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第86回『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』

 本作は、『シザーハンズ』以来の名コンビであるティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演によるスプラッター・ミュージカルである。まあ、そんなジャンルがあれば、だが。

 19世紀、ロンドン・フリート街で理髪店を営むベンジャミン・バーカー(ジョニー・デップ)は愛する妻と娘と幸せに暮らしていたが、美しい妻に恋をしたターピン判事(アラン・リックマン)の陰謀で、バーカーは無実の罪で投獄されてしまう。15年後、バーカーはスウィーニー・トッドと名前を変え、フリート街に戻って来た。ロンドン一まずいと言われるミートパイ屋、ミセス・ラペット(ヘレナ・ボナム=カーター)の店の二階に理髪店を構え、妻を死に追いやり今や娘を妻にしようとするターピン判事への復讐を誓う。

 さて、スウィーニー・トッドはタービン判事を理容椅子に座らせて切れ味の良いカミソリでしとめようと、練習台とミセス・ラペットのパイの材料として、日々身寄りのない客の首筋にカミソリを走らせ、殺戮していく。この理容椅子がすごい。ふつうの理容椅子のリクライニングは床に対し水平に倒れる程度だが、トッドの改良した理容椅子はさらに90°後ろに倒れる。つまり死体は宙づりになるや床へと落ちていく。と同時に床板がリンク機構で下に引っ張られ、床にぽっかりと四角い穴が空く。野球盤でホームプレートが引き下げられ、穴が空いて、ボールがそこに吸い込まれていく、あの「消える魔球」のカラクリのように、死体はその穴へ、地下室へと落ちていくのである。まるでダストシューターで送られるゴミのように、ミセス・ラペットのパイの具として…。

 作中、妻と娘を愛するトッドの思いが切々と歌で語られるが場面の半分は血しぶきである。スプラッター・ミュージカルとしか言いようがない。ちょっと直視するにはきついが、歌う殺人鬼、ジョニー・デップの役どころは見逃せない…かもしれない。