第176回 新エネルギー資源として期待されるシェールオイル
石油資源開発は先ごろ、秋田県由利本荘市にある「鮎川油ガス田」でシェールオイルの採掘に成功した。シェールオイルは、地下1,800mにある頁岩(けつがん)層(シェール)と呼ばれる硬い粘土質の岩盤層を塩酸などを混ぜた酸性の液体で溶かして取り出した。シェールオイルは米国などでは商業生産が本格化しているが日本で掘り出されるのは今回が初めてで、自前のエネルギー資源として注目が集まっている。
シェールオイルは一般の石油や天然ガスのように地層の間に貯留しているわけではなく、硬い岩石の中に閉じ込められた形で存在するため、パイプで掘削しても自噴しない。そのため技術面、採算面で採掘が難しいとされてきたが、近年、水平坑井掘削・水圧破砕といった採掘技術が開発され、1バレル100ドル前後という原油価格上昇でコスト面でも採算が合う状況になってきた(シェールオイルの生産コスト40~60ドル)ことで、国内年間消費量の約100年分とも言われる埋蔵量の豊富な米国では生産が本格化してきている。
日本は比較的地層が新しいため、シェールオイルやシェールガスの埋蔵量が少なく採算的に採掘対象となる油ガス田に乏しいと見られていたが、石油資源開発は2012年3月から石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の支援を受けて調査研究に着手、鮎川油ガス田などの既存坑井を対象とした坑井刺激(酸処理テスト)の結果解析と総合評価、さらに秋田県全域における女川層のポテンシャル評価を主目的に実証試験を実施し、酸処理テストの実施により、今回シェールオイル採取に成功した。
硬いシェールには自然の割れ目が発達していることがあるが、その割れ目を石灰岩などで塞いでいることがある。そこで石灰岩を溶かすと同時に割れ目を拡大するために、鮎川油ガス田の地下1,800mの女川層に垂直にパイプを下ろし、塩酸で処理した流体(水)をポンプ注入した(ハイドロ・フラッキング)。注入した液体総量141.6kLに対して、高圧ガスを坑井内に放出し坑内液体の比重を小さくするとともにガスの膨張上昇エネルギーによって液体を地上に汲み上げる「ガス・リフト手法」により回収した液体量52.1kLのうち、31.1kLの原油が得られた。
この深い掘削深度でのパイプには、高圧や腐食に耐えるシームレスパイプが用いられる。シームレスパイプの製造工程の一つであるマンドレルミルでは、管を圧延して長く薄く伸ばし、管の厚みを製品近くにまで仕上げていくが、パイプ材料には耐食性、耐圧性の高いクロムやモリブデンなどを含有したステンレス鋼が多用される。
マンドレルミルで加工され熱処理されたこのシームレスパイプは、長いもので20m強になるが、掘進距離は今回の場合で1,800mに及ぶため、継手により採掘可能な距離まで延長することになる。長距離のため継手部分は、ねじれなどによって破損することのないよう、ある程度の自動調心機能をもった軸受で支持されている。軸受材料として腐食に強いステンレス鋼(外輪)とベリリウム銅合金(内輪)を組み合わせたような自動調心軸受などが用いられる。
今後、第2ステップの実証試験として、鮎川油ガス田内で新たに井戸を掘り、シェールオイルを効率的に採取する水平坑井掘削技術、水圧破砕技術を試す予定だが、垂直掘進、さらに水平掘進と距離が伸びるため、シームレスパイプおよび自動調心軸受の使用点数が増える。鮎川油ガス田のシェールオイルの埋蔵量は、2011年度に日本国内で生産された石油の総量とほぼ同じ約500万バレル程度で国内の石油消費量の1日強分に留まるが、秋田県全体のシェールオイルの埋蔵量は同約20日分に相当する約1億バレルに上るほか、新潟など他県でも埋蔵の可能性を秘めている。ハイドロ・フラッキング法は、小規模地震の誘発や塩酸含有流体の使用などによる環境負荷も懸念されているが、そうした不安要素への万全な対処や掘削コストの改善も含めシェールオイルの採掘技術を確立することで、現在0.4%に留まる石油自給率を改善する我が国の新しいエネルギー資源確保の取り組みに期待したい。