提供:NTN 4月7日にプロ野球・巨人の木村拓也・内野守備走塁コーチ(37)が「くも膜下出血」のため死去した。くも膜下出血は、脳を覆うくも膜と軟膜のすき間に出血を起こす病気で、多くは脳の動脈にできた動脈瘤が破裂して起こる。動脈瘤ができる理由や破裂する時期などが不明で難しいとされるが、脳ドックのMRI(磁気共鳴画像)やCT(コンピューター断層撮影)の撮像でまだ破裂していない脳動脈瘤が見つかることも少なくないという。そうした疾病の早期発見の技術のほか、各種の低侵襲手術も登場してきている。
くも膜下出血が起きてしまうと治療法がなく、再び破裂しないようにする手術がとられる。手術には、動脈瘤の根元をクリップで挟んで血液が入らないようにする「ネッククリッピング手術」と、カテーテルを使って動脈瘤の内部を詰める「血管内治療によるコイル塞栓術」の2種類がある。
脳動脈瘤クリップ(提供:瑞穂医科工業) ネッククリッピング手術で用いられる脳動脈瘤クリップは、生体親和性と耐久性・耐摩耗性に優れるチタン合金製などで、一生頭の中に入ったままでも問題がないといい、チタン合金製は手術後の検査、CTや特にMRIで画像が乱れることがない。血管を把持する部分の表面には血管から滑って外れる現象(スリップアウト)を防ぐために複数のピラミッド形状の穴が形成されているが、たとえば新潟大学・新田勇教授らはスリップアウトを防ぐのに最適な形状かどうかの検討を進めるため、レーザ加工機を用いて異なる種々の把持部表面を作製し,それぞれの摩擦特性を評価する研究を進めている。
コイル塞栓術 血管内治療によるコイル塞栓術では、太股の付け根の動脈から血管内に細いカテーテルを通し、先端を脳動脈瘤まで誘導する。このカテーテルを用いて脳動脈瘤の内部に極めて細いプラチナ製のコイル(マイクロコイル)を少しずつ詰めていき、内部を塞いで出血しないようにする。治療は手術室ではなく血管撮影室で行われ、開頭手術と異なり患者の体にメスを入れずにすむ低侵襲手術で、この十数年で普及してきた新しい治療法である。
適切な力でコイルを挿入するにはコイル挿入位置を決めるカテーテル先端の高度な位置決め技術が重要で、二人の医師でカテーテルとワイヤを操作することが多いが、操作する医師同士の意思疎通が非常に重要となるほか、医師一人で治療しなければならない場合もあり、これら課題の解決が求められていた。
提供:NTN これに対しベアリングメーカーのNTNでは先ごろ、名古屋工業大学大学院の藤本研究室、名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科の宮地准教授グループと共同で、先に開発した脳動脈瘤治療用センシングシステムに加え、一人の医師による脳動脈瘤コイル塞栓術を高度に支援する装置を開発した。
同装置では、一人の医師がフットスイッチにより連動したモータで指先では実現できない送りムラのない一定速でのワイヤ送り出しを行いつつ、両手操作でカテーテルを位置決めできる。ワイヤの送り出しにより変化するワイヤ挿入力は脳動脈瘤治療用センシングシステムで測定され、従来の視覚表示に加え、音程(聴覚)情報に変換されて医師に伝達される。この構成により、医師は術中に映し出されるコイルのX線画像を常に監視しながら、コイルとカテーテルを同時に操作できるという。
くも膜下出血の発症リスクが高いのは40~50代という働き盛りで、家族を支えわが国の経済を支える大切な層の一つだ。一人でも多くの人命を守るため、疾病の早期発見の技術やこうした低侵襲手術の技術がさらに発展していくことを期待したい。