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JAST、第19回 機能性コーティングの最適設計技術研究会を開催

1年 6ヶ月 ago
JAST、第19回 機能性コーティングの最適設計技術研究会を開催

 日本トライボロジー学会(JAST)の機能性コーティングの最適設計技術研究会(主査:岐阜大学・上坂裕之氏)は9月5日、「第15期 第1回(通算第19回)会合(オンサイト会議)」を開催した。

開催のようす

 

 同研究会は、窒化炭素(CNx)膜、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜等の硬質炭素系被膜および二硫化モリブデン等の固体潤滑被膜を実用化する上で重要となるコーティングの最適設計技術の向上を目指し、幅広い分野の研究者・技術者が集い、研究会での話題提供と討論や、トライボロジー会議でのシンポジウムの開催などを行っている。

 今回はDLC膜をはじめとする表面改質やナノ粒子による低摩擦化技術、接触部位における解析技術にフォーカス。上坂主査の開会挨拶に続いて、以下のとおり、2件の話題提供がなされた。

挨拶する上坂氏

 

「潤滑油添加剤MoDTCとの反応性を高めたDLC膜、炭素系ナノ粒子による低摩擦化の展望」馬渕 豊氏(宇都宮大学)…摩擦調整剤MoDTCとの反応性を高めるDLC膜の研究では、遷移元素であるNi を蒸着したDLC膜が反応性向上に有効として着目。ta-C膜にNiを蒸着した膜ではta-C膜に比べ摩擦係数が半減したことが確認されたほか、Ni蒸着ta-C膜のオージェ分析結果からは、Ni の蒸着により表層にMoS2の生成とそれを支持するFe3O4/Niの2層構造が認められ、NiがMoS2の支持層であるFe3O4の生成を促進する可能性があるとした。また、ナノダイヤモンド、フラーレン、酸化グラフェンなどの炭素系ナノ粒子による低摩擦メカニズムの研究では、①炭素系同素体のナノ粒子は、分散剤であるグリセリンモノオレート(GMO)との共存下で摩擦係数が1/10にまで低下すること、②その内訳としてGMOの効果が約7~8割を占めること、③GMO添加量の低下に伴い二次粒子径が増大し摩擦係数の増大につながること、④摩擦メカニズム解析として吸着サイト数NEBCを定義して整理した結果、各ナノ粒子の摩擦係数との相関が認められたが粒子の構造を超えた統一的な整理には至らなかったと総括した。

講演する馬渕氏

 

「スパッタ薄膜を用いた固体表面接触部の測定について」川口尊久氏(宇都宮大学)…従来の真実接触部の検出方法では困難だったメゾスケールの大きさの真実接触部について、弾性接触を含めて詳細に検出できる方法として、固体表面に数nmの厚さでスパッタ薄膜を被覆し、その薄膜が接触によって相手表面に移着することを利用し真実接触部を検出する方法を紹介した。ここでは、滑らかなガラス平面試料に金(Au)のスパッタ薄膜を、表面に数十nmRaの微小な粗さを持つ鋼球に白金(Pt)のスパッタ薄膜を成膜し、負荷荷重を変えて二面を押し付ける実験を行い、ガラス平面試料側の薄膜が鋼球側に移着した接触部の様子を光学顕微鏡とSPM(走査型プローブ顕微鏡)を用いて測定した事例を紹介。押し付け実験後の平面試料を光学顕微鏡で測定した結果からは、接触痕の全体像から、荷重の増加に伴い接触痕の接触した範囲の半径が大きくなっていくことが分かったほか、接触痕の中心部付近は荷重の増加に伴って微細に接触した個々の領域が外周部に比べてより大きくなっていることが、接触痕の外周部付近では個々の微細な接触領域が中心部に比べて小さく点在していることが分かった。また、SPMにより接触痕を観察した結果、個々の微細な接触領域が荷重の増加に伴って大きくなる様子や新たな接触領域の発生などの様子がより詳細に観察できた。

講演する川口氏

 

 講演終了後は、川口研究室、馬渕研究室、宇都宮大学分析センターの見学会が、それぞれ実施された。

 

川口研究室の見学会のようす

 

馬渕研究室の見学会のようす

 

宇都宮大学分析センターの見学会のようす


 

kat 2022年9月28日 (水曜日)
kat

トライボコーティング技術研究会、令和4年度特別研究会、第13回トライボコーティング・ドライコーティング合同研究会を開催

1年 7ヶ月 ago
トライボコーティング技術研究会、令和4年度特別研究会、第13回トライボコーティング・ドライコーティング合同研究会を開催

 トライボコーティング技術研究会(会長:理化学研究所 主任研究員 大森 整氏)は9月2日、東京都板橋区の理研板橋連携研究センターで「令和4年度特別研究会」を開催した。本研究会は、第13回となるトライボコーティング・ドライコーティング合同研究会を兼ねて、リアルおよびオンラインによるハイブリッド開催となった。また本研究会はマイクロ加工懇談会などとの同時開催となった。

 当日は、大森会長の開会挨拶に続いて、関連イベントの開催状況の報告ならびに講演概要の紹介がなされた。 

進行する大森 整会長

 続いて以下のとおり講演がなされた。

・「チタン合金およびNi基超耐熱合金切削時のコーティング膜損傷とその対策、超高圧クーラントについて」臼杵 年氏(東京大学生産技術研究所)…航空・宇宙・エネルギー産業向けの難削材切削加工のためのコーティング工具の開発を行っている。切削工具のコーティング技術と特徴の解説とともに、Ni基合金の切削加工時に生じるコーテッド工具のコーティング膜損傷の事例と分析結果が紹介された。その結果、コーティング膜損傷は、表面から1μmまでの表層でのせん断破壊に起因することが示された。さらに、コーティング方法によるコーティング膜損傷の原因には特徴的な違いがあり、特にドロップレットは破壊起点になり得ることから大きく影響を及ぼすとした。また、切削時のクーラント供給について、油剤は切削領域の周辺にしか侵入できず、熱源周辺部で熱を奪い刃先の冷却がなされるものの、潤滑膜による潤滑機構は考えにくいとの考えが示された。
 

講演する臼杵氏

 

・「ワイドギャップ半導体基板のスラリーレスダメージフリー研磨プロセス‐プラズマ援用研磨と電気化学機械研磨‐」山村和也氏(大阪大学)…新しい高能率ダメージフリー製造プロセスの研究開発の一環で、形を創り(Figuring)、表面を磨き(Finishing)、性質を変える(Functionalization) というF3プロセスとして、大気圧プラズマを援用した化学的無歪加工プロセスが提案されている。アプリケーションとしてワイドギャップ半導体基板である単結晶SiCウェハの仕上げ研磨へ適用され、プラズマ照射の援用によりスクラッチフリー、無歪状態の表面創成が実現された。また、GaNへの適用もなされ、良好な結果が得られた。続いて、焼結AlN基板の脱粒フリー研磨、単結晶ダイヤモンド基板の加工事例の紹介が行われ、スラリーレス電気化学機械研磨について紹介がなされた。
 

講演する山村氏

 

 講演に続いて、今後の予定、参画行事について紹介がなされた後、大森素形材工学研究室内の施設見学会が行われ、大気圧プラズマによる表面処理の試み、AI加工システムの基礎開発状況、ナノダイヤモンド含有砥石によるナノ表面加工について、現場での熱心な質疑と意見交換が行われた。 
 

見学会のようす

 

kat 2022年9月13日 (火曜日)
kat

オリンパス、米・ファンドに科学事業分野を売却

1年 7ヶ月 ago
オリンパス、米・ファンドに科学事業分野を売却

 オリンパス( https://www.olympus.co.jp/ )は、科学分野の製品を取り扱う子会社エビデント( https://www.evidentscientific.com/ja/ )を投資ファンドの米・ベインキャピタルに売却すると発表した。2023年1月4日を目途にエビデントの全株式をベインキャピタルに譲渡する。

 オリンパスは、内視鏡事業および治療機器事業を中心とした医療分野に経営資源を投入し、経営基盤の強化に努めている。また、医療分野と科学分野のそれぞれの事業特性に合った経営体制を確立することが各事業の成長と収益性の向上を加速させ、同社グループ全体の企業価値向上に資すると判断し、2022年4月に同社の科学事業をエビデントとして分社化した。

 エビデントが事業を手掛ける科学事業分野は、世界的に根強い需要に支えられている。ライフサイエンス分野を支える生物顕微鏡は学術・医学分野の研究開発市場、病理検査市場に加え、近年は創薬や不妊治療支援の需要の拡大を支えている。また、産業分野では、拡大する半導体市場や電子部品市場に向けた工業用顕微鏡や自動車・航空・ガスパイプライン・発電配電装置・金属・貴金属など、多分野に渡る製造・インフラ検査向けの工業用内視鏡・非破壊検査機器・蛍光X線分析装置を提供している。

 このような活況な市場環境の中、エビデントの事業の特性に合った機動的かつ柔軟な意思決定を可能にすることが、同社のさらなる成長・拡大につながると考え、エビデントの全株式をベインキャピタルに譲渡する結論に至ったという。

 オリンパスの竹内康雄社長は「ベインキャピタルにはエビデントの事業の価値と成長の可能性を深く理解していただいているとともにエビデントがグローバルな組織としての連携力と、積極的に最新技術を実用化する卓越した企業文化によって多様な顧客ニーズに応え、これまでオリンパスに貢献してきたことも高く評価していただいている。ベインキャピタルはエビデントにとって、その事業特性に応じた最適な事業環境を提供し、企業価値を持続的に最大化できる最適なパートナーであると確信している」と述べている。

 エビデントの齋藤吉毅社長は「エビデントはベインキャピタルの元で引き続き、革新的な製品・ソリューションを顧客に提供していく。これまでのノウハウを活用し、今後はクラウドを含むデジタル技術を活用したソリューションを拡充することで、研究や検査分野におけるワークフローの改善および顧客への提供価値向上に努めていく。より自律的な経営が可能になることで、アジャイル型の製品開発やオープンイノベーションを推進し、顧客の課題解決に向けた製品の展開スピードをより高められると考えている」と述べている。

 

admin 2022年9月2日 (金曜日)
admin

メカニカル・サーフェス・テック2022年8月号 特集「表面改質の試験・評価」8/25に発行

1年 8ヶ月 ago
メカニカル・サーフェス・テック2022年8月号 特集「表面改質の試験・評価」8/25に発行

 表面改質&表面試験・評価技術の情報誌「メカニカル・サーフェス・テック」の2022年8月号 特集「表面改質の試験・評価」が当社より8月25日に発行された。

 今回の特集「表面改質の試験・評価」では、ISO提案を予定している摩擦摩耗試験機を用いたDLC膜の耐荷重能評価の概要と評価結果の一例について、ユーザーがDLC被膜に関するISO規格の試験を行った後にその結果が適正であることをDLC工業会が確認する制度について、潤滑油介在下での硬質薄膜の摩擦摩耗特性評価で適用実績の多いトラクション試験機の概要と試験評価事例について、ソフトマター研究に役立つ評価・分析装置として利用されているモジュール交換式多機能摩擦摩耗試験機の概要と試験評価事例について、ベリリウム銅合金を真空構造材に用いた超高感度ガス分析装置の開発と適用について紹介する。

特集:表面改質の試験・評価

◇摩擦摩耗試験機を用いたDLC膜の耐荷重能評価・・・産業技術総合研究所 間野 大樹
◇DLC工業会確認マーク発行制度とその活用・・・DLC工業会 平塚 傑工
◇トライボロジー試験機を用いたDLCなど硬質薄膜関連の試験評価・・・島貿易 兒島 正宜 氏に聞く
◇多機能摩擦摩耗試験機によるソフトマター・コーティングのトライボロジー特性評価・・・Rtec-Instruments Tushar Khosla氏に聞く
◇ベリリウム銅合金を真空構造材に用いた超高感度ガス分析装置の開発と適用・・・東京電子 黒岩 雅英氏に聞く

連載

注目技術:表面清浄度の監視・制御技術・・・インテクノス・ジャパン

トピックス

厚地鉄工、ブラスト装置の拡販で2022国際ウエルディングショーに出展
産総研、傷が素早く自己修復する透明防曇皮膜を開発
高機能トライボ表面プロセス部会とドライコーティング研究会、合同研究会を開催

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admin 2022年8月25日 (木曜日)
admin

日本熱処理技術協会、10月13日、14日に2022年度 第2回熱処理応用講座を開催

1年 8ヶ月 ago
日本熱処理技術協会、10月13日、14日に2022年度 第2回熱処理応用講座を開催

 日本熱処理技術協会は10 月13 日、14 日の両日、対面参加(製粉会館5F 第2・3会議室:東京都中央区日本橋兜町15-6)およびオンライン参加からなるハイブリッド形式により、「2022年度 第2回熱処理技術セミナー-熱処理応用講座-」を開催する。テーマは「カーボンニュートラル社会へ貢献する工業炉・熱処理技術の進化」。

 申込締切日は10月3日で、以下URLから申し込みができる。定員は、オンライン参加が80名で対面参加が先着20名。参加費は、正会員36000円(税込)、維持会員36000円、非会員56000円(税込)。

https://forms.office.com/r/Y0v4aZaVhe

 内容は以下のとおり。

10月13日

・9:55~10:00「オンライン配信に当っての注意事項」日本熱処理技術協会 事務局

・10:00~11:00【特別講演】「カーボンニュートラルを巡る産業政策の動向」沼舘 建氏(経済産業省)…2050 年のカーボンニュートラルに向け、経済産業省では様々な政策に取り組んでいる。本講演ではこれら各種政策の動向を紹介するとともに、素形材産業をはじめとする産業界に期待することについて説明する。

・11:10~12:00「工業炉技術の発展と脱炭素化への取組み」加藤健次氏(日本工業炉協会)…本講演では、これまでの日本の工業炉の高効率化・省エネルギー技術の開発経緯をレビューするとともに、現在の課題と将来の脱炭素化社会に向けた工業炉の取組み内容を紹介する。

・13:00~14:00「高周波熱処理技術の現状と脱炭素社会に向けた期待」川嵜一博氏(応用科学研究所)…電気加熱の高周波熱処理はエネルギー変換効率が高く、CO2の直接排出量が少ない“ダブル-Eco(Ecological & Economical)”熱処理で、1個流し処理ゆえに品質ばらつきも少なく、今後の脱炭素社会でも有利である。他の表面改質と複合して新たな品質機能の発現も可能で、本講演では高周波熱処理技術の現状と期待について紹介する。

・14:10~15:10「自動車の環境対応に貢献する熱処理・表面改質技術」藤川真一郎氏(日産自動車)…自動車の環境対応として自動車の燃費向上と自動車製造におけるCO2削減の両面のアプローチが求められている。本講演では、新しい表面改質技術による自動車の摺動抵抗の低減や軽量化技術、高温真空浸炭技術による工場操業におけるCO2削減について紹介し、今後の課題に対応する熱処理・表面処理技術への期待を述べる。

・15:20~16:20「脱炭素熱処理・表面処理に対する開発動向のご紹介」中岡真悟氏(日本テクノ)…脱炭素社会、カーボンニュートラルの要請に対し、エネルギー多消費型の熱処理は鍛造、鋳造と同様に、厳しく変革を迫られている。そこで本講演では、これらの要請に応えつつ、省資源、省エネルギーかつ高機能を付与できる熱処理技術について解説する。

10月14日

・10:00~11:30「化石燃料の大量消費と環境問題を解決するための水素エネルギーキャリア戦略」赤松史光氏(大阪大学)…私たちが利用しているエネルギーの約9割は、石油、天然ガス、石炭などの化石燃料を燃焼させることによって生み出されている。しかしながら、近年、化石燃料の大量消費により地球温暖化などの地球規模の環境問題が起こっている。この問題を解決するために、太陽光、太陽熱、風力等の再生可能な自然エネルギーを用いて、化石燃料を代替する水素のバリューチェーンを構築するための研究開発が、大型国家プロジェクトとして推進されている。本講演では、化石燃料の大量消費と環境問題を解決するためのエネルギーキャリア戦略について、最新の研究結果を引用して説明する。

・12:30~13:30「工業炉における脱炭素燃焼技術の開発動向」友澤健一氏(中外炉工業)…本講演では、熱技術を核として新しい価値を創造する同社による、カーボンニュートラル貢献に向けた非化石燃料の燃焼技術の開発の取組みを紹介する。化石燃料と比較して燃焼速度や発熱量など燃焼に関わる物性がまったく異なる水素とアンモニアの二つの非化石燃料について、開発経緯や開発課題の克服方法など中心に解説する。

・13:40~14:40「真空浸炭の原理から考える短時間化のための組織制御」田中浩司氏(大同大学)…肌焼鋼の浸炭性は鋼中のCr、Si濃度によって大きく変化し、一般にはこれら元素の表面酸化物が影響する。真空浸炭では過剰浸炭、すなわちオーステナイト粒界に生成するフィルム状炭化物の挙動が左右される。短時間化のためのプロセス開発には、浸炭層内のマクロな拡散、および炭化物周りのミクロな拡散場を理解する必要がある。

・14:50~15:50「ゼロカーボン・循環型の熱処理を見据えた超高速浸炭技術の紹介」山本亮介氏(ジェイテクトサーモシステム)…2050年カーボンニュートラルの実現に向け多くの取組がなされている。特に大量のエネルギーを使用する熱処理工程においては抜本的対策が求められ、多様化する機械部品に対し効率的な熱処理提供が肝要となる。そこで本講演では、インライン化を可能とする誘導加熱を用いた超高速浸炭技術を中心に脱炭素社会に向けた技術を紹介する。

・16:00~17:00「ガスの消費を大幅削減する新しいCOガス浸炭法の提案」水越朋之氏(大阪産業技術研究所)…現在、工業的に広く普及しているCOを含む混合ガスによる浸炭処理法のカーボンニュートラル化では、加熱手段だけでなく、オバーフローさせ、燃焼排出している使用後の処理雰囲気ガスについても何らかの対処が必要となっている。これについては様々な方策が検討されているが、本講演ではガスの消費そのものの大幅な削減による対処について説明する。

kat 2022年8月16日 (火曜日)
kat

マコー、ウェットブラストによるコーティング・めっきの密着性向上を提案

1年 8ヶ月 ago
マコー、ウェットブラストによるコーティング・めっきの密着性向上を提案

 マコー(https://www.macoho.co.jp/)はウェットブラストを成膜前処理として用いることによる、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)やフィルム、非鉄金属など各種素材へのコーティング・めっきの密着性向上を提案している。ウェットブラストは、研磨材(メディア・投射材)を使用し表面に微細な凹凸を形成することによって、アンカー効果で対象物の材質を問わずに接着力を向上させることが可能で、同社では、接着対象物の素材が限定されないことや、時間依存性がないことなどの特徴を前面に、ウェットブラストによる成膜前処理による効果を訴求していく。

JPCA Show 2022(第51回国際電子回路産業展)での密着性向上の提案

 

 製造現場においては、エンプラやフィルム、ガラスなどに成膜したコーティングやめっき膜がはく離しやすい、異取材同士の接着強度が上がらない、密着性を高めるための表面エッチングなどの薬品処理をなくしたい、といった密着性に関連した課題が少なくない。

 こうした密着性向上の課題に対して同社では、ウェットブラストを用いた前処理によって、素材を選ばずにコーティング・めっきの密着強度を高めるアプローチを紹介している。

 コーティング前処理としてウェットブラスト処理を利用すると、表面積拡大による濡れ性改善のため時間依存性がなく、また、ナノレベルの精密な凹凸によるアンカー効果によってコーティング・めっきが強固に成膜できる。さらに物理的な加工のため、有機・無機の材質に関わらず幅広い材料に使用できる。

 スーパーエンプラ・ポリフェニレンサルファイド(PPS)へのめっきの例では、前処理なしの場合にはPPS全面への均一な成膜が困難だったのに対し、ウェットブラストによる前処理を施したPPSでは、全面への均一で密着性の良好な成膜が可能になっている。また、ポリイミド(PI)フィルムへのCuめっきの例では、前処理なしの場合にはPIフィルムとめっきの界面ではく離が薄人されたのに対し、ウェットブラストによる前処理を施したPIフィルムではめっきとの強固な接着界面が確認されている。

 ガラスへの二酸化ケイ素(SiO2)コーティングでウェットブラストを前処理として施した例では、フッ酸などのケミカルエッチングを使用しない物理的な加工により、ガラスを曇らせない緻密な凹凸面を形成することで、クラックなどのダメージを与えずにコーティングの密着性を向上させている。また、CFRPへのアクリル塗装の接着の例でも、前処理なしのCFRPに比べウェットブラストによる前処理を施したCFRPでは、アクリル塗装膜の密着強度が約2.5倍に向上していることがスクラッチ試験の結果から分かっている。

 同社では、こうしたコーティング・めっきの密着強度を高めるためのウェットブラスト装置として、表面の洗浄と下地加工(ウェットブラスト)を同時に行いコーティング・めっきに最適な表面を生成できる板・フィルム状ワーク用連続自動処理装置「PFE 300/600」や、ウェットブラストのみの研究開発用装置「ラムダTypeⅡ」などをランナップ、適用を提案している。

 

板・フィルム状ワーク用連続自動処理装置「PFE 300/600」

 

ウェットブラストのみの研究開発用装置
「ラムダTypeⅡ」


 

kat 2022年8月16日 (火曜日)
kat

エリコンバルザース、プラスチック射出成形金型向けコーティングを開発

1年 8ヶ月 ago
エリコンバルザース、プラスチック射出成形金型向けコーティングを開発

 エリコンバルザース(本社:リヒテンシュタイン)は、プラスチック射出成形金型の高寿命化を実現するドライコーティング「BALINIT MOLDENA」を開発した。

 同被膜はCrN/CrON系被膜で膜厚7μm。ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)などの摩耗しやすい材料の射出成形金型や押出成形金型へのコーティングに適している。また、100%リサイクル素材や難燃剤を多く含む素材など、腐食性の高い素材の射出成形金型にも適しているという。

 同被膜はすでに顧客の試験・評価で、従来使用していた耐摩耗性コーティングよりも摩耗が少なく、中性塩水噴霧試験で耐腐食性が大幅に向上していることが証明されているという。不飽和ポリエステル(40%)を加工する射出成形金型に標準的なコーティングを施した場合、4万回のショットでコーティングがはく離するが、新コーティングでは20万ショット後においても変わらずに高品質での加工が可能だったという。

 プロダクトライン責任者のアンドレアス・ライター氏は「顧客はエネルギー効率を改善し、資源の節約のために、より軽いプラスチック、リサイクルプラスチックを使用している。BALINIT MOLDENAによって、私たちはプラスチック加工のための既存のソリューションを強化することに成功した。安定したプロセスを可能にし、ポリマー製造ラインの寿命を延ばす最適なソリューションを顧客に提供できることを嬉しく思う」と話している。

 エリコングループでは、今回開発した「BALINIT MOLDENA」をグローバルで展開しており、日本ではエリコンジャパン バルザース事業本部( https://www.oerlikon.com/balzers/jp/ja/ )が窓口となっている。

 

admin 2022年8月10日 (水曜日)
admin

紀陽銀行、東研サーモテックの脱炭素の取組みに対して融資を実行

1年 8ヶ月 ago
紀陽銀行、東研サーモテックの脱炭素の取組みに対して融資を実行

 紀陽銀行は、東研サーモテックの脱炭素社会実現に向けた取組みに対して融資を実行すると発表した。

 東研サーモテックは、自動車用部品や建設機械部品等の金属熱処理事業を営む国内大手の熱処理事業者で、ガスや電気の使用量削減による二酸化炭素排出量削減に向け、装置メーカーとの共同開発を行うなど、脱炭素社会の実現に向けた取組みを行っている。

 今回、同行と同社は、東研サーモテック 橋本工場における二酸化炭素排出量抑制および生産性向上のための設備ライン増設にかかる融資契約を締結した。この取組みにより導入される設備は、橋本工場の既存設備に比べ熱処理時の二酸化炭素排出量を30%以上削減することが可能になるという。
 

東研サーモテック橋本工場

 

admin 2022年8月9日 (火曜日)
admin

日鉄エンジニアリング、インドネシアに溶融亜鉛めっきラインを竣工

1年 8ヶ月 ago
日鉄エンジニアリング、インドネシアに溶融亜鉛めっきラインを竣工

 日鉄エンジニアリング( https://www.eng.nipponsteel.com/ )は、インドネシアのPT.ALEXINDO社より受注した溶融亜鉛めっきライン「Continuous Galvanizing Line:CGL」を竣工、このほど引渡しを行った。

 本設備は、耐候性・耐久性に優れた建材用55%AL-Zn溶融亜鉛めっき鋼板を製造する設備であり、日鉄エンジニアリングがインドネシアに納入したCGLでは3基目となる。プロジェクト実行にあたっては、同社と当社グループ会社である日鉄設備工程(上海)が一体となり、試運転調整まで一貫してトラブルなく円滑に完了したという。

 また本設備は、同社独自に開発した最新型ワイピング装置「NSblade」を備えており、低速厚目付から高速薄目付まで、広範囲にわたり高精度な目付量の制御が可能となっている。NSbladeは、高速通板時に発生しやすくなるスプラッシュとエッジオーバーコートを効果的に抑制することができ、溶融亜鉛めっき鋼板の品質改善に寄与する。

 日本製鉄グループのエンジニアリング会社として、鋼板処理分野の設備技術と開発力に強みを持つ同社は、国内外でCGLの実績を積み重ねている。

CGLに設置されているNSblade

 

admin 2022年8月4日 (木曜日)
admin

東芝、μmサイズの微小な欠陥を広い撮像視野でリアルタイムに可視化する検査技術

1年 8ヶ月 ago
東芝、μmサイズの微小な欠陥を広い撮像視野でリアルタイムに可視化する検査技術

 東芝は、生産ラインでの外観検査において製品が高速に搬送される中、製品表面のμmサイズの微小な欠陥(キズなど)を広い撮像視野でリアルタイムに可視化・判別する光学検査技術「OneShotBRDF®」を開発した。本技術は微小欠陥の有無に加え、深さも推定することが可能。

 この技術は、製品表面からの光の方向を色で識別して(データ化し)μmサイズの微小欠陥を判別する。搬送中の製品を高精度に撮像できる「ラインカメラ」に対応し、光学フィルターを変更することで、凹凸の3Dデータを取得することも可能。また、同社独自の画像解析技術と組み合わせることで、取得画像から微小欠陥を自動判別することもできる。

 本技術の特徴は、搬送方向とそれに直交する幅方向で、機能を分離したことにある。搬送方向には、光の方向に応じて色を対応させる光方向識別機能を持たせる。幅方向には、全視野を取得する機能を持たせる。これにより、全視野で欠陥を鮮明化することができるようになったという。

OneShotBRDF技術をラインカメラに適用

 同社は、上記機能を実現するために、搬送方向は平行光で、幅方向は拡散光となる独自の照明と、ラインカメラのレンズの前に設置したストライプ状の多波長開口で光学系を構成した。欠陥のない平滑な被検物に照明を照射すると、光は搬送方向には平行を保ったまま正反射される。それらの光は、多波長開口の幅方向に一様な色の中心ラインを通過し、すべて同じ色として撮像される。一方、被検物に欠陥がある場合、照明光はさまざまな方向に散乱する光となる。多波長開口は搬送方向には色が変化するフィルターとなっているため、それらの光は多波長開口の搬送方向へも広がり、光の方向に応じて異なる色となって撮像される。つまり、欠陥は平滑な周囲とは異なる色となり、鮮明化される。また、照明は幅方向には拡散光となっているため、レンズの有効径に制限されることなく、広い視野で撮像することができる。

 この技術を用いることにより、ラインカメラの広い視野にわたって微小な欠陥を色で鮮明に識別することができるようになった。さらに、取得画像の各画素をRGB色空間でのベクトルとして扱う独自の解析技術により、微小な欠陥を自動で識別できるようになる。これらにより、生産ラインにおいて搬送される製品を、リアルタイムで高精度に外観検査することができるようになる。

通常のカメラでは難しい表面状態の識別も色の違いで可視化

 同社は今後、本技術をシステムに組み込み、システム全体としての有効性を高め、さまざまな生産工程への早期導入を目指す。さらに、AI技術に基づく画像処理と組み合わせ、適用範囲の拡大を進める。

admin 2022年8月4日 (木曜日)
admin

厚地鉄工、ブラスト装置の拡販で2022国際ウエルディングショーに出展

1年 8ヶ月 ago
厚地鉄工、ブラスト装置の拡販で2022国際ウエルディングショーに出展

 厚地鉄工( http://www.atsuchi-ascon.co.jp/ )は、主力商品であるブラストキャビネットを中心にサンドブラスト、エアブラスト装置の拡販を開始した。その一環として、7月13日~16日まで東京都江東区の東京ビッグサイトで開催された溶接・接合技術の専門展「2022国際ウエルディングショー」に出展、ブラストキャビネットやバキュームブラスターによる錆取りや溶接焼け取りの実演を行うなどして多くの来場者を集めた。

2022国際ウエルディングショーにおける厚地鉄工のブース

 ブラストキャビネットでは、強力な噴射力を発揮する直圧式の汎用手動機「BA-1」を展示。同装置は使いやすいコンパクトタイプで、同社独自の機構により加圧されたエアによって噴射力の強いブラストができる。これにより、ブラスト加工時間の大幅な時間短縮が可能になる。小さなブラスト装置内に集塵機、レギュレーター、エアフィルター、エア加減弁などの周辺機器を搭載して省スペース化。錆や塗装剥がし、難物の鋳造品・鋳物砂の除去、高硬度金属のブラスト処理など幅広い分野に対応できる。

直圧式汎用手動機「BA-1」​

 BA-1の技術を応用して開発された台車テーブル式エアブラスト装置「BAS-4T」は、重量物・長尺物のスケール除去を行えるとして来場者に訴求した。同装置はレール付き架台と回転テーブルを備えており、加工対象物の搬入・搬出の効率化や作業の安定化が可能となる。重量物・大型品や精度が要求される金型のブラスト処理、精密鋳造品の砂落としやスケール除去に適した処理として紹介を行った。

台車テーブル式エアブラスト装置「BAS-4T」

 出展ブースの中央で実演を行ったバキュームブラスター「AV-2EH」は、研掃・回収・選別・集塵の4機能を備え、移動不可能な加工物を養生することなく、その場でブラスト処理することが可能。投射材が高圧の圧縮空気とともにノズルから噴射され、加工物の表面をブラストする。噴射と同時に発生した粉塵や微小破片物はガンホルダー内部からの強力なバキュームでサイクロンに回収されるため、外部に飛散することなく衛生的で安全・環境に配慮した作業を実現する。また、同装置は様々な作業状態や条件をリサーチした上で開発されており、狭いスペースや車両積載による作業、高い建造物の作業など、広範囲のブラスト処理に対応できる装置を取り揃えている。

バキュームブラスター「AV-2EH」

 2022国際ウエルディングショーでは、今回紹介したような装置の出展を中心に行ったが、同社の強みは「ブラスト装置全般に渡り、基本計画から施工、メンテナンスまでの提案(厚地徹三社長)」としており、創業から85年に渡って蓄積されたノウハウの部分だ。今回の展示会出展を契機として、細部まで行き届いたサービスやメンテナンスを含めた「ASCON」ブランドのさらなる浸透を図る。

admin 2022年8月2日 (火曜日)
admin

北海道大学、アルマイトの超高速はく離法を開発

1年 8ヶ月 ago
北海道大学、アルマイトの超高速はく離法を開発

 北海道大学大学院工学院修士課程の宮本和哉氏、同博士後期課程の岩井 愛氏、同大学大学院工学研究院の菊地竜也准教授の研究グループは、アルミニウムの不動態皮膜「アルマイト(ナノポーラスアルミナ)」を安全な方法によって超高速剥離する技術の開発に成功した。

 アルマイトはナノサイズの小さな細孔が無数に配列したナノポーラス構造を持つことから、様々なナノテクノロジーへの応用に関する研究開発が世界各国で活発に行われている。本研究で開発した新規のアルマイトはく離法は、エチレングリコールと塩化ナトリウムからなる安定・安全な溶液にアルマイト形成アルミニウムを浸漬し、わずか0.5秒間電気を流すことにより、アルマイトを超高速はく離する技術。

 さらに、はく離したアルマイトをリン酸水溶液に浸漬すると、アルマイト底部の不動態バリヤー層が優先的に溶解し、アルマイト上部から下部まで細孔が貫通した「細孔貫通膜(スルーホールメンブレン)」を作製することができた。この超高速はく離技術を用いることにより、最先端ナノテクノロジーへのアルマイトの応用と工業化が極めて容易になるものと期待される。

アルマイト(ナノポーラスアルミナ)の安全な超高速電解はく離法

 

admin 2022年7月28日 (木曜日)
admin

ジェイテクトサーモシステム、半導体・オブ・ザ・イヤー2022 製造装置部門 優秀賞を受賞

1年 9ヶ月 ago
ジェイテクトサーモシステム、半導体・オブ・ザ・イヤー2022 製造装置部門 優秀賞を受賞

 ジェイテクトサーモシステム(https://www.jtekt-thermos.co.jp/)は、産業タイムズ社主催の第28回半導体・オブ・ザ・イヤー2022において、製造装置部門で「SiCパワー半導体用ランプアニール装置」が評価され優秀賞を受賞した。

 今回同社が受賞した製造装置部門の優秀賞は、最新のエレクトロニクス製品の開発において最も貢献した製品を称える賞。対象製品は2021年4月~2022年3月までに新製品(バージョンアップ等含む)として発表された製品・技術で、①半導体デバイス、②半導体製造装置、③半導体用電子材料の3部門から選出される。

 受賞したSiCパワー半導体用ランプアニール装置は、パワー半導体製造用として開発されたランプアニール装置。従来機種では国内シェア70%を有し、主にオーミックコンタクトアニール処理などに用いられている。今回開発したRLA-4100シリーズは、チャンバーおよび搬送部に真空ロードロックを採用、金属膜の酸化を抑制し製品特性を向上しながら処理時間を33%短縮した(従来機比)。

SiCパワー半導体用ランプアニール装置「RLA-4100シリーズ」

 

 同社では、今後飛躍的に成長が見込まれるSiCパワー半導体用の熱処理装置に対して、本ランプアニール装置に加え、SiCパワー半導体の熱処理に欠かせない活性化炉、酸窒化炉についてもさらなる製品強化を行っていく。
 

kat 2022年7月11日 (月曜日)
kat

ジェイテクトファインテック、低歪熱処理技術を確立

1年 9ヶ月 ago
ジェイテクトファインテック、低歪熱処理技術を確立

 4月1日にジェイテクトグループ企業3社(宇都宮機器、日本ニードルローラー製造、トキオ精工)が合併した新会社であるジェイテクトファインテック(https://www.jtekt-ft.co.jp/)は、従来からの熱処理技術をもとに、熱処理の精度を高める低歪熱処理技術を確立した。

 薄板(鋼板)を加工した製品は、強度を高めるために熱処理を施す場合がある。熱処理では850℃前後で焼入れした後に急冷する際に均一に冷却ができないことより膨張量と収縮量に差が生じ、熱処理歪(そり、うねり)として焼入れ後の寸法精度に影響を与える。

 ジェイテクトファインテックは今回、その熱処理歪を抑制し膨張量と収縮量の差を最小限にした低歪熱処理技術を確立したもの。

 低歪熱処理技術には、熱処理炉の仕様と不可欠な要素技術の双方を成立させることが重要となる。

 新しい熱処理炉の主な仕様・要求特性としては、①高い生産性の確保、②多品種小ロット生産への対応、③薄板(板厚1mm前後)への対応、④高い省エネ性(変成炉不要)、⑤多様な熱処理への対応があり、これらへの対応とこれまでに培った低歪熱処理技術を基盤に、「3室ストレートスルー焼入れ炉」を採用した。

 また、不可欠な要素技術として、①加熱温度と時間、②焼入れのタイミング、③加熱中の炉内雰囲気、④適正な荷姿、⑤焼入れ油の性状・特性という五つの要素技術開発を行い、あらに新たな知見を加味するとともに、各協力メーカーとの技術開発によって、低歪熱処理技術を確立した。

 

 今回の取組みの効果は以下のとおり。
 
・既存熱処理炉と比較して熱処理後の歪量を約1/10に抑制し真円度を向上することで、後工程の旋削や研削を省くことが可能更に新熱処理炉は熱処理で生じるスラッジの発生が無く洗浄工程を省くことも可能

熱処理後の歪量が従来比1/10

 

・既存熱処理炉では変成ガスを排出する変成炉を使用していたが、今回の低歪熱処理技術では変成炉が不要となりCO2排出量を約70%削減でき環境負荷物質の低減に貢献

既存炉の比較


 

kat 2022年7月11日 (月曜日)
kat

HEFグループ、樹脂製筐体のEMC対策で電磁波シールドPVDコーティングの提案を強化

1年 9ヶ月 ago
HEFグループ、樹脂製筐体のEMC対策で電磁波シールドPVDコーティングの提案を強化

 自動車において電動化・電子化が急激に進む中で安全性・快適性・省エネルギー化の点で電磁ノイズ問題の解決、つまりEMC(電磁両立性)対策が必要不可欠な取組みとなっている一方で、自動車の燃費向上、電費改善の点から軽量化を目的に多くの車載部品で樹脂化が急激に進展、それら樹脂製筐体において電磁波シールド(電磁波遮蔽)性を付与する技術が強く要求されている。

 ここでは、15年以上前から物理蒸着(PVD)法による電磁波シールドコーティング「PROCEMTM」を開発している仏HEFグループの日本国内における取組みについて、HEFグループで日本におけるマーケティング・技術支援を行うHEF DURFERRIT JAPAN社長のジュリアン グリモ氏と、受託加工を手掛けるナノコート・ティーエス社長の熊谷 泰 氏に話を聞いた。

左から、グリモ氏、熊谷氏

 

電子化が進む自動車におけるEMC対策の必要性

 EMC(電磁両立性Compatibility)とはEMI(電磁妨害Interference/エミッション問題)とEMS(電磁妨害感受性Susceptibility)を両立させることをいうが、一方で有効利用される電波が、他方ではノイズになるということが問題を複雑にしており、電子化が進む自動車において、安全性・快適性・省エネルギー化を考える上で、電磁ノイズ問題の解決、つまりEMC対策は必要不可欠な取組みとなっている。

 内燃機関を持つ自動車で約3万点、電気自動車で約1万点といわれる自動車部品において、電子部品の占める割合は年々高まってきている。電子化が進む自動車には内燃機関車で100個程度のECU(電子制御ユニット)が使われ、これらのECUは車載LANによってネットワーク化されており、車載LANは電動パワーステアリング(EPS)などのパワートレイン系・シャーシ系、ドアコントロール機器などのボディ制御系、ナビゲーション機器などのマルチメディア系、エアバッグなどの安全系に分類される。一方で、自動車の燃費向上、電費改善の点から軽量化を目的に、パワートレイン系、ボディ制御系、マルチメディア系、安全系の多くの部品において樹脂化が急激に進展しており、それら樹脂製筐体において電磁波シールド(電磁波遮蔽)性を付与する表面改質技術が強く要求されている。

 ユーザーの課題をトライボロジーの総合力で解決する「トライボロジー研究センター」である仏HEF社では、15年以上も前から、特に日本の電子機器メーカーにおいて樹脂製筐体に電磁波シールド性を付与したいとのニーズに応え、物理蒸着(PVD)法による電磁波シールドコーティング「PROCEMTM」を開発しているが、近年、HEFグループのナノコート・ティーエスの石川事業所(石川県能美市)において、PROCEM膜の受託加工を開始。自動車の電動化、さらには先進運転支援システム(ADAS)や自動運転に向け、搭載点数の進む電子部品で要求の強い、電磁波シールド性に関する日本国内での各種ニーズに対し、迅速に細やかに対応している。

電磁波シールドPVDコーティング

 HEFが開発したPVDコーティングPROCEMは、樹脂や複合材料に電磁波シールド機能を付与するための導電性の多層金属膜である。

 導電性コーティングは、筐体設計を基本的に変えることなく樹脂製筐体への電磁波シールド機能を付与するために用いられている方法の一つで、自動車用電装機器は酷寒から灼熱までの広い温度範囲で使われるばかりでなく、耐振動性や耐水性など、一般の電子機器よりもはるかに高いレベルの特性・信頼性が求められる。このため、車載機器においてはEMC問題の解決だけでなく、耐食性、はんだ付け性など多様な要求性能への適合が突き付けられている。

 PROCEMコーティングは、自動車電装機器で要求される電磁波シールド仕様(ノイズ減衰性能)をクリアするだけではなく、薄膜のため成膜前後の筐体の寸法変化や重量変化がなく、マスキングが必要な部分の仕上がり具合などの問題を同時に解決できる。

PROCEM膜の概要

 電磁波シールドの原理は、電磁波の反射減衰(10MHz~5GHz)や吸収減衰(F>5GHz)などのメカニズムによって電磁波エネルギーを滅衰させるもので、電磁波を減衰させることにより精密機器への悪影響が回避される。

 PROCEMは、銀ベース、銅ベース、アルミベースの導電性多層膜構成とすることで電磁波シールド機能を付与するコーティングで、ナノコート・ティーエス 石川事業所では、スパッタリング+プラズマCVDのハイブリッドプロセスを用いた成膜温度90℃以下の低温処理が可能なHEF製の中型成膜装置「TSD 550」(図1)を導入して、受託加工を実施している。銀ベースや銅ベースのコーティングでは腐食が発生しやすいが、多層膜構成とすることで塩水噴霧試験150時間以上に耐える耐食性の高い膜としている。

 電磁波シールド性を表す代用物性値として、抵抗率が用いられ、抵抗率の小さいものほど電磁波シールド性が高くなる。PROCEM膜では体積抵抗率1~5×10-6Ωcmという低い体積抵抗率、つまり高い電磁波シールド性を実現している(表1参照)。

 また、シールド性能はdB(デシベル)を使って表現する。電磁波がどの程度減衰したかを相対的に表現する数字で、シールド前の電界強度とシールド後の電界強度の比(減衰量)を対数で表現したものとなる。

 シールド性能(dB)=20×log(シールド後の電界強度/シールド前の電界強度)

 多くの場合、減衰効果の狙いは60~80dBで、例えばシールドによって電磁波が1/1000になった場合を—60dB(シールド率99.9%)、1/10000になった場合を—80dB(シールド率99.99%)と表記する。自動車用機器で要求される電磁波シールド効果が周波数により—35~—55㏈なのに対して、PROCEM膜では周波数により—65~—125㏈という減衰効果を実現して、自動車電装機器の電磁波シールド仕様を十分にクリアしている(図2)。参考までに、銅ベース、アルミベース、銀ベースの各PROCEM膜の減衰効果を図3に示す。
 

図1 ナノコート・ティーエス石川事業所に設置した
中型成膜装置「TSD 550」

 

表1 PROCEM膜の仕様


 

図2 PROCEM2膜の減衰効果

 

図3 銅ベース、アルミベース、銀ベースの各PROCEM膜の減衰効果

 

めっきに対する利点

 樹脂製筐体への電磁波シールド機能を付与する手法としては、HEFが開発したPVDコーティング以外に、電磁波シールドめっきや電磁波シールド塗料などを処理する手法もあるが、電磁波シールドめっきと比較した場合、電磁波シールドPVDコーティングPROCEMには以下のような利点がある。

①主な樹脂基材およびコンポジット基材に直接成膜できる
 めっき処理では、樹脂表面とめっき皮膜との密着性を高める目的で、樹脂表面に凹凸を形成する物理的効果と官能基を生成させる化学的効果を付与するためのエッチング処理がなされるが、現時点でABS樹脂やポリカーボネート(PC)樹脂など限られた樹脂を対象とした専用エッチング液しか市場にないため、めっき処理が可能な樹脂基材が制約されている。

 これに対して、PROCEM膜では、ABS・PC・ポリアミド(PA)・ポリメチルメタクリレート(PMMA)・ポリアリルアミン(PAA)・ポリイミド(PI)・ガラス繊維など、ほとんどの樹脂基材およびコンポジット基材に対して、めっき皮膜に比べて密着性が極めて高く耐食性も極めて高い電磁遮蔽被膜をダイレクトに成膜できる。

②ドライコーティングのため環境にやさしい
 めっき処理ではエッチング工程における六価クロムなど環境負荷の大きい物質が使用されるのに対して、PROCEM膜はスパッタリングにより成膜される、環境負荷が極めて小さいドライコーティングである。

③薄膜のため高精度・軽量性を保持
 めっき皮膜では電磁波シールド機能を付与するのに数十μmと厚膜にする必要があるのに対して、PROCEM膜では膜厚1~2μmの薄膜で電磁波シールド機能を付与できるため、樹脂製筐体への成膜前後の寸法変化がなく、また、重量変化もほとんどない。

電磁波シールドPVDコーティングとDLCコーティングとの複合処理

 HEFでは複合多層膜のため密着性に優れ高負荷でもはく離を起こさない、耐摩耗性や潤滑性に優れたダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティング「CERTESS™(セルテス)DLCシリーズ」をラインナップしている(表2)。

表2 主なCERTESS(セルテス)DLCシリーズ

 

 車載機器では電動化の進展とともにセンサー類の搭載が増大してきているが、センサーは走行の安全性や快適性を守るべく、自動車の振動や塵埃といった悪環境、広い温度範囲でも正確に動作する必要があり、ナノコート・ティーエス 石川事業所では、センサー類の表面に電磁波シールドPVDコーティングPROCEMを施すとともに、最表面に耐摩耗性など高耐久性を付与するDLCコーティングCERTESSを複合処理することにも対応。センサー類の高い動作信頼性を実現できる。

今後の展開

 電磁波シールドPVDコーティングPROCEMは高い電磁波シールド性とともに高耐食性を有し、薄膜のため高精度で軽量といった多くの特徴を持つことから、自動車カーナビ筐体(図4)などの車載電装機器のほか、電話コネクターや軍事用暗視カメラ(図5)、歯医者用レントゲン撮影機など各種の産業分野で採用されている。

図4 自動車カーナビ筐体

 

図5 軍事用暗視カメラ

 

 上述のとおりナノコート・ティーエス 石川事業所において、すでにPROCEM膜の受託加工が開始されているが、自動運転に向けて電子機器の搭載が急激に進む自動車にあって、軽量化を目的に採用の進む樹脂製部品への電磁波シールドコーティングに対するニーズは多種多様になっていくものと思われる。

 同社およびHEFでは、電磁波シールドPVDコーティングPROCEMの、めっきなど他の電磁波シールド手法と比べた際の高い生産性や高い精度(高品質)、軽量化への寄与、環境負荷の低減といった多くのメリットを日本国内の電子機器メーカーや成形材料メーカーなどに訴求するとともに、多様なアプリケーションでの成膜・試験データを蓄積しつつ、DLCコーティングとの複合化など各種ユーザーニーズに対応できる電磁波シールドPVDコーティングの手法を確立していくことで、電磁波シールド用途のドライコーティングの市場を拡大していく。

kat 2022年7月7日 (木曜日)
kat

奥野製薬工業、ガラス基板への無電解銅めっきプロセスで第18回JPCA賞を受賞

1年 9ヶ月 ago
奥野製薬工業、ガラス基板への無電解銅めっきプロセスで第18回JPCA賞を受賞

 奥野製薬工業(https://www.okuno.co.jp/)は、パナソニック環境エンジニアリング(https://panasonic.co.jp/hvac/peseng/)と共同で開発した、液相析出法(Liquid Phase Deposition:LPD法)により金属酸化物の密着層(中間層)を製膜したガラス基板に対して高いめっき密着性が得られる無電解銅めっきプロセス「PLOPX」で、日本電子回路工業会より「第18回JPCA賞(アワード)」を受賞した。

JPCA Show 2022 奥野製薬工業ブースでのPLOPXプロセスの紹介

 

 ガラスは平滑性と絶縁性が高く、信号の伝送特性にも優れるため、2.5D実装に必要なインターポーザ材料として利用が検討されている。一方で、無電解銅めっき膜とガラス基板との密着性を高める手段としては従来、機械的表面改質手法でガラス基板の表面に微細な凹凸を形成する粗化によって、ガラス基板の凹部内に無電解銅めっき膜の一部を埋め込んで、そのアンカー効果により密着性を高める方法がとられてきた。しかし、ガラス基板の粗化によるアンカー効果によって無電解銅めっき膜とガラス基板との密着性を高める方法は、無電解銅めっき膜の高周波導電性が低下するため、高性能の高周波用電子部品の製造には適さないという問題があった。

 これに対し両社で開発した本プロセスは、ガラス基板と銅めっき層の中間層として、LPD法により金属酸化物の密着層を製膜することで、ガラスを粗化することなく銅めっきすることを可能としたもの。全プロセスを湿式法で処理することを特徴としており、大量生産および生産効率の向上につながる。開発プロセスは今後、5G、6Gに向けた高速通信システム材料としての展開が期待されている。

kat 2022年6月30日 (木曜日)
kat

DLC工業会、2022年定時会員総会と功労賞授賞式を開催

1年 9ヶ月 ago
DLC工業会、2022年定時会員総会と功労賞授賞式を開催

 DLC工業会( http://dlck.org/ )は6月17日、オンライン会議システムを利用したリモート方式により「2022年定時社員総会」を開催した。当日は、中森秀樹会長(ナノテック 代表取締役社長)を議長に選出して議事が進行された。

議事進行を行う中森会長

 議事においては2021年度事業報告、決算報告が行われた後、2022年度事業計画(案)、同予算(案)について審議、満場一致で可決された。事業計画では、技術委員会が中心となりオンライン会議システムを利用して講演会を開催すること、「DLC膜性能評価試験の規格適合性を証明する制度」による規格適合性確認マークの発行を行うこと、同工業会とニューダイヤモンドフォーラム(NDF)が共同して経済産業省のDLC国際標準化に関わる委託事業を受託し必要な業務を実施することなどを確認した。引き続き、理事・監事選任について審議が行われ、会長に中森氏が再任された。

 また、当日の席上では「DLC工業会功労賞」の授賞式が行われ、ウエキコーポレーションが受賞。DLCの普及やDLC工業会の活動に大きな貢献をしたことが認められた。木本伊彦社長に代わり参加していた大竹和彦顧問が賞状と盾を受け取った。

中森会長と大竹氏

 同工業会の現時点での正会員は、ナノテック、リックス、アルテクス、トッケン、平和電機、ナノテックシュピンドラー、フロロコート、ウエキコーポレーション、レスカ、ウォルツの10社。特別会員は大竹尚登氏(東京工業大学)、大花継頼氏(産業技術総合研究所)、平栗健二氏(東京電機大学)、平田 敦氏(東京工業大学)の4名となっている。

admin 2022年6月29日 (水曜日)
admin

高機能トライボ表面プロセス部会とドライコーティング研究会、合同研究会を開催

1年 9ヶ月 ago
高機能トライボ表面プロセス部会とドライコーティング研究会、合同研究会を開催

 表面技術協会 高機能トライボ表面プロセス部会(代表幹事:岐阜大学 上坂裕之氏)とドライコーティング研究会(事務局:近畿高エネルギー加工技術研究所(AMPI))は6月23日、岐阜県岐阜市の岐阜大学サテライトキャンパスで合同研究会を開催した。前者は第18回例会、後者は第61回研究会となる。

開催のようす

 

 高機能トライボ表面プロセス部会は、自動車の低燃費化・高性能化などへの高機能トライボ表面の寄与が増してきていることを背景に、自動車関連・コーティング関連企業や、大学・研究機関などが参加しての分野横断的な議論を通じ、低摩擦/高摩擦、耐摩耗性などに優れた高機能トライボ表面のためのプロセス革新に向けた検討を行う場として、2014年に設立された。

 また、AMPIでは所有する各種のレーザ装置やプラズマ装置を利用した加工技術や表面改質技術の研究開発、中小企業の技術支援、という二つのミッションを通じニーズとシーズを常に探っているが、ドライコーティング研究会はこうした観点からAMPIを母体にして、ドライコーティングなどの技術について研究会を開催することで、産官学問わず幅広い有識者の参加により、専門家の講演や保有技術の紹介など、活発な情報交換や勉強会の場を提供している。

 今回の合同研究会では、高機能トライボ表面プロセス部会の上坂氏とドライコーティング研究会の殖栗成夫氏(AMPI)の開会挨拶に続いて、以下のとおり講演が行われた。

 

挨拶する上坂氏

 

挨拶する殖栗氏

 

「DLCコーティングに及ぼす潤滑油添加剤の影響」大久保 光氏(横浜国立大学)…脂肪酸油中の超低摩擦現象の研究では、周波数応答原子間力顕微鏡(FM-AFM)による固液界面構造の可視化によって超低摩擦の要因を調査。DLC膜の種類によっては超低摩擦現象が発現しないこと、水素終端の有無が超低摩擦に影響すること、超低摩擦が多層の吸着膜により発現していることが示唆された。また、MoDTC(Molybdenum dithiocarbamate)油中の異常摩耗現象の研究では、ラマン分光分析と膜厚計測をin-situ計測(装置から試料片を外さずに測定)できるIn-situ Raman-SLIM摩擦試験機での評価によって、特定の領域でMoDTCの分解生成物がDLC膜上で形成され同じ領域でDLC膜の構造が変化していること、DLC膜の構造を評価する指標ID/IGが増加=グラファイト化していること、ToF-SIMSを援用することでMo-Cの生成を確認、Mo-Cの生成量がDLC膜の構造変化、異常摩耗の原因となっていることなどを推定した。さらに、添加剤の反応に乏しく摩擦摩耗特性の向上が困難なa-C:H膜に最適な潤滑油添加剤の適用に向けた研究では、反応機構が表面活性に依存せずDLC膜構造を破壊しないナノカーボン添加剤として多層フラーレン(MLF)を添加した、潤滑油環境下における各種DLC膜を比較試験しそれぞれのトライボロジー現象について検証、MLF添加によりa-C:H/a-C:Hの摺動で超低摩擦現象(μ=0.01)や膜のはく離抑制効果、大幅な摩擦低減・摩耗低減効果が確認されたことを報告した。

講演する大久保氏

 

「UBMスパッタ法およびAIP法を活用した成膜技術~金属ガラス膜・窒化ホウ素膜の研究事例~」小畠淳平氏(大阪産業技術研究所)…約80%の高いイオン化率と1μm/h以上の高い成膜速度を実現できるカソ―ディック真空アーク(CVA)法によって立方窒化ホウ素(c-BN)膜を形成するためのターゲット開発では、アーク放電で割れない耐熱衝撃性に優れたホウ素(B)を主成分とするターゲット材開発を目標として、放電プラズマ焼結(SPS)法によってBを主成分とし炭素繊維を分散・添加した焼結体を作製。焼結実験を通じ、CF添加の機能について検討した結果、焼結体に耐熱衝撃性(アーク放電耐性)が付与されることが確認された。作製したB-CF焼結体からなる実機用試作ターゲットを用いた成膜実験を実施、c-BN膜の合成に必要なh-BN膜を得るにはN2ガス分率を増大させアーク電流を減少させるのが有効であること、c-BN 膜を得るのにh-BN膜が得られる成膜条件で高い負のパルス基板バイアス電圧を印加したがc-BN が主成分の膜が得られなかったためより高いエネルギーをイオンに付与する必要があることなどの知見を得た。また、新たな熱ナノインプリント材料の開発を目的として、アンバランスドマグネトロンスパッタ(UBMS)法を用いてTi-Cu基金属ガラス膜を形成した研究では、アルゴン(Ar)含有量の多い膜ほど、優れた熱ナノインプリント成形結果を示したことを報告した。

講演する小畠氏

 

「FCVA成膜方法による水素フリーDLC(ta-C)の特徴と応用」川上達哉氏(ナノフィルムテクノロジーズ ジャパン)…特許技術であるFCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)成膜技術と、同技術を用いたドロップレットが極めて少なく高硬度、低摩擦、可変膜厚、低温成膜、優れた密着性などの特徴を持つ水素フリーDLC膜、ta-C(Tetrahedral Amorphous Carbon)について紹介した。FCVAの特徴として、パーティクルが除去されイオン化された炭素のみで成膜できること、基材にバイアスをかけることでイオン粒子のエネルギーレベルを任意に可変できるため室温で一原子ずつち密に成膜でき膜質を制御できること、FCVAで生成されるコーティングスピーシーズが高エネルギーで均一なピークエネルギーを有するため、室温下で高密度・高硬度・高密着性の薄膜を提供できることを挙げた。また、一般的なDLC 膜のsp3構造が50%以下なのに対し、FCVAによるta-C膜では最大で88%に及び、ビッカース硬度5000の高硬度、約3.3g/cm2とダイヤモンド並みの高密度、低摩擦係数、耐食性、耐摩耗性などの特徴を持つことなどを紹介した。ta-C膜の主要応用事例として、精密金型や自動車部品、アルミ切削工具などの事例を示したほか、ta-C膜以外の差別化技術として、FCVAにより成膜するナノ結晶窒化クロム(CrN)セラミックスコーティングMiCC®を紹介。MiCCが高硬度で低い摩擦係数、高い耐食性、低い表面エネルギーなどの特徴を有し、半導体封止パッケージ金型成形などに適用されていることなどを示した。

講演する川上氏

 

「ステンレス鋼に成膜した多層DLC膜の機械的特性と摩耗特性」西本明生氏(関西大学)…オーステナイト系ステンレス鋼の耐食性や加工性、非磁性などの長所を保持しつつ、弱点である硬さ・耐摩耗性を向上させる表面改質技術として、同ステンレス鋼に各種の多層DLCコーティングを施し種々の機械的特性を比較調査した。異なるガスを用いてSi-DLC/DLC膜を多層に成膜し、機械的特性への影響を比較調査した研究では、膜の数が4層に増加すると硬さ・密着性が向上し、CH4ガスのDLC膜よりもC2H2ガスのDLC膜の方が硬さ・密着性・低摩擦特性が向上すること、膜数増加による摩擦係数への影響が見られないことが明らかになった。また、1層あたりの膜厚が異なるSi-DLC/DLC膜を多層に成膜し、機械的特性への影響を比較調査した研究では、Si-DLCとDLCの膜厚比が1:1で膜数が4層であるDLC膜が最も耐久性に優れていること、基材側に厚い膜を形成させた多層DLC膜の方が耐摩耗性などの特性が向上すること、膜厚が小さくなりすぎると著しく特性が悪化することが明らかになった。さらに、アクティブスクリーンプラズマ窒化(ASPN)とDLCコーティングの複合処理による機械的特性を調査した研究では、ASPN処理後にバフ研磨を行ったDLC膜の耐摩耗性が最も高いこと、ASPN処理材ではDLC膜の完全はく離荷重が増加すること、ASPN処理材で良好な密着性が得られること、DLC膜の密着性は残留応力差が小さいほど良好になること、すなわちASPN処理を適用することでDLC膜の密着性が改善されることが明らかになった。

講演する西本氏

 

 最後に上坂氏より、このほど新設され自身がセンター長を務める岐阜大学 工学部 附属プラズマ応用研究センターの紹介がなされた。“共同研究等により研究成果の社会実装および社会人教育を通じて、地域産業界の発展に貢献する”という同大学の地域連携に関する理念のもと設立された“ワンストップ・プラズマトライセンター”を掲げるプラズマ応用研究センターが保有する、MVP(Microwave sheath-Voltage combination Plasma)プロセス装置、大気圧プラズマ装置、EBEP処理装置、HiPIMS(High Power Impulse Magnetron Sputtering)成膜装置など豊富な設備を紹介しつつ、各種保有設備の利用しての産学共同による研究を呼び掛けた。

岐阜大学 工学部 附属プラズマ応用研究センターの紹介

 

kat 2022年6月29日 (水曜日)
kat

メカニカル・サーフェス・テック2022年6月号 特集「金型の表面改質」「窒化処理」6/24に発行

1年 10ヶ月 ago
メカニカル・サーフェス・テック2022年6月号 特集「金型の表面改質」「窒化処理」6/24に発行

 表面改質&表面試験・評価技術の情報誌「メカニカル・サーフェス・テック」の2022年6月号 特集「金型の表面改質」、キーテク特集「窒化処理」が当社より6月24日に発行される。

 今回の特集「金型の表面改質」では、電気自動車のボディ、バッテリー、モータに関する今後の材料・加工技術について、プラスチック用金型において離型課題に特化した表面処理技術の概要ついて、プラスチック成形金型向けプラズマ窒化とPVDコーティングの複合処理について、成形不良検知などにおいて適用されるAI外観検査ソリューションについて紹介する。

 また、キーテク特集「窒化処理」においては、大電流電子ビーム源を励起源として用いる窒化処理装置の概要とアプリケーションについて、環境にやさしい塩浴軟窒化プロセスの概要と特徴、その適用事例について紹介する。

特集:金型の表面改質

◇電気自動車に求められる材料と加工技術・・・日産自動車 藤川 真一郎
◇プラスチック用金型の機能を向上させる表面処理技術・・・ユケン工業 青松 明宏
◇大型プラスチック成形金型向けプラズマ窒化とPVDコーティングの適用・・・エリコンジャパン 大崎 隆史
◇AI外観検査ソリューションによる成形不良検知など顧客価値の創出・・・コニカミノルタジャパン 大久保 卓哉 氏、加藤 高基 氏に聞く

キーテク特集:窒化処理

◇光輝窒化を可能とする窒化法の開発と実用化・・・プラズマ総合研究所 原 安寛、原 民夫
◇環境対応塩浴軟窒化プロセスの特徴と適用事例・・・HEF DURFERRIT JAPAN/TS TUFFTRIDE グウェン ボロレ

連載

注目技術:FOOMA JAPAN 2022に見る表面改質および関連技術・・・出展各社

トピックス

サーモテック2022が5年ぶりに開催、熱処理装置や関連装置・技術が集結
人とくるまのテクノロジー展2022開催、表面改質技術なども展示
日本トライボロジー学会、2021年度学会賞を発表

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admin 2022年6月22日 (水曜日)
admin

JCU、スタンプ式めっき処理の装置と薬品を開発

1年 10ヶ月 ago
JCU、スタンプ式めっき処理の装置と薬品を開発

 JCU( https://www.jcu-i.com/ )は、トヨタ自動車からスタンプ式めっき処理の技術供与を受け、従来のめっき電解槽に浸漬するプロセスに比べ約8倍の速さで硫酸銅めっき処理を実現できるテスト装置と硫酸銅めっきプロセスを開発、兼松( https://www.kanematsu.co.jp )を通じて装置とプロセスの一体販売を開始する。

硫酸銅めっきテスト装置

 同処理は、部材に銅被膜を形成する硫酸銅めっき処理において、めっき電解槽を使わず、スタンプのように必要な部分だけにめっき処理を施すことから、環境負荷を大幅に低減できるうえ、処理速度においても従来プロセスより優位性がある。

 ESG(環境、社会、ガバナンス)視点での経営基盤構築を進めるJCUは、表面技術処理用薬品および装置の両方を製造・販売する強みを活かし、スタンプ式めっき処理装置とそれに適した硫酸銅めっきプロセスの開発を進めてきた。銅イオンを優先的に透過する固体電解質膜を装置のヘッド内に装着し、本装置専用の硫酸銅めっきプロセスを開発することで、従来プロセスに比べめっき液の使用量を大幅に削減できるだけでなく、高速でのめっき処理を実現した。また、密閉された装置内でのめっき処理であるため、外部からの異物の混入リスクがなく、空気中に薬品成分が飛散しないことで処理環境の改善にもつながる。用途としては電子部品などの製造などを想定している。

スタンプヘッドの構成図

 

admin 2022年6月22日 (水曜日)
admin
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52 分 18 秒 ago
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