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第116回 信頼性の高い衛星開発の推進を

小型科学衛星プロジェクト(提供:JAXA)小型科学衛星プロジェクト(提供:JAXA) 菅政権の「事業仕分け」第3弾の後半戦(再仕分け)では、文部科学省の宇宙関連事業を取り上げ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の開発した小惑星探査衛星「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」の微粒子を持ち帰るなど実績をあげていることから、宇宙開発の重要性が認められ、今年度予算の水準約1,800億円を維持することでまとまった。文科省は次年度の概算要求で、すでに「はやぶさ」の後継機の開発費などを挙げている。

過酷な宇宙環境で求められる衛生材料・部品


 「はやぶさ」のミッション成功など、わが国の宇宙開発技術が世界的に注目されている一方で、大学・高専などが製作、H2Aロケットとともに打ち上げられた小型衛星は、次々とトラブルに見舞われている。これは宇宙機器に使われる材料に影響を与える、-150~+200℃という温度サイクル、真空紫外線、10-3~10-5という高真空、原子状酸素、宇宙塵(スペースデブリ)といった過酷な宇宙環境に起因しているという。真空環境一つをとっても、金属同士がくっついてモータや弁の軸が動かなくなる要因となる。

 こうした中、JAXA宇宙科学研究所では、特徴のある宇宙科学ミッションを迅速、高頻度、低コストで実現することを目指し、中型・大型科学衛星を補完する位置づけで小型科学衛星(SPRINT)シリーズを立ち上げた。まずは、現在JAXAで開発されている新固体ロケットを用いて2012年に1号機(SPRINT-A)を打ち上げることを目標とし、その後5年間に3機程度のペースでの打ち上げを目指す「小型科学衛星プロジェクト」が動き出している。

 このプロジェクトでの「信頼性の考え方」を見ると、“不具合発生時に原因究明に支障がでる箇所や過去に類似品で不具合経験がある箇所については冗長構成をとる”、とある。衛星の信頼性を高めることは重要だが、冗長システムは結果的にコスト増大を招く。根本的な解決策としては、宇宙空間で壊れにくい材料・部品を使って衛星を作るしかない。

宇宙開発事業予算の確保を機に信頼性の高い衛星開発の推進を

 そうした観点から宇宙材料の耐環境性についてはこれまで、各種宇宙用材料を実際の宇宙空間で曝露して特性変化を観察する軌道上材料曝露試験が行われている。米国では1980年代から、わが国でも1990年代から材料曝露実験が実施されている。それらのデータが宇宙用材料の開発にフィードバックされてきているとはいえ、最近でも国際宇宙ステーション(ISS)の実用ソーラーパネルに使われるポリイミドの原子状酸素による破断事故などが報告され、さらなる材料の改善が求められている。

 しかし近年、その軌道上材料曝露実験での問題点が多数指摘されている。「軌道上材料曝露実験高度化ワーキンググループ」の神戸大学・田川雅人教授は、現在でも材料曝露実験を実施する機会が少ないことや、一つのミッションにかける期間が長すぎるといった問題があるのに加え、スペースシャトルの2011年最終フライト以降は軌道上曝露材料回収のめどが立っていないという問題を指摘する。

 サンプル回収が困難になれば、軌道上でのその場解析(in-Situ解析)などを行って材料の評価を行う必要がある。そこでは、宇宙空間で稼動する機構部品の信頼性がますます求められる。そこで宇宙機器で多くの搭載実績を持つ固体潤滑剤が期待されている。「特に実績のある二硫化モリブデンを使うことで機構部品をコンポーネント化、これまでのオーダーメイドからレディーメイドとして、小型衛星ユーザーも使いやすくなるのではないか」と田川氏は言う。

 しかし、これまで実施されてきた軌道上材料曝露実験と地上試験との相関は得られておらず、紫外線スペクトルや原子状酸素曝露条件など宇宙環境とまったく同条件での地上試験は不可能なのが現状。スペースシャトルに代わるソユーズで回収可能な小型の材料曝露パレットの開発など解決の方策もいくつか掲げられているが、過去の材料曝露実験のデータが十分には公開されていないという指摘もある。

 軌道上その場解析という段階では、材料・機械分野からだけでなく、システム分野からも研究者が参画することが不可欠になる。現在は公開されていないデータが多いが、これまで実験を重ね蓄積されてきたデータを共有しての横断的な研究により、固体潤滑剤など宇宙用先端材料開発の課題を解決していくことで、宇宙機器、さらには衛星のさらなる信頼性向上につながっていく。宇宙開発事業予算の確保を機に、信頼性の高い衛星開発の推進を望む。