第155回 原発の40年廃炉に、保全のさらなる重要性を思う
東京電力では先ごろ、大口など自由化部門の顧客を対象に、4月から電気料金の値上げを行うと発表した。福島第一・第二原子力発電所の被災や、電力を購入している他社原子力発電所の被災、柏崎刈羽原子力発電所の停止の長期化などに対応する中で、安定供給を維持するために、火力発電の焚き増しや長期計画停止中の火力発電設備の運転再開など、供給力の維持・確保に努めた結果、燃料費負担が大幅に増加、今後の燃料調達に支障を及ぼし、電気の安定供給にも重大な支障をきたす恐れがあることから決定に踏み切った。
こうした動きをにらんで、電力使用量の4割以上を占める製造業では、これまで電力需要の3割を賄っていた原子力発電について、安全稼働を確認し国民の理解を得たうえでの再稼働を望む声も高まってきている。この一方で細野豪志・原発相は1月6日、原発の運転期間を原則として40年に制限することを柱とする原子炉等規制法などの改正の方針を発表した。柱となる新しいエネルギー開発が進まない中で電力の安定供給が不安視される中、今回新たに原発の運転期間が法制化されたことで、産業界では批判の声が高まっている。
この批判は、原発の縮減によってさらなる電力供給の不安定さや電気料金の値上げを生むのではという懸念からきているのだろう。しかし、この政策は老朽化した原発を廃炉とする一方で、安全が確認された原発の再稼働は容認するとも受け取れ、それにより電力の安定供給につなげるという見方もできよう。つまりそこでは、当然のことだが、安全な稼働を可能にする保全技術がますます求められることになろう。
さて、原子力発電所の保全指針では、安全で信頼性の高い稼働を実現するため、一般的な産業機械で実施される定期的な修理や事後保全に優先して、運転中に機器の異常な兆候を察知するための状態監視保全の実施が強調されている。
最も一般的に実施されるのが「振動診断」。原子力発電所では、タービン本体とタービン駆動原子炉給水ポンプの軸の振動変位の測定、原子炉再循環ポンプのモータ頂部とポンプ軸受の振動変位の測定でオンライン振動系を用いて常時、状態監視を実施している。このほか、分解点検実施後の機能確認としての回転機器と往復動機器の振動変位の測定や、3ヵ月に1回といった周期でのポンプ・モータなど回転機器の振動速度の測定と劣化徴候の評価などが行われている。機械の故障の約6割が軸受・回転機器の故障によるものとされることから、この診断がしかし、先の保全指針では、「振動診断だけによらず総合的な設備診断により稼働の安全性、信頼性を高めることが必要」と強調している。
そこで電力会社では設備診断技術として振動診断のほかに、物体の温度を熱画像として表し異常な局部加熱などを早期に検知する「赤外線サーモグラフィ診断」や、回転機器の軸受や歯車などに使われる潤滑油を採取して汚染度などにより摩耗など機器の異常兆候を早期検知する「潤滑油診断」も並行して実施されている。これは軸受の故障の8割が潤滑不全によるものとされるためだ。
ところがこれだけの設備診断技術を謳っていても、すべての原子力発電所の現場でこれらの保全業務が徹底されているわけではなく、常時監視の振動診断結果だけがルーチンで報告され安全と審査され稼働されているという話も聞こえてくる。内閣府原子力安全委員会の安全委員・審査委員に原子力業界から多額の寄付金が渡ったというニュースを聞くと、保全のずさんな状況も、真実味を帯びてくる。
そうは言っても、今回の原発40年廃炉政策が示す“安全が確認された原発の再稼働は容認”されているのが、我が国のエネルギー供給の現状と言えよう。政府の「グリーンイノベーション構想」では、“燃焼によるエネルギー転換は、熱として多大な損失を伴う。この転換効率を高めるのみならず、太陽エネルギーや原子力エネルギーなどあらゆるエネルギー源の転換効率の向上を図る”と謳い、二酸化炭素を削減する手法として原発を掲げていた。原発以外にも低コストで安定的なエネルギー源の開発は引き続き進めなくてはならないが、持続的な経済成長を図る上ではエネルギーの確保が必要で、当面は、安全に管理された原発を安全に利用しなくてはならないことも否定できないだろう。そのためにも、原発の稼働の安全性、信頼性を高めるべく、保全指針が謳うような総合的な設備診断技術が現場で報告だけでなく実際に徹底して実施されることを望むものである。