されている。これは、合成炭化水素油MAC(Multiply Allkylated Cycropentane)をベースにしたもので、特に高真空の半導体用途などに転用されている。
また一方で、宇宙機器に使われる材料は、-150~+200℃という温度サイクル、真空紫外線、10-3~10-5という高真空、原子状酸素、宇宙塵(スペースデブリ)といった過酷な宇宙環境にさらされることから、金属同士がくっついてモータや弁の軸が動かなくなるといったトラブルを引き起こすことがある。こうしたことから宇宙材料の耐環境性について、これまで、各種宇宙用材料を実際の宇宙空間で曝露して特性変化を観察する軌道上材料曝露試験が行われている。米国では1980年代から、わが国でも1990年代から材料曝露実験が実施されている。それらのデータが宇宙用材料の開発にフィードバックされてきているとはいえ、最近になってもISSの実用ソーラーパネルに使われるポリイミドの原子状酸素による破断事故などが報告され、さらなる材料の改善が求められている。しかし、スペースシャトルの今回の最終フライト以降は軌道上曝露材料回収のめどが立っていないという問題も指摘されている。スペースシャトルに代わるソユーズで回収可能な「小型の材料曝露パレット」の開発なども求められる。軌道上材料曝露試験を通じて、たとえば小型衛星「はやぶさ」の動力供給源である太陽電池パネルのヒンジ部軸受では、二硫化モリブデン(MoS2)焼成膜が適用されるなど、宇宙機器での固体潤滑の信頼性を実証し適用を拡大している。
近年、中国やロシアが独自で有人宇宙開発を進める中、「はやぶさ」で世界中から注目されるような独自の衛星技術を誇るわが国においても、米国やロシアに依存しない有人宇宙開発が必要となってきている。といっても、宇宙開発を一国のみで完遂することは難しい。ISSという参加国共有の研究開発ベースを最大限に活用できるように、わが国独自の有人飛行の推進を強く望むものである。