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第101回 わが国技術の発信で、インフラ関連プロジェクトの獲得を!

リニアモーターカー(提供:JR東海)リニアモーターカー(提供:JR東海) 経済産業省( http://www.meti.go.jp )は、本年6月策定の「産業構造ビジョン2010」で提言されたインフラ・システム輸出に関する総合的な戦略を官民連携で策定する目的で、「インフラ・システム輸出部会」を設置した。鉄道、航空宇宙、原子力、水ビジネスなどの主要団体トップや有識者が集まって、インフラ関連産業の海外展開のための総合戦略やインフラ・システム輸出を進めるにあたっての官民連携のあり方などについて意見交換していく。

 産業構造ビジョン2010では、2020年までに海外分を含めて19兆7,000億円の新市場と18万7,000人の新規雇用を創出する目標を掲げている。その中でインフラ・システム輸出は重要な戦略分野の一つに位置づけられており、政府がインフラ関連プロジェクトの受注などに積極的に関わるべく、今回インフラ・システム輸出部会が設置された。

 たとえば鉄道分野では、米国(全長1300kmのカリフォルニア高速鉄道網など)やメキシコ、ベトナム、中国、インドネシア、タイなどで高速鉄道の建設が計画されている。鉄道車両はCO2排出量が少ない大量輸送手段として世界的に重要性が見直されているが、自動車などによる輸送を鉄道で代替する「モーダルシフト」はオバマ政権が5年間で130億ドルを投入する方針を打ち出すなど、特に米国で急速に進み、新幹線(N700Iブレット)やリニアモーターカーなど日本の高速車両技術が求められている。

 新幹線を見ると最新のN700系で時速300kmと高速化が加速する一方、この環境対策からは、安全性を確保した上でのメンテナンス周期の長期化が図られているが、鉄道の輸出においても、新幹線の開発で培った、安全で環境に優しい高速化の技術を全面に打ち出す必要があろう。

 たとえば鉄道車両用軸受のうち車軸用軸受は、軸を直接支持し、また線路からの振動が直接伝わる過酷な環境下で使われ、かつ転がり疲れ寿命の長寿命化が求められている。そのため欠陥につながる介在物の少ない高清浄度鋼が使用されているほか、潤滑寿命の延長からは封入グリースの改良とともに、樹脂製保持器を採用して摩耗粉を抑制している。主電動機(モーター)軸受には60~90kmで中間給脂が行われているが、120万kmへのメンテナンス周期延伸のニーズに対し、長期グリース補給を維持できるグリースポケット形状などの工夫がなされている。センサー組込みによる運行中の軸受のモニタリングシステムなども、メンテナンス周期の長期化や安全性向上では重要な役割を担う。

 このほか、列車の走行に必要な電流を流す電気的特性、パンタグラフとの接触力変動が少ない良好な接触を保つための機械的特性、摩耗しにくく破断することのない材料的特性が求められるトロリ線や、機械的特性や摺り板が摩耗しにくく破損せずトロリ線を摩耗させない材料的特性、風を受けることで発生する揚力が適切で、風を切ることによる騒音が小さいなどの空力的特性が求められるパンタフラフなど、高速車両の信頼性を高める技術は枚挙にいとまがない。すなわち、鉄道の輸出とは、これら車両の機械技術や安全で省エネな運行・管理のためのエレクトロニクス技術などを統合して提供する必要があるということだ。

 ここにきて新幹線の技術をもとに製造された中国の高速鉄道の輸出が加速してきているようだが、日本が1964年以来の安全で信頼性の高い高速化技術を着実に積み上げてきたのに対して、中国は10年程度の経験しか持たない。コストはいざ知らず、統合力では圧倒的に日本がリードしているはずである。

 これは鉄道に限らず原発や航空宇宙、水ビジネスなどでも同様であろう。多岐にわたる機械技術や電気・電子技術が集積されたこれら産業の輸出において、いかにわが国技術の優位性を前面に打ち出してプロジェクトを獲得し、先述の市場および雇用の創出につなげていくか、今回誕生した経産省インフラ・システム輸出部会の今後の取組みに、強く期待したい。