提供:JR西日本 3月3日、山陽新幹線N700系「のぞみ56号」(博多発東京行き)の車内に白煙が充満、床下の点検により台車の一部から油漏れが発生しているのを認め、約7000人の足に影響が出た事故に関して、解体調査を実施したJR西日本は、台車のうち破損した部品は、モータの動力を車軸に伝達する歯車を格納するアルミ製歯車箱(ギヤケース)内で、小歯車の軸受が破損し、歯車箱内に金属片などが残っていたことを報告、この状況から、小歯車の軸受が破損したことにより、軸受のころが大歯車側に回り、内側からギヤケースを破ったものと推定している。同社では今後も小歯車の軸受の破損原因について、鉄道総合技術研究所などの協力を得て調査していくとしている。
駆動モータの動力を車軸に伝える駆動装置には小歯車と大歯車があり、高速仕様の円すいころ軸受が多く使用されている。特に小歯車軸受では車両走行時の振動の影響を受け、保持器各部に繰り返し速度が速い様々な応力が発生する。このため保持器の板厚を挙げて合成を挙げ発生応力を低減させる手法や、保持器表面に軟窒化処理を施し耐摩耗性と疲労強度を向上させる手法などがとられている。
また、歯車装置用軸受は、歯車箱に封入された潤滑油により油浴潤滑されるが、潤滑油の攪拌による温度上昇が大きく、内輪内径寸法の拡大による内輪クリープを防ぐため、軸受内輪に寸法安定化の熱処理が施されている。
この潤滑油は次の重要部検査か全般検査まで使用されるが、それまでの間、機械の回転や摩擦で生じる熱で劣化するほか、部品の摩耗による金属粉や外部からは水分や塵埃が混入し劣化する。そのため劣化の判断基準を設けて管理が行われている。一定期間走行してきた潤滑油を採取し粘度や混入した金属分の量などを調べ、ある値を超過したら交換することが望ましいと考える。磁石を用いた分析方法(フェログラフィー)により、油中に混入した軸受からの摩耗粉を捕集して調べることで歯車装置の状態を知ることができる。摩耗粉の量や形状により検査時に解体して調べる必要があるかどうか判断することも可能となっている。
JR西日本では、最終的な原因が判明するまでの間、以下の対策を実施するとしている。
車両の摩耗品ならびに車体などの状態および作用について行う検査で、2日以内に実施する仕業検査、車両の集電装置、走行装置、電気装置、ブレーキ装置、車体などの状態、作用および機能について、在姿状態で、30日以内もしくは走行距離が3万kmに至るまでに実施する交番検査で油の汚損が認められた場合には、従来の点検に加え、磁気栓の状況を確認するとともに、以後の交番検査ごとに歯車箱内の潤滑油中に混入した歯車・軸受などの摩耗粉を永久磁石に付着させて、良好な潤滑油状態を保つための磁気栓の確認(フェログラフィー分析)を継続していくとしている。
提供:鉄道総合技術研究所 先述の通り高速新幹線(350km/hレベル)の歯車装置で使用されるギヤ油の温度は、150℃前後と極めて高温になることと見られることから、鉄道総合技術研究所では近年、従来の鉱油系ギヤ油に代わり、高速新幹線の歯車装置用合成ギヤ油を開発した。合成油は鉱油と比較して熱・酸化安定性に優れるため、新幹線の高速化に十分に耐えうるほか、耐熱性だけでなく、優れた耐劣化性も備えているため、検査周期延伸による省メンテナンス化に寄与することも期待されている。
高速車両の過酷な使用条件に耐える高信頼性の軸受が、こうした長寿命の潤滑油技術のもとで破損したことについて、JR西日本には徹底的な調査に基づく原因究明とそれに基づき大量輸送の高信頼性を確保するべく安全対策のフィードバックを実施してほしい。