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 雨で滑りやすいマンホールのふたには、滑りにくくするようにセラミックスの溶射を施して表面をあらしたりするほか、最近では、頂点に丸みをつけた三角すいの突起を表面に設けて滑り抵抗値を高めたものも登場している。本作『第三の男』では、一風変わったマンホールが効果的な舞台装置となっている。

 場面は第二次世界大戦後、アメリカ、イギリス、ソ連、フランスの4ヵ国により分割占領されているオーストリアのウィーン。アメリカ人作家ホリー・マーティンス(ジョゼフ・コットン)は、旧友ハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)に呼ばれ職を求めウィーンにやってきた。だが着いてみると、ハリーはすでに自動車事故で死んだという。ホリーは、英国のMPキャラウェイ少佐(トレヴァー・ハワード)からハリーが犯罪に関わっていたと聞かされ発奮、ハリーの恋人だった舞台女優のアンナ・シュミット(アリダ・ヴァリ)とともにハリーの死の真相を探ろうとする。警察には、事故にあったハリーを二人の男が運んだと証言されていたが、ハリーの宿の門衛の目撃では男は三人いたという。はたして“第三の男"とは…。

 その第三の男は、4ヵ国の領土に分断されたウィーンの町をマンホールからマンホールへ下水道をつたって行き来する。このマンホールのふたが実に芸術的!日本のマンホールのふたのように置いてかぶせてあるだけではない。ケーキをカットしたように四分割されていて、円周部分にヒンジがある。そこを支点にして、円の真ん中からそれぞれをはね上げるから、ひとつのマンホールにつき先端の尖った四つの三角が天を向くのだ!これはかなり物騒である。はね上げるときだって手を傷つけそうだし、この状態で大型トラックでも気づかずに通ろうものなら間違いなくタイヤがバーストするだろう。何の目的でマンホールのふたをこんな物騒な構造にしているのか、何とも気になるところである。

 グレアム・グリーン原作のアカデミー賞受賞のこの映画にはサスペンスあり、ロマンスあり、こうした逸品をはじめとする古都のさまざまな風物ありで、白黒を効果的に使った1シーン1シーンが見逃せない作品である。