提供:アップル 米国アップル社の新型マルチメディア端末iPadが先ごろ日本などで発売されたが、中国では早くから店頭やネット上で類似品が出回っている。おしなべて本物の最低価格499ドル(約4万5000円)より2割程度安いようだが、APadなる商品はなんと900元(1万2000円)程度からという激安ぶりだ。かの国では知的財産権(知財権)も何もあったものではないだろうと思いきや、知財戦略が急速に進んできているという。特許出願件数は米国が年に約40万件、日本が同30万件程度なのに対し、中国では約22万件に拡大してきている。欧州を抜き、日本に迫る勢いである。
知財は無体財産権といい、国が新規・進歩性のある発明と認める「特許」、同じく新規・創作性のある工業デザインとして認める「意匠権」、差別化された商品ブランドとして認める「商標権」など、工業所有権に分類される。工業所有権とは国が、一企業が独占することを認める権利で、独占禁止法においても正しい特許法の使い方なら独占して構わない、とのスタンスをとる。独占を認める背景には、特許権が20年で満了という時限効力の権利だという事情がある。つまり企業はこの期間内に研究開発、製品化に要した費用を回収しなくてはならない。売上ランキング上位にあった武田薬品が2009年3月期に純利益26%減の赤字に陥ったのは、主力薬品の特許ぎれで安価なジェネリック薬品に市場をさらわれたことが響いた。
このことが示すのは、知財が競争力を確保し、競合他社の市場参入を抑制し、価格競争に陥らず利益を向上させる役割を果たすということだ。特許が切れれば、たちまち価格競争が始まるのである。そこで知財を有効活用した経営戦略としては、事業戦略、研究開発戦略、知財戦略の三位一体で取り組む必要がある、と弁理士の相川俊彦氏(オリオン国際特許事務所)は言う。機械産業では当たり前のことだが、弛みない研究開発が不可欠であり、この研究開発の方向性を決める上でも知財を利用しようというわけである。
相川氏は、特許調査により自社のビジネスに影響する他社特許を把握することを勧める。「たとえば潤滑関連の特許をみると、油潤滑に関するものが約1万件、グリースは500件強、非油脂が300件弱、装置関連が3000件強、特殊条件下が50件弱、軸受など機械要素の潤滑は約1万5000件にものぼる。ここから、機械要素の潤滑や潤滑油を攻めるよりも、グリースや非油脂、中でも特殊条件下で使えるグリースや非油脂の研究開発のほうが参入が少なく、産業競争力が付けられそう」というわけである。機械要素関連のビジネスでは、小社『Bearing & Motion-Tech(BMT)』の特許情報もぜひ活用していただきたい。いずれにしても、知財戦略は、時機をとらえて、自社の優位性を出せるビジネスを選択、経営資源を集中させて、進めたい。
中国での日本製ボールベアリングの偽造品流通が依然問題になっているが、今や市場が拡大基調にある中国など新興国での事業展開・拡大は避けられない。しかし一方で、海外展開では製品・技術が模倣される危険性を常にはらんでいる。そこで一歩先を行く知財(特許)戦略が求められる。大手企業では早くから取り組んでいようが、知財戦略は中小企業にこそ必要な手段となろう。近年では知財を担保に融資を受け、事業を増強している例もある。技術優位性のある知財を保有していれば、中小企業にもグローバルで勝負できる。
世界市場においてわが国の製品・技術が価格競争に陥ることなく、産業競争力を高められるよう、知財戦略のさらなる推進を期待したい。