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日本トライボロジー学会、機能性コーティングの最適設計技術研究会を開催
日本トライボロジー学会の会員提案研究会である「機能性コーティングの最適設計技術研究会」(主査:上坂裕之 岐阜大学教授)は7月23日、東京都江東区の東京都立産業技術研究センター本部で第12期 第1回(通算第16回)会合を開催した。協賛は表面技術協会 高機能トライボ表面プロセス部会(代表幹事:上坂裕之氏)。
開催のようす
同研究会は、窒化炭素(CNx)膜、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜等の硬質炭素系被膜および二硫化モリブデン等の固体潤滑被膜を実用化する上で重要となるコーティングの最適設計技術の向上を目指し、幅広い分野の研究者・技術者が集い、トライボロジー会議でのシンポジウムの開催や研究会での話題提供と討論を行っている。
当日はまず上坂主査が、「本研究会は、前主査の梅原徳次氏(名古屋大学)や加納 眞氏(元日産自動車)などが中心となって、コーティングの機能をより良く発現させるための摩擦のメカニズムの解明などに着目して、スタートした。現在もそうした点にフォーカスして活動していることに変わりはないが、それがコーティング技術自体から少し外れたものでも、その時々の最先端のコーティングに関わるテーマをも併せて、取り上げていきたいと考えている。今回のテーマは“スマートサーフェス”。コーティングは通常、摩擦されるときの荷重や湿度といった環境の影響を受けてパッシブに自分自身が変わっていく材料。これに対して、スマートサーフェスという考え方は、表面の材料そのものが積極的に、ある意図に沿って自分自身を変えて、摩擦摩耗特性を制御していこうというもので、今回は、そうした考え方に基づく研究を2件紹介いただく。コーティング技術そのものではないが、コーティングの研究に生かせる知見が得られるものと思う」と開会挨拶を行った。
上坂 氏
続いて、以下のとおり講演がなされた。
「可変な凹凸構造を活用したトライボロジー機能の拡張」大園拓哉氏(産業技術総合研究所)…ほとんどの材料表面には凹凸があり、その凹凸が材料の手触りや摩擦、付着、濡れ性、光学特性など多くの表面の性質に関与している。本講演では、可変な凹凸のデザインとして、ゴムのようなやわらかい基材を利用したシワを中心に構造可変性を紹介したうえで、トライボロジー機能の拡張可能性に向け、その摩擦特性等への影響についての最近の話題を紹介した。摩擦のオンデマンド制御として、ひずみの印加等で凹凸が制御できるシワの可変性を摩擦の制御に使い、状況に応じて摩擦を変えられる表面を提案した。また、ゴム表面への織布の貼り付けなど材料複合化によって、摩擦の荷重依存性をデザインする方法を提案した。さらに、瞬時に付着力を可変できる新しいグリップ素材への応用が期待できる例として、ガラスビーズを埋め込んだゴムシート表面の引っ張りに伴うシワの凹凸変化による付着制御への活用や、温度によって粘弾性を可逆的に変化させ付着力を可変できる液晶エラストマーによる付着制御への活用などを紹介した。
大園 氏
「変形する機能性表面を用いた摩擦の能動的制御-スマートサーフェスへの挑戦」村島基之氏(名古屋大学)…一般的な摩擦材料は通常、使用部位に応じて、摩擦力を下げるなら下げる、上げるなら上げるという、ある特性の性能に特化した機能を有する。しかし生物に学ぶと、同じ材料であっても表面の形状を制御することで様々な特性を発現させている例が多く見られる。本講演では、そういった事例に学んで開発された、表面形状が能動的に変形する新しい機能性表面「スマートサーフェス」を用いた摩擦制御技術に関して紹介した。ダイヤフラム構造変形部を有するシリンダ材料を3Dプリンタにより造形、この変形表面(スマートサーフェス)は固体材料でありながら数百μm以上の大変形および乾燥摩擦中での0.3~0.5の範囲における摩擦係数の能動的制御に成功した。このスマートサーフェスの流体中での能動的摩擦制御の可能性を検討、変形しない従来表面では達成不可能だった能動的摩擦制御による有用性を検討した。変形表面を用いた流体中摩擦の能動的制御性を明らかにするとともに、ストライベック曲線から、その変化メカニズムを考察。特に、平坦表面の摩擦係数と比較して、低減させることも増加させることも可能であるという重要な結果が示された。
村島 氏
「塩素含有DLC膜の摩擦摩耗特性に関する研究」徳田祐樹氏
(東京都立産業技術研究センター)…ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜への軽元素や金属元素の添加による表面機能の向上が実現されている。本講演では無潤滑環境におけるDLC膜のさらなる低摩擦化を目指して、PBII&D法により膜中に塩素を添加した塩素含有DLC膜の開発を試みた結果について紹介した。ディスクに塩素含有DLC膜を被覆し、アルミニウム合金A6061や軸受鋼SUJ2、ステンレスSUS304、セラミックス材料SiCおよびAl2O3の5種類のボールを用いた摩擦摩耗試験の結果、塩素含有DLC膜が摩擦相手材の材種に応じて異なる摩擦特性を示すことが分かった。微量な添加量でも大幅な摩擦係数の低下が認められたアルミニウム合金の摩擦面には、トライボ反応によって塩化アルミニウム六水和物が形成。この塩化アルミニウム六水和物がポリアルファオレフィン(PAO)4と同等の高粘度を有するトライボフィルムとして潤滑剤の役割を担うことで、固体接触の防止によって低摩擦化効果が発現する、という塩素含有DLC膜の低摩擦化メカニズムについて考察した。
徳田 氏
kat 2019年8月3日 (土曜日)ジェイテクト、業界初、水素環境用軸受評価試験機を開発
ジェイテクトは、水素環境用軸受評価試験機を開発し、同社国分工場(大阪府柏原市)に設置した。純水素ガス環境において軸受を実際の荷重・回転条件で評価できる業界初の試験機で、特殊な回転伝達機構、荷重負荷機構の採用により、水素ガス恒温槽(試験機内の水素ガスの温度が-30℃から120℃の間に保たれるよう制御)の密閉性を維持し、外部からラジアル荷重とアキシアル荷重を同時にかけながら、高速回転での試験が可能。
地球温暖化が深刻化する中、実現が期待されるゼロエミッションでクリーンな水素社会の実現に向け、同社では開発した水素環境評価技術をもって貢献していきたい考えだ。
試験機外観(左)と試験機構造(右)
試験機仕様
下図は、一般軸受鋼製の玉軸受を水素環境軸受評価試験機で評価した例で、比較のため、大気環境で同様の評価を実施した結果も示している。水素環境で転動した軸受は、大気環境で転動した場合に比べ、半分以下の時間ではく離が発生することが分かる。
水素環境および大気環境における一般軸受鋼の耐久試験結果
下図は、水素環境試験後および大気環境試験後の軌道直下のミクロ組織を示している。水素環境試験サンプルは、はく離部近傍に白色の組織変化(白層)を伴い、顕著な疲労組織が見られるのに対し、大気環境試験サンプルは、異常な組織変化もなく、水素環境試験サンプルに比べ疲労組織が軽微となっている。
水素環境および大気環境における一般軸受鋼の耐久試験後の組織写真
このことから、一般軸受鋼製の玉軸受は、水素環境において、軌道直下で転位の活動が促進され、白層を伴う早期剥離が発生する水素環境特有の破損モードを確認できた。
下図は、一般軸受鋼および耐水素性を有する特殊ステンレス鋼の玉軸受を水素環境軸受試験機で評価した例で、水素環境で転動した一般軸受鋼製の軸受は計算寿命の約2倍ではく離したのに対し、特殊ステンレス製の軸受は計算寿命の約12倍の耐久性を示した。本評価設備において、特殊ステンレス製の軸受の耐水素性を実証できた。
水素環境における特殊ステンレス鋼と一般軸受鋼の耐久試験結果
このように、ジェイテクトでは、本試験機により、水素環境中における材料および潤滑剤の評価が可能となり、水素環境でも安心して使用できる軸受を開発することが可能となっている。
イグス、薄型で軽量の無潤滑のロータリーテーブルベアリングを開発
イグスは、オートメーション設備や舞台装置、制御パネルなど、小さなスペースで素早い回転・旋回運動が求められる用途向けに、薄型で軽量の無潤滑ロータリーテーブルベアリング「イグリデュールPRT-04」を開発した。このPRT-04は高性能樹脂製で、メンテナンスフリー性と耐摩耗性を備える。
「イグリデュールPRT-04」
溶接システムやインデックステーブル、包装機械等に装備される旋回リングには、高頻度や高荷重など、厳しい負荷がかかる。このような条件に対応するため同社では、15年にわたって滑りによって可動するロータリーテーブルベアリング製品を提供してきた。このイグリデュールPRT ロータリーテーブルベアリングは、アルミニウム製またはステンレス製の内輪・外輪の間にすべりパッドが組み込まれたもの。同すべりパッドはメンテナンスフリーの高性能樹脂イグリデュールJ製で、無潤滑で摩擦・摩耗を確実に低減し、最大35MPaの面圧に耐える。
今回新たに開発されたPRT-04は狭い取付けスペースで使用することが可能で、内径100mmのPRT-01に比べて取付け高さを最大50%薄型化できるほか、重量も60%低減される。そのため、自動化技術や、ソートシステム、制御パネル、更には舞台装置や照明技術等のコンパクトな用途にも適用でき、スリム構造によりコスト削減を実現する。
PRT-04は内径50mm~300mmを提供可能なほか、駆動ピン、アングルストップ、ハンドクランプなど、様々なアクセサリも取り揃えている。
さらに、広さ3800㎡のイグス試験施設における試験でその長寿命が実証されている。試験で得られたデータは、イグリデュールPRT ロータリーテーブルベアリングのコンフィギュレータに随時反映され、適切な製品選択や正確な寿命予測を可能にしている。