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第51回『俺たちに明日はない』

 本作は、大恐慌時代に実在したアベック銀行強盗を題材としたアメリカン・ニューシネマ先駆けとなる1962年のアーサー・ペン監督作品。このアメリカン・ニュー・シネマの流れは、『イージー・ライダー』(1969年)、『明日に向かって撃て!』(1969年)へと続いていく。

 ムショ帰りのクライド(ウォーレン・ベイティ)がいつものように車を盗もうとしているところを、「それ、うちの車だけど」と2階から笑って遮ったボニー(フェイ・ダナウェイ)。ひょんな出会いで互いに惹かれながら、ボニーとクライドはテキサス州ダラスを中心に、自動車泥棒と銀行強盗を刹那的に繰り返しながら、明日の見えない旅を続ける。

 次第に彼らはアベック強盗として新聞でも取り上げられ時の人となるのだが、クライドと出会ったころのボニーはまだ銃を扱ったことがない。そこでクライドは空き地でボニーに銃の練習をさせるのだが、もちろん初めからうまくいくはずもない。そこで「扱いやすいスミス&ウエッソン(S&W)を買わなきゃな」というクライドのセリフが出る。S&W社は1896年、一貫して製造してきた中折れ式の回転弾倉式拳銃(リボルバー)に代わって、シリンダー(回転弾倉)をフレームの横に開く形式(スイングアウト式)を発売した。これは32口径S&Wロング型だが、その後1911年、この32口径スイングアウト式リボルバーのフレームに22口径の銃身を取り付けて発売されたたものが、22./32ハンドイジェクター「キット・ガン」である。魚釣りなどのときにキット・バッグに入れるのに最適な大きさ、口径であるところからこう呼ばれたらしいが、クライドのセリフにあるS&Wは、時代的にもこの銃をさすのであろうか。

 ちなみに銃弾を全身に浴びて倒れるスローモーションのシーンでは、装弾数50発のドラムマガジンを装着した1928年開発のトンプソン・サブマシンガンによる一斉掃射がなされる。この「死のダンス」と称される壮絶で美しい映像の効果は後の映画でも多用されているが、実話でもこの一斉掃射による被弾数は何と87発だったという。この掃射は、単に悪を懲らしめるためだったろうか。『イージー・ライダー』でも見られるように、枠にとらわれた人々のアウトローというまぶしい自由への羨望があるように思えるのだが。