屋外タンク全面火災の状況 東日本大震災を教訓にした気象庁の新しい津波警報注意報が、3月7日から運用開始された。東日本大震災の地震直後に発表された津波警報注意報では、地震の規模をマグニチュード7.9と推定して、実際の津波(宮城県・岩手県・福島県など広いエリアで10m)を大きく下回る高さが発表された。そのため住民の避難が遅れ被害を拡大させたことから、今回、気象庁では地震の規模がすぐに分からない巨大地震が発生した場合、直後の津波警報注意報では予測の精度が低いため、数字でなく「巨大」、「高い」と発表し危険が迫っているというメッセージを分かりやすく伝える手法に変えた。東日本大震災の経験を活かした津波リスク回避の取り組みに期待したい。
津波は海溝や沖合の活断層で地震が起きて海底が隆起したり沈んだりして海面が大きく変動した際に発生する波をいう。そのため沿岸にある施設への被害は甚大で、東日本大震災の津波でも石油タンクが被害を受け膨大な油が流出したが、タンクの炎上もあった。気仙沼湾岸では石油タンク23基のうち21基が炎上した。
長くゆっくり揺れる「長周期地震動」では、石油タンク内の石油が共振して液面が大きく波打つ「スロッシング現象」が発生し、揮発防止を目的に液面に薄肉の鋼板(浮き屋根)の外周で可燃性ガスを密封するシールが追従できず、ガスが漏れ出し、またタンク上部と浮き屋根の接触による衝撃火花で発火しタンクが炎上、コンビナートでの延焼が拡大するという事故につながる。先ごろ早稲田大学・浜田政則教授らが、東海地震、東南海地震の連動時に想定される長周期地震動に東京湾岸のコンビナートが見舞われた場合に、スロッシング現象によって115基から大型タンクローリー6000台分の石油が溢れ出し、また同時多発的に火災が起きる可能性を示した。
浮き屋根式石油貯蔵タンクでは、貯蔵油にポンツーンと呼ばれる浮きが付いた屋根を浮かべた構造となっており、貯蔵油の増減に伴って屋根が上下動する。その上下動の際に可燃性ガスが浮き屋根の上部に漏れ出ることのないよう、外周にゴムシールが取り付けられている。また浮き屋根がタンク内で回転することのないよう回り止めの機構もある。
つまり浮き屋根とタンクの(上)壁との接触による火花発生、発火を避けるには、一つには浮き屋根外周シールのタンク側壁への追従性の向上が求められる。可燃性ガスの漏洩防止だけでなく、浮き屋根の異常な上下動も抑制できる。現在は耐油性や摺動特性などに優れるニトリルゴム(NBR)や、その反発力に基づく圧着によるシール性を発揮するウレタンフォームなどが用いられるが、異常な上下動に耐える機械的特性とさらなる追従性(シール性)が求められよう。
もう一つは、浮き屋根とタンクの壁が接触した際に火花が散ることのない表面を装飾することが考えられる。以前、タンク内の清掃時に摩擦による発火事故などの対策として、メカノケミカルポリシングなどによってタンク内の表面粗さを制御して静電気や火花の発生を抑えようという研究があったが、加工や表面改質による表面特性の制御を検討しても良いと思う。先日埼玉県和光市の理化学研究所で開催されたトライボコーティングシンポジウムで三愛プラント工業から発表があった「真空装置用各種金属材料の精密化学研磨技術」などもタンク内の部材を超平滑化する技術として応用できるかもしれない。
東日本大震災の悲劇から2年を迎えたが、依然として復旧のスピードは緩慢だ。それでも天災、人災の怖さを経験し、いつ訪れるかわからない災害に対して多方面からの備えを急がなくてはならない。新しい津波警報注意報のような人災を回避するシステムと、転載に備える信頼性の高い堅牢なメカ技術に期待したい。