先ごろ、火星に生命が存在できるかどうかを調査していた米航空宇宙局(NASA)の火星探査機「フェニックス」が、火星の凍土から水を検出したと報告した。実験機器内の火星凍土が融解していく過程で水分子が確認されたことから、火星の永久凍土層の下に氷の存在があると断定したという。
本作『トータル・リコール』は、フィリップ・K・ディック原作の『追憶売ります』に着想を受け、ポール・バーホーベン監督が製作した火星モノである。毎日のように火星の悪夢にうなされる男ダグ・クエイド(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、火星に惹かれ、人工の記憶を植えつけるリコール社で火星旅行の記憶を買う。実はダグは、火星を統治しようとするコーヘイゲン長官(ロニー・コックス)の片腕として働く諜報員だったが、ある理由から記憶を封印され地球に送り込まれていた。その消された記憶がリコール・マシーンによって甦ったのである。ダグはコーヘイゲンの部下が追跡するなか、火星へと旅立った。
火星の人々は、外気を遮断し空気を供給し続けるシェルターで暮らしているが、実は火星を酸素で覆えるだけの氷が存在し、それを使った酸素発生機(リアクター)があるという。ダグの記憶の封印は、その存在を隠し完全な火星統治を目指すコーヘイゲンと、リアクターを稼動させようとするダグとの戦いが原因だったのか…。
1990年の本作は、今年になって発見された火星の氷の存在を予言するようなサイエンティフィックな映画であるが、ひとたびシェルターの壁が壊れれば人々がツイスターに浚われるようにのみこまれていくような場所で、巨大で鋭利な回転カッターヘッドを三つ四つ持つトンネル掘削機が爆走したりするお茶目な場面もある。ダグを追跡するためコーヘイゲン一味が埋め込んだ発信機を鼻の穴から取り除くのは、UFOキャッチャーのピック・アンド・プレースみたいな(マジックハンドみたいな)装置である。この手のアクチュエータは、『ストレイト・ストーリー』でも出てきたがアメリカ映画で不思議と実に多用されている。
さて、火星時間で4ヵ月近く活動を続けてきた火星探査機「フェニックス」が、探査活動を停止する。着陸地点が「冬」の季節に入ってきたことを受けて、ソーラーパネルの発電能力が急速に減少、ロボットハンドや科学分析装置などを運用するための電力が底を尽き、後は探査機、生存のための最低限度の電力しか供給できなくなるという。映画のような火星での居住は、まだまだ先のことのようである。