“あの”ニュースに見るテクノロジー
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第111回~第120回
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第111回 レアアース調達難航で、希少金属使わない技術開発の推進を
2010年10月25日(月曜日)
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中国のレアアース(希土類)の禁輸が拡大してきている。経済産業省が9月28日~30日に実施した「中国における輸出入状況に関する調査」の結果でも、レアアースの貿易に関与している31社全社から、尖閣諸島での中国漁船衝突事件の後の9月21日以降、日本向けの輸出が止まっているとの報告がなされている。
ハイブリッド(HV)車や電気自動車(EV)の二次電池のリチウムやモーターの磁石のネオジムやデジカメのレンズのタンタルなどのレアアース。中国はこのレアアースの世界生産量の97%を占める。来年度の日本のレアアース需要は3万t以上に上る見通しで、そのほぼ全量を依存する中国の禁輸から、約1万tが不足すると見られている。
こうした事態に先立って、資源に乏しいわが国では、レアアースやその他レアメタル(希少金属)に頼らない技術の確立を目指し、研究開発が早くから進められている。
レアアースを使用しないHV・EV用モーターを開発
たとえばエネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では先日、レアアースを使わないHV・EV用モーターを開発したと発表した。北海道大学・小笠原悟司教授ら研究グループとともに開発したもの。現在、高出力を要するHVやEVのモーターには、磁力の強いレアアース・ネオジムを使用したモーターが採用されているが、ほぼ100%を中国に頼っていることから安定調達が難しい。レアアースを使用しない場合は、フェライト磁石モーターを使用することになるが、従来のフェライト磁石モーターでは回転するローターディスクの上に磁石や鉄心を配置していたため、出力を上げることができなかった。これに対して、ローターディスクの代わりに磁石と鉄心を組み込んだ回転部を採用することで、希土類磁石モーターと同等のサイズと出力(51.5kW)を得られるフェライト磁石モーターの試作に成功したもの。
リウムの使用量を低減させる技術と代替材料
NEDOではまた、「希少金属代替材料開発プロジェクト」の一環として、レアアースの一種で液晶テレビのガラス基板の研磨材として使われるセリウムの使用量を低減させる技術と代替材料の開発に取り組む立命館大学・谷 泰弘教授、アドマテックス、クリスタル光学、九重電気と、新たな研磨パッドと複合砥粒の開発に成功した。新開発の研磨パッドは、従来用いられていたウレタン樹脂の代わりに開発したエポキシ樹脂を用いたもので、研磨能率は従来の2倍を超えることが確認された。また、この研磨パッドと、セリウム代替となる酸化ジルコニウムなどの砥粒を組み合わせた複合砥粒はコアの有機物の周囲に酸化セリウム等の砥粒を付着させた構造をもつもので、研磨能率が50%改善、これにより使用量の低減が可能となるという。
プラチナを表面改質してレアアースの使用量を減少
自動車排出ガス浄化用触媒や燃料電池用触媒のレアメタルであるプラチナ(白金)をナノ粒子にして表面改質することで、使用量を減らす試みがある。アルバック理工では、パルスのアーク放電を発生させて、瞬時にターゲット材料をプラズマにして基板にイオン化された蒸着装置を付着させる。排出ガス浄化用触媒向けでは、カーボン粉を真空中で攪拌しながらこのアークプラズマガンを用いて2~3nmの白金ナノ粒子を蒸着する。ナノ粒子にして表面積を増やし触媒の効果を高めつつ、その使用量を減らすことに成功しているという。
中国のレアアース禁輸に対し、ドイツが日本のレアアース確保の支援を約束し、新たな供給源開拓のために日独が協力して取り組む方針を示唆するなど、国際的な協調体制構築も進んでいる。しかし、資源に乏しいわが国がこれまでレアメタルに頼ってきた先端分野で引き続き先導的役割を果たし続けるべく、今後も、様々な産業分野においてレアメタルを極力使わない技術の確立が求められよう。