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第75回『クール・ランニング』

 バンクーバー・オリンピックが熱い。フィギュア・スケートが特に注目されたが、ボブスレーでも日本チームが健闘している。本作は、1988年のカルガリー冬季オリンピックでの常夏ジャマイカ史上初のボブスレー・チームの奮戦ぶりを描いたスポーツ・コメディーである。

 1988年のジャマイカ。オリンピック出場を目指していた陸上短距離選手デリス(レオン)は、予選会の当日、隣コースの選手の転倒に巻き込まれて敗退、抗議に行った選考委員長の部屋で、陸上選手だった父親のもとに元ボブスレー金メダリストのアーブ(ジョン・キャンディ)がスカウトにきていた話を聞く。で、今はジャマイカに住んでいるという。是が非でもオリンピックに出たいデリスは、ボブスレーが何かも知らないまま、押し車レースのチャンピオンで脳天気な親友サンカ(ダグ・E・ダグ)を誘い、今なおジャマイカに住むアーブにコーチを頼みに行く。アーブは不正行為でメダルを剥奪された過去からいったんは断るが、彼らの熱意に根負けして引き受ける。予選会で転倒した張本人のジュニア(ラウル・D・ルイス)と同様に転倒に巻き込まれたユル・ブリナー(マリク・ヨバ)もメンバーに加わり、素人4人のボブスレー猛特訓が開始された。しかし練習するにしてもジャマイカに雪はない。グラススキーのように、急勾配の草原を手作りのそりで駆け下りていく。転覆したりコースを逸れたりの連続の後、ゴールタイム1分を切ることに成功、4人はカルガリーへと旅立った。

 「4人が車体を押して乗り込むまでのタイムは6秒を切らなくてはいけない」というコーチ・アーブの台詞がある。氷上のF1と言われるボブスレーでは16のカーブを持つ全長1,450mの「氷の滑り台」を滑降、最高時速150kmに達する。チームは100分の1秒のタイム短縮に向け、選手のスキルアップと車体の改良に挑んでいる。長野オリンピック日本代表チームにボブスレーの力学解析を行い,タイム短縮に協力した東北大学教授の堀切川一男氏は「蹴り乗り」というスタート方式に加えて低摩擦のボブスレーランナー(刃)を理論的に設計・開発し、ボブスレー日本代表チームを世界トップクラスに肩を並べるまでにレベルアップさせた。堀切川氏によれば、摩擦を10%減少するとゴールタイムが0.6秒短縮されるという。本作でも、車体をひっくり返してボブスレーランナーを磨いている場面がよく出てくる。

 本作は、カルガリー・オリンピックに初出場したジャマイカチームの奮戦記に基づいている。上述の堀切川氏は「ジャマイカチームにだけは勝ちたい」という日本チームの悲願を受け本作を参考にして研究した、という科学的な側面も持っている。

「ジャマイカの人間が冬のスポーツなんて」と地元でも嘲笑された4人だが、リズミカルに車体を前後に揺らした後、「クール・ランニング」(よい旅を!)のかけ声でスタートを切る姿からは、ジャマイカの風土が育んだレゲエのリズムが聞こえてくる。