エネルギー分散型蛍光X線分析装置(提供:パナリティカル) 東京電力福島第一原子力発電所からの放射性物質の流出が広がるなか、被害を受けている福島県と近隣の自治体に対して、堀場製作所が環境放射線モニター100台を寄贈した。同製品は、同社が平成23年度からの中学校・高校の放射線学習導入に先駆け2009年に発売したもので、0.001~9.999マイクロシーベルト/毎時の放射線(ガンマ線)を検知、自然界や生活環境にある微弱な放射線から、その100~200倍程度の放射線までを1分で計測できる。被災者が正確な放射線の情報を把握し安心感を得られるよう、もてる技術の一端を提供した同社の支援活動を讃えたい。
同様に放射性物質の流出に関連して、分析技術も注目され、適用が進んでいる。
たとえば、さまざまな物質の元素組成の同定に使用する蛍光X線分析(XRF)がある。この手法は、各種コーティング層の厚みや組成の測定・分析のほか、潤滑油中の摩耗粉の分析などにも使われる。
左がEDXRF、右がWDXRFの原理(提供:パナリティカル) 蛍光X線装置は検出方法の違いから、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDXRF)と波長分散型蛍光X線分析装置(WDXRF)の2種類に大別されるが、そのうち試料から直接放出される特性X線の異なるエネルギーを測定できるエネルギー分散型蛍光X線分析装置が、短時間で正確に非破壊分析を行える手法として有望視されている。
たとえば、カドミニウム、鉛、水銀、ヒ素など環境負荷物質である重金属の非破壊分析でサブppmレベルの微量検出能力を持つパナリティカルのエネルギー分散型蛍光X線分析装置「Epsilon5」が、ヨウ素やセシウムなどのスクリーニング分析に使われている。国立環境研究所が頒布する環境標準資料NIES CRM No.9(海藻ホンダワラから調整した天然試料)を用いて、京都大学原子炉実験所が同X線分析装置によるヨウ素の感度測定を実施したところ、ヨウ素の検出下限値が0.64ppm(600秒)で、さらにノンスタンダード(F.P.)定量結果でも標準値との差が相対値で4.1%となり、スクリーニング分析として測定時間、測定精度ともに実用性が実証されている。すでに各種の分析機関に納入され、風評被害が始まっている、被災地における食品などの放射能汚染の分析を目的に納入が進んでいるという。
海外においても、日本からの輸入製品に対して一時は警戒態勢にあったが、各種のスクリーニング分析によって安全性が確認されるとともに、欧州を中心に警戒感が緩みつつあるようだ。市場で実績のあるこうした計測・分析技術が放射能汚染の評価に転用され、風評被害の広まりを阻止し、日本経済を少しでも下支えしてくれるよう期待したい。