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 夏といえばビールの消費が多い季節だが、近年はウイスキー派も増えてきているそうなので、この季節ならオン・ザ・ロックだろう。ロックグラスにやっと入るくらいの大き目のかち割り氷の上にウイスキーを注ぐ。氷はすぐに溶けない角の少ない球状にする。できればアイスピックで。本作は、ベッドの上で元ロック・スターがアイスピックで惨殺されるところから始まるポール・ヴァーホーヴェン監督によるエロティック・サスペンスである。

 サンフランシスコ市警殺人課のニック・カラン(マイケル・ダグラス)が惨殺事件の容疑者として追うのは、殺された元ロック・スターの恋人で美人小説家のキャサリン・トラメル(シャロン・ストーン)。キャサリンは数年前に両親を事故で亡くし莫大な遺産を相続、また数ヵ月前には惨殺事件そのままのミステリー小説を発表していた。ニックはというと、コカイン中毒で捜査中に誤って観光客を射殺してしまった過去を持つ。キャサリンはそのニックをモデルに次回作を書くという。ニックはキャサリンへの容疑を濃くしながらも、彼女の魅力に次第に溺れていく。

 キャサリンは重要参考人として一度警察で尋問を受ける。下着を着けていない脚を組み替えながら刑事たちを翻弄するシーンは実に悩ましいが、警察もお手上げとばかり行うのが嘘発見器、つまりポリグラフによるテストだ。SRR(皮膚抵抗反応)や呼吸、脈拍をグラフに書き留めていく、あれである。犯人しか知りえない質問に反応して波形が乱れたら最後、犯人と判定される。なので「全部いいえで答えてください」というやり方は基本的にしない。いずれにしても心理学を専攻していたというキャサリンはこのテストもあっさりとクリア、物的証拠もないので、無罪放免となる。

 本作も、第10回『ファム・ファタール』同様、妖艶な才女キャサリンという悪女によって破滅へと導かれる男・ニックを描くフィルム・ノワール風の作品である。キャサリンがアイスピックで砕く氷とジャックダニエルのオン・ザ・ロック、青い海を背にした白亜の別荘などが、夏をちょっとだけ涼しく感じさせてくれる。