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 ルーヴル美術館は、かつて城塞から王宮となり、やがてフランス革命の惨劇を目撃し、ナポレオンの結婚式の舞台となった。美術館になってからは、生と死、愛と憎悪が渦巻く古今東西の美術品が、多数収蔵された。こうした血塗られたルーヴルの歴史から、亡霊がさまよい謎の怪奇現象をもたらすという「ルーヴル怪奇伝説(ベルフェゴール怪人伝説)」が伝わり、1926年にはサイレント映画化されている。

 本作は、1981?89年にガラスのピラミッドのエントランスを含む大改修工事「グラン・ルーヴル計画」のエピソードを新たに重ね合わせ、本物のルーヴル美術館に毎回閉館と同時に撮影機材が運び込まれ、実際に展示室や廻廊での撮影が行われた。モナリザやサモトラケのニケなど、スクリーンに映し出される美術品の数々はすべて本物という。

 さて、本作ではその改修工事中に、1935年にエジプトから持ち込まれたミイラ「ベルフェゴール」が発見され、高貴な身分のミイラはコンピューター断層撮影装置(CTスキャン)にかけられる。あるべきはずの護符がない。時を同じくして、電気系統の事故が頻発し、警備員や学芸員が幻覚を見て死亡する事件が続発、美術館に面したアパートに住むリザ(ソフィー・マルソー)も徐々に精神に変調をきたす。呪いにかかったリザは、アパートの地下にある秘密の通路から夢遊病者のようにルーヴルに侵入しては、ミイラの護符を探すのだが…。 

 本作ではミイラをCTスキャンにかけたことから怪奇現象が始まるが、本作が公開されたのち2005年、頭蓋骨の骨折跡から他殺説のあったツタンカーメン王のミイラが、「王家の谷」の地下墓の近くに駐車した特別装備のライトバン内のCTスキャン装置に入れられた。これより36年前に行われたX線による調査では、ツタンカーメン王の頭蓋骨内に骨片が見つかったが、骨片が頭部への殴打の証拠と断定できるには至らなかった。CTスキャンを使えば、ツタンカーメン王のミイラを構成する散らばった骨や覆いを3Dで詳細に見ることができる。15分間のCTスキャンで撮影された1700枚の写真から、頭蓋骨の骨折は生前にできたものではないとする調査結果が出ている。骨の破片は生前に砕けたものではなく、死後に脳を取り出して防腐物質の注入などを行うミイラ化の際か、発見時に骨が破損したらしいと結論付けている。死因は特定できないが撲殺ではない、と。

 それにしても、ツタンカーメンのミイラといい、「ベルフェゴール」のミイラといい、何度も現世に引っ張り出されては、さまよっても暴れても仕方がないような気がするが…。