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日本トライボロジー学会、2021年度学会賞 授賞式を開催

2年 4ヶ月 ago
日本トライボロジー学会、2021年度学会賞 授賞式を開催 in kat 2022年06日09日(木) in

 日本トライボロジー学会(JAST)はこのほど、「2021年度日本トライボロジー学会賞」の受賞者を発表した。ベアリング、潤滑関連では、以下のような受賞があり、オンライン開催された「トライボロジー会議 2022 春 東京」の会期中の5月24日に授賞式が開催された。

論文賞 「Estimation Method of Micropitting Life from S-N Curve Established by Residual Stress Measurements and Numerical Contact Analysis」
長谷川直哉氏、藤田 工氏(NTN)、内舘道正氏(岩手大学)、阿保政義氏、木之下博氏(兵庫県立大学)

 自動車や産業機械の内部摩擦の低減に向け、潤滑油の低粘度化が進んでいる。また、自動車などの電動機では高速化が進み、潤滑油の使用温度が上昇している。いずれも、転がり軸受においての油膜厚さの低下要因であり、ピーリング(論文中ではMicropitting と表現.突起接触部での転動疲労による微小はく離の集合体)発生を促進させるピーリング寿命は十分な油膜形成下の寿命に比べて短かく、予測が困難であった。

 本論文では、受賞者らが明らかにしたピーリングの発生メカニズムに基づいて、ピーリング寿命を精度よく推定する方法を提案している。提案法では、運転時に変化する表面粗さ(なじみ)から求めた突起接触部の応力計算値に、残留応力の測定値を足し合わせ、突起接触部に繰り返される相当応力を求める。

 次に、あらかじめ実験的に作成したS-N線図(相当応力とピーリング寿命の関係)からマイナー則を用いて累積疲労度を求めて寿命を推定する。この手順は、ピーリング寿命に影響を及ぼす、運転中の残留応力の変化と、表面処理および潤滑油添加剤によるなじみ挙動の変化を、実験を援用して考慮できる独創的な方法である。

 提案法は、ピーリングを抑制するための転がり軸受の表面粗さの設計だけでなく、表面処理や潤滑剤の適切な選定に活用できる。また、提案法の応用により、信頼性と低トルクを両立する転がり軸受の表面粗さの限界設計が可能になり、転がり軸受ユーザーのエネルギーロスの低減にも貢献できる。さらに、使用中の転がり軸受の継続使用の可否判定や転動疲労の迅速評価法にも活用できる。

上段:左から、プレゼンターの杉村丈一JAST前会長、長谷川氏、木之下氏
下段:左から内舘氏、阿保氏

 

「玉軸受のグリース潤滑における潤滑寿命の研究(第2報)―基油の浸透特性にもとづく潤滑寿命の解析―」
市村亮輔氏、小森谷智延氏、河内健氏、吉原径孝氏、酒井雅貴氏、董大明氏(協同油脂)、木村好次氏(東京大学、香川大学)

 本論文に先立つ第1報において、DIN 51821に準拠したアンギュラ玉軸受の潤滑寿命試験を実施して潤滑寿命に至る過程を調べ、運転初期のグリースの再配置により外輪端部に形成された油溜まりから付着層内の浸透によって軌道面に供給される基油の“Feed”と、そこから失われる“Loss”とのバランスが潤滑寿命を支配する主要因であるという結論を導いている。その第2報として本報では、この結論の妥当性の立証と潤滑寿命を評価する手順の導出を目的として、グリース中の浸透による基油の動きを解析した。

 まず構造の異なるウレアグリース3種類について、ろ紙を利用した浸透性試験により基油の浸透速度を評価する方法を開発し、その結果にLUCAS-WASHBURNの式を適用して、グリース中の基油の浸透性の指標として用いる等価半径を算出した。

 次いで運転開始から潤滑寿命に至る過程におけるグリースの状態を、油溜まりと付着層の等価半径の関係として表し、運転中に生ずるその変化を算定して、“Feed”と“Loss”のバランスが失われる点における等価半径を与える式を導いた。

 この方法による潤滑寿命の推定結果は潤滑寿命試験の結果と良好な一致を見せ、第1報の結論に理論による裏付けを与えるとともに、潤滑寿命試験を経ずに潤滑寿命を相対的に評価する手順を提案して、潤滑寿命の長いグリースを開発するーつの方向性を示している。

上段:左から、杉村JAST前会長、木村氏、董氏
中段:左から、酒井氏、市村氏、小森谷氏
下段:左から河内氏、吉原氏

 

「潤滑油の高圧物性(第5報)―ファンデルワールス型粘性方程式の導出―」
金子正人氏(出光興産) 

 潤滑油の粘度温度特性について、WALTHERの対数対数動粘度‐対数温度線形式が広く用いられている。しかしながら、WALTHER式は常圧における炭化水素油や石油製品類の動粘度の温度特性についての実験式であり、理論解析されておらず、そのままでは高圧粘度に適用することができないことが分かった。

 そこで本研究において、新たに高圧粘度に適用できる絶対粘度温度関係式の理論構築を行うこととし、絶対粘度と温度、圧力との関係について理論解析を行った。その結果、対数対数絶対粘度は温度の2乗に負比例することが分かり、各圧力における対数対数絶対粘度と温度の2乗に関する線形式を導出した。なお、この線形式は絶対零度で粘度が収束することが分かった。

 これと並行して、理想液体の粘性について思考実験を行った。既知の理想液体の状態方程式の絶対零度体積が圧力に依存せず一定であることから、理想液体の絶対零度粘度も圧力に依存せず一定であることが予想された。この思考実験結果は、理論解析結果と一致した。さらに、対数対数絶対粘度は圧力に比例することから、圧力を組み込んだ粘度圧力温度線形式を導出した。

 この粘度圧力温度線形式は、絶対零度粘度、粘性定数および圧力定数の三つの潤滑油の固有定数からなるvan der WAALS型粘性方程式であることが分かった。また、この式は理想液体の粘性方程式と一致した。このようにして導出したvan der WAALS型粘性方程式により、潤滑油の高圧粘度の推算が可能となった。また、本研究の結果から、帰納的に「絶対零度物性は圧力に依存しない固有定数である」という概念に辿り着き、他の物性(密度、比熱、熱伝導率、屈折率、電気抵抗率等)についても、同様にvan der WAALS型物性方程式の存在が予想される結果となり、今後の展開が期待される。

左から、杉村JAST前会長、金子氏

 

技術賞  「トランスミッション用シール付き転がり軸受の低フリクション化技術」
水貝智洋氏、佐々木克明氏、和久田貴裕氏(NTN)                                            

 CO2排出量削減に向け、自動車のトランスミッション用軸受には、長寿命に加えさらなる低トルク化が求められている。加えて、高速モータを用いた車両電動化の要求により、減速機用軸受には高速化への対応も求められている。本技術は、トランスミッションおよび減速機用シール付き転がり軸受の低フリクション化に関するものである。

 トランスミッション内の潤滑油にはギヤ摩耗粉などの異物が存在し、これが軸受の寿命低下を招く恐れがあるため、①接触シールを用いて異物侵入を防ぐ、②異物寿命に効果的な特殊熱処理を施すなどの対策がなされる。しかし、①はシールによる回転トルクの増加が避けられなく、かつ、高速回転下ではシールの適用限界速度を超えては利用できない。また、②は異物がない環境に比べると寿命低下が避けられない。

 本技術は、上記①に対して、接触シールのしゅう動面に半円筒状微小突起を設けることにより、油潤滑下でシールしゅう動面と内輪間に“くさび膜効果”による流体膜を発生させ、回転トルクを従来接触シール品比で80%低減し、非接触シールと同等にした。一方、突起高さは微小であるため、寿命を低下させるサイズの異物の侵入を遮断でき、異物がない環境と同等の軸受寿命を確保できる。また、本シールは、従来接触シールに比べ大幅に高い周速下でも使用できる。

 以上のように、本技術は、異物混入油中でも十分な寿命を確保しつつトランスミッション用軸受の回転トルクを低減でき、自動車の省燃費化に貢献できる。また、信頼性の向上により軸受サイズの小型化、また、自動車の軽量化に貢献できる。さらに、従来の接触シール付軸受に比べ2倍以上の周速で使用できるため、車両電動化に伴う高速化の要求にも応えることができる。

上段:左から、杉村JAST前会長、佐々木氏
下段:左から、水貝氏、和久田氏

 

「界面制御技術を用いた水溶性切削油の高性能化」
岡野知晃氏、浅田佳史氏、服部秀章氏(出光興産) 

 本技術は、金属の切削加工において広く用いられている水溶性切削油の性能向上に関する技術である。

 水溶性切削油の要求性能は、工具-被削材間の潤滑性、消泡性、防錆性などの水系潤滑剤特有の性能に加え、近年では工場における作業者の安全性を意識した作業環境性など多岐にわたり、これらの異なる性能を高い次元で実現する必要がある。

 中でも、水溶性切削油の主要な要求性能である潤滑性および消泡性は、主成分である界面活性剤(脂肪酸アミン塩)の種類に大きく依存する。これら潤滑性および消泡性は相反する関係にあり、これらを両立することは非常に困難とされていた。本課題を解決すべく、中性子反射率測定およびFM-AFMを用いた固/液界面における吸着特性評価手法を、動的表面張力測定を用いた気/液界面における吸着特性評価手法をそれぞれ新たに確立した。特に動的表面張力測定から算出されるパラメータ(最大動的表面張力低下速度(Vmax))を用いることで、固/液界面および気/液界面での吸着性の制御がそれぞれ可能となった。このように独自に確立した吸着特性評価および評価指標を駆使して見いだした、特殊な官能基を有する新たな脂肪酸アミン塩を適用することで、潤滑性および消泡性を高い次元で両立した。以上の知見を活かし、環境対応型高機能水溶性切削油としてダフニー アルファクールEX-1(エマルションタイプ)、WX-1(ソルブルタイプ)」をそれぞれ新たに開発し、上市した。

 また、近年ではカーボンニュートラルへの取組みから、水系潤滑剤への期待が高まりつつある。本技術は水溶性切削油に限定されず、各種水系潤滑剤に適用可能であるため、今後の水系潤滑剤の開発・性能向上への貢献が期待される。

上段:左から、杉村JAST前会長、浅田氏
下段:岡野氏

 

「次世代カルシウムコンプレックスグリースの開発」
渡遅和也氏、田中啓司氏、長富悦史氏(シェルルブリカンツジャパン)                                 

 これまで、鉱業や機械産業の発展とともに様々な潤滑グリースが開発されてきた。特に使用環境または運転条件が過酷化する中で高温性能に優れるウレアグリースやリチウム複合石けんグリースが開発され、最近ではカルシウムスルフォネート複合グリースのシェアが増加傾向にある。ここ数年海外においても、カルシウムを原料とした汎用のカルシウム石けんグリースの需要増やカルシウムスルフォネート複合グリースの生産量が年々増加しており、特に欧州での需要増の傾向が強く、現在では約15%以上がカルシウムを原料としたグリースで占められている。昨今のSDGsに向けた世界の取組みの大きな変遷の中で、この傾向はますます加速されると考えられ、環境資源、環境保全、ならびに安全で取扱性にも優れたカルシウムなどの原材料を用いた高機能潤滑剤への期待はより大きくなっていくものと考えられる。

 同社ではこれまで、上述した時代背景や環境ニーズに対して、入手性、取扱性、環境適合性の観点で最適であるカルシウム原料に焦点を当て、市場で要求される高温性能を満足するグリースの研究開発を行ってきた。そこで、環境性と実用性を両立した次世代カルシウムコンプレックスグリースとしてガダスS4 Z100Aを開発し、本年商品化した。本グリースは、従来のカルシウムコンプレックス増ちょう剤の組成技術を改良することで、これまでの石けん系グリースでは使用できなかった高温領域で優れた潤滑性を長期にわたり発揮できることから、機械寿命の延長や省資源化に貢献できる。また、高温性能だけでなく、耐フレッチング性などの特徴的な性能を有することから、様々な用途への展開が期待される。

上段:左から、杉村JAST前会長、田中氏
下段:渡邊氏

 

「インターカレーション法によって合成した有機-無機ハィブリッド型固体潤滑剤」
大下賢一郎氏、柳睦 氏、小見山忍氏(日本パーカライジング、佐々木信也氏(東京理科大学) 

 冷間鍛造の分野では、1934年に発明されたリン酸亜鉛皮膜が、潤滑皮膜として現在でも広く用いられている。この皮膜は極めて優れた潤滑性を有し、ほぼすべての加工形態に対応できる万能な皮膜である。一方で、成膜に化学反応を利用するため成膜効率が悪く、成膜工程から大量の排水や産業廃棄物、CO2が排出されるなど、環境負荷が高いことが指摘されている。このような背景から、2000年以降、生産性の向上と環境負荷低減を目的に、成膜に化学反応を利用しない塗布型潤滑皮膜への移行が国内外で徐々に進んでいる。

 本技術は、層状粘土鉱物の一種であるマイカの潤滑性向上を目的に、インターカレーション法によってマイカの層間、すなわち、へき開面に、有機系潤滑成分であるアルキルアンモニウムを担持させた有機-無機ハイブリッド型固体潤滑剤である。層間に担持されたアルキルアンモニウムはマイカの層間すべり性を向上させるため、高荷重かつ表面拡大を伴う塑性加工面においてスムーズにへき開し、新生面を効率的に保護することで、焼付きを抑制する。本技術を塗布型潤滑皮膜に適用することで、潤滑性はリン酸亜鉛皮膜と同等レベルを維持しつつ、成膜時間は1/10未満に短縮され、成膜工程から排出される廃棄物も10%未満まで低減することが可能となった。

 インターカレーション法とは、層状物質の層間に化学的特性が異なる他の成分を挿入する反応の総称である。層間に担持可能な成分の候補は無数にあるが、適切な成分を選択することによって、目的に応じた機能を自在にマイカに付与できる可能性がある。インターカレーション法が近い将来、固体潤滑剤の高機能化と地球環境保全に大きく貢献することを期待している。

上段:左から、杉村JAST前会長、佐々木氏、大下氏
下段:左から、柳氏、小見山氏

 

「転動体強化による転がり軸受の高機能化技術」
橋本翔氏、小俣弘樹氏、植田徹氏、岩永泰弘氏(日本精工)

 本技術は転がり軸受の転動体を強化することにより、軸受そのものの耐久性向上を実現する材料技術である。

 近年、カーボンニュートラルの実現に向けて、自動車や産業機器の省エネルギー化の要求はますます高まっている。したがって、様々な機器に使用される転がり軸受においても、軽量化や低トルク化することで社会ニーズに応えていかねばならない。このような背景から、転がり軸受に加わる荷重や潤滑状態は一層厳しくなり、表面起点型はく離などの表面損傷が加速されることが予想される。圧痕起点型はく離に代表される表面起点型のはく離寿命は、計算寿命よりも極端に短くなるケースがあるため、この現象に対して長寿命化する技術開発が重要である。一般的には、浸炭窒化などにより、はく離が生じる軌道輪の残留オーステナイト量や残留応力を制御することが有効である。

 一方で、これまでの研究から、軌道面に形成された圧痕縁からの疲労き裂発生には、圧痕縁に作用する接線力が重要な役割を果たしていること、転動体の表面粗さが大きくなるほど軌道輪に作用する接線力が大きくなることを明らかにした。以上から、はく離が生じる部材そのものではなく、相手材である転動体を強化し、使用に伴う表面粗さの劣化を抑制することによって、軸受そのものの耐久寿命を延長させるという新たな開発指針を得た。この指針に基づき、表面に微細な炭窒化物を析出させることで耐異物圧痕性や耐摩耗性を向上した転動体を開発した。本転動体を使用した転がり軸受は、標準仕様と比較して、異物混入潤滑において約2倍のはく離寿命を有し、コストアップを抑制しつつ高耐久化することが可能である。

 本転がり軸受は自動車トランスミッション用や工作機械用などに展開されており、様々なアプリケーションの省エネルギー化に貢献している。

上段左から、杉村JAST前会長、小俣氏、下段:橋本氏


 

kat