先ごろ、デンマーク在住の女性が、がん治療開始前に冷凍保存した卵巣を再移植する方法で、世界で初めて第二子を出産した。がん治療のために妊娠が難しかった女性にとって画期的なニュースであったろう。本作は、そんな冷凍保存(コールドスリープ)の実験台になった青年が、50年の時を超えて目覚め、恋人を探すというラブファンタジーである。
1939年、アメリカ空軍の若きテスト・パイロット、ダニエル(メル・ギブソン)はある日、恋人のヘレン(イザベル・グラッサー)にプロポーズしようとするが、煮え切らないうちにヘレンは交通事故に遭い昏睡状態に陥ってしまう。意識が戻らない恋人を見るのがつらいダニエルは、「ヘレンが目覚めたら起こしてくれ」と友人に託して、友人と軍が秘密裏に進めていたコールドスリープ装置の実験台になると志願した。しかし、第二次大戦が勃発すると装置は忘れ去られ、放置されてしまう。1992年、ナット(イライジャ・ウッド)ら二人の少年は、偶然紛れ込んだ空軍の倉庫で埃をかぶったコールドスリープ装置を発見、開けてしまう。装置の中には、若者のままのダニエルの姿があった。50年の眠りから覚めたダニエルは、彼を父親のように慕い始めるナットとその母クレア(ジェイミー・リー・カーティス)の助けを借り、友人と恋人ヘレンの行方を追うが…。
さて、ダニエルをコールドスリープ装置に封じ込めた後、研究者たちはバルブを開いて液体窒素を装置内に導入、人体を-200℃の環境に置く。冷凍保存の手法としてはほかに人体から血液を抜き取り、凍害保護物質のような不凍液の類に置き換えるらしいが、ファンタジーなのでその場面は出てこない。真空ポンプで装置内を減圧するシーンはある。大気圧より低い圧力の気体で満たされた真空状態では、熱伝導はほとんどゼロとなる。人体の状態を維持するための断熱処理である。実際に人体の冷凍保存を手がけるクライオニクス研究所によれば、「こうした断熱処理は停電の心配もなく、まさにハイテク魔法瓶のようなもの」とコメントしているが、科学的考証もしっかりしているようである。
本作は単なるSFラブストーリーではない。軍とFBIがコールドスリープの成功サンプルとして追跡する中、ダニエルがB-25を操縦し振り切るといったアクション・シーンも、見どころの一つである。