第194回 JIMTOF2014に見る、加工の高効率・高精度化を支える機械要素・表面改質技術
10月30日~11月4日、東京・有明の東京ビッグサイトで「第27回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2014)」が開催、切削・研削・研磨・プレス加工などの工作機械をはじめ、直動案内機器や軸受などの工作機器、工具、工具・金型のコーティング、加工油剤などの関連技術が一堂に会した。我が国ものづくりの競争力を高める加工の高精度や高効率加工、省エネルギー、低コスト化を実現する多軸機や複合機、その可動部を支える軸受や直動案内などの機械要素技術、切削工具や金型の耐久性を高め加工品位を高める各種コーティング技術も多数出展された。
加工の高効率化は、工作機械において工具主軸の高速回転と送りの高速化で実現される。工作機械の主軸は、難削材や金型、複雑形状部品、医療機器部品などの加工で、高剛性・高速回転が求められる。特に近年の工作機械は多様なワークに対応するため、1台で複数の加工機能を持つ5軸加工機や複合加工機が主流で、加工機能の向上に伴い、主軸用軸受には剛性をより高めた超高速回転のニーズが高まっている。これに対しNTNでは「工作機械主軸用空冷間座付軸受」を開発、材料や熱処理の改良、内部設計の変更、潤滑面の改善などの従来のアプローチではなく、主軸の発熱低減に着目し、独自の空冷技術を用いた「空冷間座」を適用している。これにより、内外輪の温度差を抑制することができ、従来品(超高速アンギュラ玉軸受)と比べ高速回転性能が20%向上、エアオイル潤滑・定位置予圧でdmn値210万を達成し、世界最高水準の高速回転性能を実現した。軸受内径φ70、回転速度23000min-1(dmn値210万)において、従来品は組み込み後軸受内部に予圧を与えることができなかったが、開発品は最大1300Nの予圧を確保でき、組み込み時における主軸の剛性を大幅に高めることで、幅広い速度域において加工性能の向上に貢献する。さらに、主軸を冷却するエアにより発生する騒音については、「空冷間座」の内部設計を工夫することで騒音値の上昇を抑え、従来の「環境対応型エアオイル潤滑アンギュラ玉軸受」と同水準を維持している。
送りの高速化(高速送り)では、近年、ボールねじ自体の発熱を低減することで強制冷却を省略したい、ボールねじの運動誤差を小さくしてさらなる高精度に対応したいという要望が増えてきた。これに対し日本精工では、設計面、生産技術面からボールねじの予圧・剛性・発熱量・温度上昇のバランスを最適化した「工作機械用高機能ボールねじ」の新技術を開発した。剛性を維持しつつ発熱を低減して温度上昇を約20%低減するとともに、ボールねじナットの位置の違いによる運動誤差を低減した。これにより、発熱量と運動誤差を低減することで工作機械の位置決め精度の向上が可能にしている。
工作機械側でこうした主軸や送りの高速・高精度・高剛性化が図られているわけだが、同様に工作機械スピンドルの先端で各種材料に対して加工を施すドリルやエンドミルなどの加工工具にもビビリの抑制や、長寿命・高能率加工に最適な耐摩耗性向上が要求される。
ユニオンツールは、自社のφ0.1のマイクロドリルの潤滑性・耐摩耗性を高めたDLCコート「ウルフコート」と、ダイヤモンドコート「UDC」の工具、金型のほか、各種機械要素などへの受託加工サービスをPRした。また不二越は、潤滑性と耐熱性・耐摩耗性を高め、ドライ加工でも高速高能率・長寿命化を図るアクアEXコートを施し、切削性能を向上させた超硬ドリルやエンドミルなどを出展した。アクアEXコートは超アルミリッチAl-Cr-Ti系コーティングで1100℃での耐酸化性を従来TiAlN系コーティングに対し3倍に向上させたことで超高速加工でも優れた耐摩耗性と耐熱性を実現したほか、最表層に特殊潤滑膜を施すことで切りくずとの摩擦抵抗を低減、耐溶着性を大幅に低減した。さらに複層構造膜の採用により、膜強度がアップ、工具の耐チッピング性の向上にもつながっている。
こうした耐摩耗性や潤滑性を付与した表面改質を施した製品が各工具メーカーから展示される一方、各種コーティングの受託加工メーカーや成膜装置メーカーも出展した。
オンワード技研は、パンチなどの金型を想定した超高硬度DLC膜「AC-X・W」を紹介。硬さ60~70GPaと高硬度で膜厚1μmを実現し、アルミニウムや銅加工の耐凝着対策に有効であるとした。12月以降に受託加工の受付を開始するという。アヤボでは、切削工具や金型などに対して、コーティングの前処理である研削・研磨工程とPVDコーティング工程を一貫生産する「nano warp」を提案。このシステムにより短納期・低コスト・高品質を実現する。PVDコーティングは、アークイオンプレーティング、ホロカソード、スパッタリングと三種の成膜方式を用意しており、顧客の要望に適したコーティングを選定する。
日本エリコンバルザースは、マイクロドリルの寿命を飛躍的に向上する同社最新コーティングの「BALIQシリーズ」を施した各種工具を展示したほか、設置スペースがコンパクトで、高速、高精度、高柔軟性なコーティングを実現するシステム「INGENIA」の実機を展示。同装置では、同社のHIPIMS(High Power Impulse Magnetron Sputtering)ソリューションであるS3p(拡張可能なパルス出力プラズマ)テクノロジーにより、表面が滑らかで高密度のコーティングを実現し、特許技術である万能マグネットシステムVMSにより安定したコーティング時間と高品質のコーティングを提供する。
IHIグループは、IHIイオンボンドがCVD、CVA、PVDおよびPA-CVD装置のラインアップを提案、切削工具・金型・各種機械部品・航空エンジン部品・医療機器などの性能向上を図るコーティングサービスを紹介した。装置販売においては、IHI機械システムが真空・加圧脱脂焼結炉、真空浸炭炉、真空脱脂洗浄機、真空炉などの熱処理関連装置、IHIハウザーコーティングがPVD/PACVD成膜装置Flexicoatシリーズと、工具・金型分野で適用されている最新のアーク成膜技術「CARC+」を中心にポスター展示と工具、自動車部品のコーティングサンプルも展示した。
今回のJIMTOF2014では、航空機、医療、エネルギーなど成長分野のアプリケーションに対応する工作機械や工具・金型などが多数紹介される一方で、海外生産の進む中で求められるコスト低減に対応する生産性向上の要素技術が数多く出展された。こうした新分野などでの各種要求に対応する機械要素技術や表面改質技術など基盤技術の技術革新がますます求められてきている。