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第32回『イージー・ライダー』

 ヤマハ発動機と東北大学の加齢医学研究所・川島隆太研究室との共同研究により、二輪車に乗ることで運転者の脳が活性化されることを証明した。アメリカン・ニューシネマの代表作である本作は、二輪車に乗り続ける若者二人を主人公とした物語だが、彼らはライディングよりも別のことで脳が活性化されているようである。

 ドラッグの密輸で大金を手にした“キャプテン・アメリカ”ことワイアット(ピーター・フォンダ)とビリー(デニス・ホッパー)は、自由の国アメリカの幻影を求め、ハーレー・ダヴィッドソンで故郷のロサンゼルスから約束の地ニューオリンズの謝肉祭へと旅立つ。長髪で定住せず、マリファナやLSDを吸いと自由気ままな二人はヒッピー部落でも、沿道の村々でも悪口と殺意をもって迎えられる。自由の背後に人々は恐怖を感じるのであろう。自由の国アメリカに幻滅し始めた彼らの行き着くところは…。

 ところでドラッグで儲けた彼らは、もちろん銀行に金を預けたりはしない。何しろ脳が活性化されている。札を一枚一枚小さく丸めてチューブに詰めて栓をし、ガソリンタンクに収める。使いにくそうだがコンパクトで安全な金庫である。溶剤に侵されないチューブといえば、今なら半導体製造で多用されるPTFE製とかPEEK製というところだろうか。

 ヤマハと東北大学の共同研究では、「日常生活に二輪車乗車を取り入れることで様々な脳認知機能(特に前頭前野機能)が向上、メンタルヘルスでもストレスの軽減や脳と心の健康にポジティブな影響を与える」との結論があったが、この二人はドラッグを併用しているせいか脳も心も健康そうには見えない。しかし、BGMとしてザ・バンドやステッペン・ウルフなど自由を象徴するロックが流れる、田舎道をさっそうと走る二人の映像だけはストレスフリーであるように思える。