本作は、杜の都・仙台を舞台にした、伊坂幸太郎原作、森 淳一監督による透明感あるミステリーである。
遺伝子を研究する大学院生・泉水(加瀬亮)と芸術肌の弟・春(岡田将生)は、母(鈴木京香)の命日に、市役所勤めを終え庭で養蜂にいそしむ父(小日向文世)を訪ねる。その日、泉水は、とある壁に描かれた謎めいたウォールペインティングを消している春を見かけ、連れだったのだ。美的感覚が許さないという春は、仙台の町のあちこちに出現しているそのウォールペインティングを消して回っているという。後日、そのペインティングのそばで連続放火事件が発生していることに気づいた春は、泉に事件の謎解き、犯人捜しを持ちかける。それと期を同じくして、春の出生に関わる男が町に戻ってくる…。
遠心分離機イメージ 物語の中で、兄弟が仲良く蜂蜜を採取する場面がある。巣箱の中から、六角形の巣が見えないくらい表面にびっしりと膜をはった巣枠を何枚か取り出して、その膜をナイフでそぎ落とす。この膜は蜜蓋と呼ばれ、蜂蜜が完熟したころにミツバチが蓋をして密封保存するためのものらしい。六角形の巣があらわになった巣枠を数枚、遠心分離機内の回転ドラムにセットして、機械からせり出したハンドルを高速で回すと、ハンドルの軸先が、すぐば傘歯車で90°に直交したドラムの垂直軸を高速回転させ、遠心分離器のドラムの中で、遠心力により巣枠から蜂蜜が搾り出される。その後フィルタリングされた蜂蜜はバルブを開くや、飴色に流れ出てくるわけである。
張り巡らされた数々の伏線、絡み合った謎が解けたとき、仲のよい親子、兄弟の家族の愛は重力を超えるのか。ベストセラーながら映像化が難しいとされた、悲しくて優しい物語が、スリリングな展開でつづられていく。