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第35回『北北西に進路を取れ』

 本作は、アルフレッド・ヒッチコック監督の「巻き込まれ型」サスペンス・ドラマ。広告マンのロジャー・ソーンヒル(ケーリー・グラント)は、ある一味からカプランなる人物に間違えられ、ニューヨークのホテルから拉致、ある仕事への協力を強いられるが、それを断った途端に命を狙われ、殺人の汚名を着せられ、逃亡者の身ながら、シカゴのホテルに移ったというカプランを追って20世紀特急でニューヨークからシカゴへ、真実へと迫っていく。

 有名なのは左のポスターにあるシーン。20世紀特急内でキャビンにかくまってくれた謎の美女イブ・ケンドール(エヴァ・マリー・セイント)の伝言で荒野に向かったロジャーを、遠くで農薬をまいていたはずのセスナ機が超低空飛行で追いかける。入り組んだトウモロコシ畑なら安全だろうと逃げ込んだロジャーの頭上からセスナは、吸い込めば死に至ることもある粉剤の農薬を散布する。

 「グラマン アグキャット」に代表される農業機は、薬剤散布用のポンプおよび散布機器を持ち、翼の下から農薬をスプレーする。コックピット内に農薬が流入しないよう、操縦席は密閉され加圧(与圧)されている。エアコンを通った外気だけがコクピットに入る仕組みになっている。『地獄の黙示録』ではヘリコプターで農薬をまくが、ヘリコプターではコックピットが与圧されていないようだ。噴霧器を積んだ無人ヘリコプターによる農薬滴下が行われているのは、近隣住民への配慮と操縦士の安全のためか。

 ヒッチコックの巻き込まれ型サスペンスは、犯罪がらみのロードムービーだ。シーンはついには、ワシントンら偉人の顔が刻まれている有名なラシュモア山岩壁でのチェイスにまで至るのである。その巧妙なプロット、ボンドガールならぬヒッチコックガール、スリリングありの魅惑的なトラベルと、見どころ満載だ。