第96回 JX日鉱日石が誕生、総合エネルギー企業に求められる省エネ・環境対応の新技術
JXホールディングス傘下の石油事業会社である新日本石油とジャパンエナジーが7月1日に統合、下流の石油精製事業や新エネルギーなどを受け持つJX日鉱日石エネルギー、上流の石油開発を受け持つJX日鉱日石開発が誕生した。民族系石油元売り同士の大型統合は、1999年の日本石油と三菱石油の合併以来で、JX日鉱日石エネルギーの燃料油の国内シェアは35%、潤滑油の国内シェアは4割強となる。同社では成長分野として潤滑油や、パラキシレンなどの石油化学、エネファームなどの新エネルギーなどに注力する意向だ。
このうち機械全般に関わる事業は、機械を円滑に動かす潤滑油。「機械の血液」とも言われる重要な基盤技術であることは論をまたないだろう。
先述のとおり、JX日鉱日石エネルギーは潤滑油の国内シェアが4割強となるため、同27%程度の出光興産を大きく引き離すこととなる。2008年世界潤滑油販売ランキングでは10位が出光興産、12位が新日本石油となっているが、統合によりこのランキングにも変動がありそうだ。しかしこうした中、2位の出光興産でも2012年度の世界販売量を2009年度比3割増の110万kLに拡大する計画を打ち出すなど、明らかに競争が活発化してきている。
さて、第88回で出光興産がトラクションドライブという新しい無段変速機構を機能させるトラクションオイルという高機能潤滑油を手掛けていることを紹介したが、もちろんJX日鉱日石も、様々な先進潤滑油技術の開発に余念がない。
たとえば旧ジャパンエナジーでは、早くから代替フロン冷媒に対応する冷凍機油に強みを持つが、その合成油研究の流れであろうか、ハードディスクドライブ(HDD)でディスクを高速・高精度に回す流体動圧軸受(FDB)用オイルを手掛けている。FDBは、適正な粘度を持つ流体潤滑膜を形成することで軸と非接触で回転する。FDB用オイルには、粘度上昇でモーターの電流値が上がらないことや蒸発しないことなど多様なニーズに対応している。
最近では、やはりパソコンのファンモーターなどで、主軸の焼結含油軸受に含浸する熱可逆性ゲル状潤滑剤を開発している。通常の含浸油では軸受の運転に伴い高温化して蒸発、流出して軸受寿命に至る。これに対しゲル状潤滑剤では、高温の駅状態で含浸、常温では半固体状のため流出消耗しにくく低摩擦特性も付与するため、モーターの省電力化、長寿命化に貢献するという。
また、旧新日本石油ではかねてからエンジン油や駆動油など輸送機器用潤滑油に強いが、エンジンの省燃費化を目的にカムシャフト/バルブリフター間の摩擦を低減すべく適用が始まった水素フリーのダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングに最適なエンジン油(図では、「超低フリクション皮膜」と記述)を開発している。省燃費油で一般的なモリブデン系添加剤を含まずエステル系添加剤を用いることで、DLC被覆バルブリフターと組み合わせて約2%の燃費向上が得られている。すでに日産車60万台/年に採用、CO2排出低減に貢献している。
さらに自動車電装機器でも、日本精工と共同でオルタネータや電磁クラッチなど電装補機に使われる軸受向けに、ナノカーボン粒子を配合することで早期はく離(帯電による白色はく離)を防止、白色はく離寿命を10倍以上延長したほか、独自増ちょう剤により軸受温度180℃での焼付き寿命を従来比2倍に高めた長寿命グリースを開発している。いずれも日本トライボロジー学会技術賞を受賞している。
これら両者の保有する独自潤滑技術のシナジー効果で、さらに機械の省エネ稼働を実現しつつ環境に優しい潤滑技術の開発が促進されることに期待したい。
今回までJX日鉱日石エネルギーでは余剰な石油精製設備を削減、現在の精製能力の1/3にあたる日量60万バレルの削減を打ち出す一方で、JX日鉱日石開発では、石油開発日量20万バレル(現在比6万バレル増)を目標に掲げている。石油開発ではこの4月にBPが米メキシコ湾で原油流出事故を引き起こしているが、今回誕生した上流から下流までを手がける「和製メジャー」では、地球の有限な資源を有効活用する務めを担う総合エネルギー企業として、環境負荷が少ない資源開発に努めつつ、潤滑油や燃料電池、ヒートポンプなど省エネに貢献する技術の開発に努めてほしい。