シャルル・ボネ(ヒュー・グリフィス)は美術品収集家と称しているが実は贋作者。1人娘のニコル(オードリー・ヘップバーン)は父親の仕事を止めさせようとしているが、反対を押し切ってやはり贋作であるチェリーニのビーナス像を美術館に出品する。そんな折、調査を依頼された私立探偵のサイモン・デルモット(ピーター・オトゥール)がニコルの屋敷に忍び込んでゴッホの贋作を調べていたがニコルに見つかり、苦しまぎれに泥棒だと名乗る。一方、リーランド(イーライ・ウォラック)というアメリカの美術収集家が出品されたビーナス像を気に入り、科学鑑定することに。困り果てたニコルは「泥棒」のサイモンに頼んで、美術館からビーナス像を盗み出すことになる。
売価100万ドルというビーナス像だけに警備は厳重である。像の周囲を赤外線センサーが張り巡らされている。そこで登場するのが、オーストラリアの原住民、アボリジニ族が狩りに使ったというブーメランである。センサーの届く範囲にブーメランを投げ、警備をかく乱させる手だ。警報が鳴るころにはブーメランはサイモンの手に戻っている。これを何度か繰り返しシステムを解除させる手だ。
さて、飛行機の翼と同じような形をしたブーメランは、回転によって揚力を発生させる。この際、ブーメランの上のほうの揚力が大きいため、ブーメランを手前に倒そうとする。自転車に乗っていて体を左に傾けると自転車は自然に左に回ろうとするが、この回転している物体に働く歳差運動(ジャイロスコープの原理)と同じことが回転しながら前方へ飛んで行くブーメランにも起こり、結果としてブーメランは大きな円を描き、 投げた人のところ戻ってくる、という原理である。だが、ある実験によれば、ブーメランの羽の角度、全体の質量、ブーメランの正しい投げ方、風の向きなど、様々な条件を満たさないとブーメランは正確に戻ってこないとの結果が出たそうだ。
ドジな私立探偵にそんな精巧な技が可能か、といった野暮な観方はやめよう。なんといっても『ローマの休日』のウィリアム・ワイラー監督とオードリー・ヘプバーンがコンビのパリものである。”HOW TO STEAL A MILLION”なんていう原題よりも、『おしゃれ泥棒』のほうがずっといい。オードリーのジパンシー・ファッションや脚線美は必見である。