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JAST、テクスチャリング表面のトライボロジー研究会など4研究会が合同開催
日本トライボロジー学会(JAST)の会員提案研究会(トライボロジーに関する重要なテーマについて研究参加した会員の調査・研究・討論などを通じ学問・技術の発展に寄与することを目的とする会)である「テクスチャリング表面のトライボロジー研究会」(主査:東京理科大学 佐々木信也教授)と境界潤滑研究会(主査:東京工業大学 青木才子教授)、分子シミュレーションのトライボロジーへの応用研究会(主査:兵庫県立大学 鷲津仁志教授)、工作機械のトライボロジー研究会(主査:東京理科大学 野口昭治教授)は3月7日、東京都葛飾区の東京理科大学で「JAST合同研究会:カーボンニュートラルに向けたTX(トライボロジーX)」を開催した。
開催の様子
当日は開会にあたって佐々木信也氏が、「コロナ禍でもありテクスチャリング表面のトライボロジー研究会は久しぶりの開催となるため、盛大な会にしようという主旨で各会に呼びかけ、4研究会合同での開催が実現した。カーボンニュートラルに向けたトライボロジーの革新技術、という意味合いでTXなる造語を冠した本合同研究会の講演はいずれも、自分自身も聞いてみたかった大変興味深いテーマの研究内容となるため、それぞれ活発な意見交換をお願いしたい」と挨拶した。続いて鷲津仁志氏が「分子シミュレーションのトライボロジーへの応用研究会は東京大学の加藤孝久先生が20年くらい前に始められ、10年くらい前から私が主査を務めている。今回、佐々木先生よりお声がけをいただき開催が決まった合同研究会の4件のテーマはいずれも非常に興味深く、5月に開催されるトライボロジー会議とはまた違った、深堀りした研究が紹介されることを私自身、楽しみにしている」と挨拶した。
開催の挨拶を行う佐々木氏挨拶する鷲津氏
その後、以下のとおり講演がなされた。
「粒子法の流体潤滑問題への応用~粒子法、ここまで来た⁉」根岸秀世氏(JAXA)…粒子法(MPH法)の利点を生かして、機械要素内のマクロ-ミクロの流体潤滑問題を統一的に解析し、現象理解と潤滑特性評価を可能とする解析技術への取り組みについて紹介。物理的健全性を有するMPH法が、①負圧を含む流体潤滑解析(くさび膜効果やスクイーズ膜効果)、②ソフトEHL(弾性流体潤滑)解析(流体-構造連成解析)、③潤滑膜と転がり軸受のような流体-剛体連成解析、のぞれぞれに適用可能であることを示した。
講演する根岸氏
「Adsorption and Structure of Amine-based Organic Additives at Iron-oxide Interface」Patrick A. Bonnaud氏(豊田中央研究所)…歯車や軸受などの摩耗を抑えEVを含む各種機械の寿命を延ばすことは、サスティナブルな社会を実現するうえで重要な課題であり、潤滑油では金属の摩耗を防ぐとともに環境に優しい新たな有機系添加剤が求められている。本研究では吸着しやすさを予測する計算モデルを作成、分子末端基が吸着性にどのように影響するかを明らかにし、シミュレーションによって吸着性が良いと予測されたアミン系有機添加剤を配合した潤滑油を用いて摩擦試験を行った結果、鉄の表面に吸着膜が早く形成され、摩耗を抑制することが実証された。
講演するBonnaud氏
「Ni-Pめっきを施した転がり軸受の回転トルクと寿命」堀田智哉氏(関東学院大学)…潤滑油の撹拌抵抗など、軸受トルクの多くが潤滑油に起因することから、潤滑油を用いずに、Ni-Pめっきを施すことで軸受の低トルク化と長寿命化を目指し、実験評価を行った。トルクの評価では、めっきなし、DLC被覆よりもNi-Pめっきありが低トルクを示した。転がり軸受の寿命評価では、めっきなし軸受に比べNi-Pめっきあり軸受が長寿命だったが、DLC被覆軸受が最も長寿命という結果となった。
講演する堀田氏
「スラストフォイル気体軸受における新しい表面テクスチャの提案」落合成行氏(東海大学)…表面テクスチャが空気潤滑および高摺動速度化で作動する軸受に与える影響を検証しつつ、新型フォイル軸受の開発を目指した。ディンプルはフォイルガス軸受でも低速領域で摩擦低減効果を有しているが、高摺動速度下では摩擦抵抗を増加させ、また、温度上昇を抑制する効果が確認された。新規テクスチャである「F-グルーブ」では接触時の摩擦は大きくなったものの、流体膜生成を促進し潤滑性能の向上が確認されたほか、温度上昇が抑制されており、高い冷却効果が得られたものと推察した。
講演する落合氏
講演終了後は、青木才子氏が「主査を務める境界潤滑研究会では、潤滑油添加剤関連の発表を聞く機会は多いが、この合同研究会の講演は添加剤研究会内では聞くことができないテーマの発表ばかりで、大変勉強になった。こうした合同研究会はブレーンストーミングの良い機会でもあると思うので、ぜひともまた開催していただきたい」と挨拶し、閉会した。
閉会の挨拶を行う青木氏 kat 2024年3月11日 (月曜日)振動摩擦摩耗試験機SRVのユーザーズミーティング開催、SRVによる新試験手法などを紹介
揺動(オシレーション)セットアップおよび回転(ローテーション)セットアップと、オシレーション・ローテーション両方の動きを模擬できることなどから、潤滑剤や自動車向けトライボロジー試験機のデファクトスタンダードとなっている振動摩擦摩耗試験機「SRV®」について、「国内ラウンドロビン試験結果報告会」と「2024年ユーザーズミーティング」が3月5日、SRV®国内総販売代理店のパーカー熱処理工業 川崎事業所での対面参加とオンライン参加からなるハイブリッド形式により開催された。
ユーザーズミーティングの開催の様子
当日はSRV®試験機製造元の独Optimol Instruments Prüftechnik社(Optimol社)Managing DirectorのGregor Patzer氏から、最新機種SRV®5を用いた新しい試験手法、凝着摩耗の検知手法、電気接触抵抗(ECR)測定を用いたグリース試験について、オンラインでの話題提供がなされた。
ドイツからのオンラインで話題提供を行うPatzer氏
まず、アプリケーション指向の試験機としてユーザーの実部品を実使用に近い環境で試験でき、正確で再現性の高い試験結果が得られる最新機種「SRV®5」について、ピストンリングとシリンダーライナーのスカッフィング/摩耗、樹脂シャシージョイント、低摩擦エンジン油、航空機用ホイールベアリング、固体潤滑被膜、転がり軸受用グリース、オイルとグリースの比較、高性能多目的グリース、ブレーキフルードのノイズ/摩耗、フレッチング(摩擦係数、摩耗)、薄膜の付着および極圧性能、スカッフィングなど、幅広い産業に関わる国際標準規格に合致していることを説明。
この国際標準規格に合致したSRV®5を用いた試験のうち、二つのシリンダーを用いた転がりアダプター構成によるASTM D8317転がり軸受用グリースの評価事例や、専用ホルダーおよびアダプターを用いたDIN 51834-5 & DIN E 51834-6ブレーキフルードで潤滑したEPDM製シールリングの摩擦の可視化事例、ASTM D8503エンジン油のスカッフィング温度限界の試験の事例、フルードの高流量と主軸の高速回転を模擬する回転モジュールを用いたSRV®5の新しいセットアップによる、水系金属加工油と工具材質のスクリーニング試験の事例を紹介した。
続いて、SRV®5を用いた凝着摩耗と摩擦係数の相関に関する試験評価では、必ずしも高摩擦係数が凝着摩耗を招くわけではないことから、凝着摩耗の顕微鏡観察での確認が必要なこと、試験結果の再現性実現のためには摩擦係数やストロークのカットオフ値/時間といった「セットポイント・プロファイル(レシピ)」の設定が不可欠なこと、温度測定やECR測定、アコースティックエミッション(AE)測定などの併用も有効であることを説明した。
さらに、転がり軸受用グリースの耐フレッチング摩擦摩耗特性の試験評価について、オシレーションセットアップによる摩擦係数の試験評価結果と、SRV®5のオプションであるECR測定によるECR値の評価結果の相関性について報告した。
Patzer氏による話題提供と国内ラウンドロビン試験結果に関するSRVユーザーとPatzer氏との議論に続いて、実際のピストンヘッドとピストンピンを取り付けるなどコンポーネントとして試験評価できるSRV®5の「Combi-Drive」のデモンストレーションや、SRV®の入門機でデスクトップ型トライボメータながら再現性が高く、試験実行中にμmレベルで摩耗量を表示できる「Easy Tribo Screener(ETS)」を用いたデモンストレーションが、パーカー熱処理工業の越智直行氏によってそれぞれ実施された。
SRV5「Combi-Drive」のデモンストレーションのようす:写真左が越智氏
JAST、テクスチャリング表面のトライボロジー研究会など4研究会が合同開催
日本トライボロジー学会(JAST)の会員提案研究会(トライボロジーに関する重要なテーマについて研究参加した会員の調査・研究・討論などを通じ学問・技術の発展に寄与することを目的とする会)である「テクスチャリング表面のトライボロジー研究会」(主査:東京理科大学 佐々木信也教授)と境界潤滑研究会(主査:東京工業大学 青木才子教授)、分子シミュレーションのトライボロジーへの応用研究会(主査:兵庫県立大学 鷲津仁志教授)、工作機械のトライボロジー研究会(主査:東京理科大学 野口昭治教授)は3月7日、東京都葛飾区の東京理科大学で「JAST合同研究会:カーボンニュートラルに向けたTX(トライボロジーX)」を開催した。
開催の様子
当日は開会にあたって佐々木信也氏が、「コロナ禍でもありテクスチャリング表面のトライボロジー研究会は久しぶりの開催となるため、盛大な会にしようという主旨で各会に呼びかけ、4研究会合同での開催が実現した。カーボンニュートラルに向けたトライボロジーの革新技術、という意味合いでTXなる造語を冠した本合同研究会の講演はいずれも、自分自身も聞いてみたかった大変興味深いテーマの研究内容となるため、それぞれ活発な意見交換をお願いしたい」と挨拶した。続いて鷲津仁志氏が「分子シミュレーションのトライボロジーへの応用研究会は東京大学の加藤孝久先生が20年くらい前に始められ、10年くらい前から私が主査を務めている。今回、佐々木先生よりお声がけをいただき開催が決まった合同研究会の4件のテーマはいずれも非常に興味深く、5月に開催されるトライボロジー会議とはまた違った、深堀りした研究が紹介されることを私自身、楽しみにしている」と挨拶した。
開催の挨拶を行う佐々木氏挨拶する鷲津氏
その後、以下のとおり講演がなされた。
「粒子法の流体潤滑問題への応用~粒子法、ここまで来た⁉」根岸秀世氏(JAXA)…粒子法(MPH法)の利点を生かして、機械要素内のマクロ-ミクロの流体潤滑問題を統一的に解析し、現象理解と潤滑特性評価を可能とする解析技術への取り組みについて紹介。物理的健全性を有するMPH法が、①負圧を含む流体潤滑解析(くさび膜効果やスクイーズ膜効果)、②ソフトEHL(弾性流体潤滑)解析(流体-構造連成解析)、③潤滑膜と転がり軸受のような流体-剛体連成解析、のぞれぞれに適用可能であることを示した。
講演する根岸氏
「Adsorption and Structure of Amine-based Organic Additives at Iron-oxide Interface」Patrick A. Bonnaud氏(豊田中央研究所)…歯車や軸受などの摩耗を抑えEVを含む各種機械の寿命を延ばすことは、サスティナブルな社会を実現するうえで重要な課題であり、潤滑油では金属の摩耗を防ぐとともに環境に優しい新たな有機系添加剤が求められている。本研究では吸着しやすさを予測する計算モデルを作成、分子末端基が吸着性にどのように影響するかを明らかにし、シミュレーションによって吸着性が良いと予測されたアミン系有機添加剤を配合した潤滑油を用いて摩擦試験を行った結果、鉄の表面に吸着膜が早く形成され、摩耗を抑制することが実証された。
講演するBonnaud氏
「Ni-Pめっきを施した転がり軸受の回転トルクと寿命」堀田智哉氏(関東学院大学)…潤滑油の撹拌抵抗など、軸受トルクの多くが潤滑油に起因することから、潤滑油を用いずに、Ni-Pめっきを施すことで軸受の低トルク化と長寿命化を目指し、実験評価を行った。トルクの評価では、めっきなし、DLC被覆よりもNi-Pめっきありが低トルクを示した。転がり軸受の寿命評価では、めっきなし軸受に比べNi-Pめっきあり軸受が長寿命だったが、DLC被覆軸受が最も長寿命という結果となった。
講演する堀田氏
「スラストフォイル気体軸受における新しい表面テクスチャの提案」落合成行氏(東海大学)…表面テクスチャが空気潤滑および高摺動速度化で作動する軸受に与える影響を検証しつつ、新型フォイル軸受の開発を目指した。ディンプルはフォイルガス軸受でも低速領域で摩擦低減効果を有しているが、高摺動速度下では摩擦抵抗を増加させ、また、温度上昇を抑制する効果が確認された。新規テクスチャである「F-グルーブ」では接触時の摩擦は大きくなったものの、流体膜生成を促進し潤滑性能の向上が確認されたほか、温度上昇が抑制されており、高い冷却効果が得られたものと推察した。
講演する落合氏
講演終了後は、青木才子氏が「主査を務める境界潤滑研究会では、潤滑油添加剤関連の発表を聞く機会は多いが、この合同研究会の講演は添加剤研究会内では聞くことができないテーマの発表ばかりで、大変勉強になった。こうした合同研究会はブレーンストーミングの良い機会でもあると思うので、ぜひともまた開催していただきたい」と挨拶し、閉会した。
閉会の挨拶を行う青木氏