メインコンテンツに移動

Aggregator

木村洋行、半導体分野で超薄型ボールベアリングの適用を拡大

1年 3ヶ月 ago
木村洋行、半導体分野で超薄型ボールベアリングの適用を拡大 in kat 2023年01日11日(水) in in

 木村洋行は、1950年代に世界で初めて超薄型ボールベアリング「Reali-Slimシリーズ」を開発し量産を開始した唯一の専門メーカーであり、現在はSKFグループとして超薄型ボールベアリングを中心に、あらゆる用途に応じたカスタムベアリングの開発も手掛けるKAYDON(ケイドン)社の、日本総代理店を務めている。

 ここでは同社に、半導体分野におけるケイドン超薄型ボールベアリングの適用について、話を聞いた。

ケイドン超薄型ボールベアリング 

 ケイドン超薄型ボールベアリングは内径25.4~1016mmまでのサイズをくまなくラインナップしている。最大の特徴はベアリング断面が超薄型のため、装置に占めるベアリングのスペースを最小化でき、装置全体の省スペース・軽量化が図れ、設計の自由度が向上する点が挙げられる。一般的なISO規格・JIS規格のベアリングでは内径が大きくなるのに比例して断面サイズも大きくなるのに対し、ケイドン超薄型ベアリングは断面サイズでシリーズ化されており、内径が大きくなっても同じシリーズ内であれば断面サイズは変わらない。

内径が大きくなっても断面サイズが一定のケイドン超薄型ボールベアリング 

 

 ケイドン超薄型ボールベアリングには、ラジアル荷重を受ける深溝型(Type-C)と通常は2列以上の複列で用いてラジアル荷重、アキシアル荷重とモーメント荷重の複合荷重を同時に支えることができるアンギュラコンタクト型(Type-A)、この複合荷重を単列のベアリングのみで受けられる4点接触型(Type-X)がある。
 

ケイドン超薄型ボールベアリングの種類

 

 ケイドン超薄型ベアリングの中でも特に、複合荷重を受けられる4点接触型を使用することで大口径中空シャフトへの置き換えが可能になるだけでなく、単列仕様にできるため軸方向の長さをさらに短縮できる。気体・液体の配管類、あるいは電気配線やスリップリング等を中空シャフト内に収納できるなど、フレキシブルで効率的なデザインにできる。

 キングポストデザインのISO 7010組み合わせベアリングから4点接触型超薄型ベアリングで中空シャフトを用いた機構への置き換えではまた、内径寸法を大きくできるため耐モーメント荷重を50%程度向上させている。

 回転軸に垂直に加わるラジアル荷重を支えるよう組み付けられたベアリングでは、例えばISO 6010深溝ボールベアリングでは下部約150°の範囲の転動体で荷重を分散支持しているが、ケイドン4点接触型では同じ荷重分布でラジアル荷重を支持しつつ、80%以上の軽量化・省スペース化を実現できる。
 

典型的なラジアル荷重負荷分布での、
ケイドン4点接触超薄型ベアリング(左)とISO 深溝ボールベアリング(右)との比較半導体分野における軸受へのニーズ

 半導体製造プロセスにおいて軸受には、回転の高精度化を損なうことなく、真空~高真空への対応、電子部品や光学レンズに悪影響を及ぼすアウトガス対策やコンタミネーションの低減、コンタミネーション発生につながる摩擦・摩耗の低減、プロセス中で使用されるガスによる腐食への耐性、エッチングや化学蒸着(CVD)などのプロセスに対応した耐熱性などを持たせることが要求される。

 ケイドン超薄型ベアリングはそもそも、1960年代のアポロ計画の宇宙服のヘルメットリング向けに採用され、その後も米国航空宇宙局(NASA)の月面探査車向けなど、宇宙空間の厳しい仕様環境に耐えるベアリングとして、多くの採用実績を持つ。宇宙環境下では軽量・省スペース化が求められるとともに、真空環境、極低温~高温の幅広い温度領域で精密な動きを求められ、ベアリングにとって非常に過酷な環境での稼働と高い信頼性を求められる。そのため内外輪の材質だけでなく、ボールや保持器の材質、潤滑剤の選定などでケイドンの長年の経験が活かされている。

 こうした宇宙機器での実績からケイドン超薄型ボールベアリングは、同じく真空環境、広い温度領域で作動する半導体製造プロセスにおいて幅広く適用されている。独自軸受設計に加えて、長年の経験に基づく内外輪および保持器の材質や潤滑剤の選定・適用によって、潤滑剤が250℃以上の高温下にさらされる条件や10-5~10-8Torrレベルの超高真空下での運転を実現しつつ、希薄潤滑条件でのマイクロパーティクル発生の最小化や腐食性雰囲気への耐性、長寿命化を実現している。

半導体製造プロセスでの適用例

 ケイドン超薄型ボールベアリングのこうした性能のほか、半導体製造装置の回転機構の小型・軽量・簡素化が図れる省スペース設計によって、半導体製造プロセスにおいてはウエハ搬送ロボットからウエハ研磨装置、露光装置、検査装置など、前工程から後工程まで広範な装置に適用されている。

 最も多用されているのがウエハ搬送ロボットで、薄くて軽いことが最も大きな採用理由。装置をコンパクト化できるだけでなく、同じ内径サイズの一般的なISO規格・JIS規格のベアリングに比べて80%以上の軽量化が図れることからアームが伸び切った時のたわみ量を少なくできるため、安定した正確な搬送を実現できる。

 他方で、ウエハ搬送ロボットを含む産業用ロボットでは複合荷重を受けることが可能なクロスローラーベアリングが多用されているが、4点接触型ケイドン超薄型ベアリングは、単列のベアリングのみで複合荷重を受けられるため省スペース化が図れるだけでなく、クロスローラーベアリングに比べて、より軽く安定した起動トルクと回転トルク、高い回転精度を実現できることも、ユーザーから高く評価されている。

 ケイドン超薄型ベアリングは1個単位でカスタマイズできることも大きな利点で、ケイドン社では、宇宙分野から続く真空環境で高い信頼性をもって運転できるベアリングの材料技術・潤滑技術に関して豊富な知見とノウハウを備えていることから、それぞれが特殊環境を伴う半導体製造装置ごとの要求に応じて、材料や潤滑を工夫したベアリングを提供している。

電動アクチュエータ

 木村洋行では一方、2020年からEWELLIX(エバリックス)社の直動製品の取扱いを開始している。エバリックス社は、SKFグループだったSKF Motion Technologies社を前身とする直動製品メーカーで、アプリケーションごとのニーズに合わせたカスタマイズのソリューションに定評がある。

 中でも特徴のあるピラー型電動アクチュエータは、ストローク長や荷重、速度、偏荷重など、アプリケーションごとの仕様条件に合わせた提案が可能で、高荷重という厳しい使用条件に対応しながらも、低騒音かつ堅牢さが求められる厳しいニーズにも対応できる。

 加工分野で適用の進む協働ロボットのアクセサリとして、ピラー型アクチュエータを協働ロボット用にカスタマイズし、協働ロボット自体を垂直方向に動作させることにより、作業動作範囲を拡大できる「LIFTKIT」を提案している。LIFTKITの垂直方向の最大ストローク長は500~1400mmとなっている。ロボットの基台としてピラー型アクチュエータである「LIFTKIT」を使用することで、設置面積を抑えつつロボットの昇降移動を実現でき、ロボットのアームリーチの有効範囲が立体的に拡大できる。

 またLIFTKITと同様に、単軸横置アクチュエータに協働ロボットを接続し、搬送やピック&プレースなどロボットの水平方向の動作範囲を拡大でき、作業効率を飛躍的に向上できる「SLIDEKIT」も提案している。SLIDEKITの水平方向のスライド長は100~3000mmとなっている。長い同一の生産ライン上にある、複数のセル生産装置の間でのワークの受け渡しや複数の加工工具の段取り替えといった作業の効率を高めることで、加工の生産性を向上できる。
ニーズに応じてSLIDEKIT上にLIFTKITを載せて併用することも可能であり、その場合協働ロボットの垂直方向と水平方向の動作範囲を大幅かつ同時に拡大できる。
 

6軸ロボットとLIFTKIT・SLIDEKITを組み合わせてのパレタイジングのデモ
(2022 国際ロボット展での例)

 

 SLIDEKITおよびLIFTKITは当初、ユニバーサルロボット(UR)社とのコラボによる6軸協働ロボットのアクセサリとしてカスタマイズされたが、現時点でUR社、オムロン社、ABB社、台湾テックマン(TM)社など様々な協働ロボットや産業用ロボットへの適用が可能となっており、それぞれの協働ロボットのティーチングペンダントによって、協働ロボットとSLIDEKITおよびLIFTKITの動作制御が可能となっている。最近ではまた、無人搬送車(AGV)にロボットを搭載したシステムが増えてきているが、このシステムに対して、ロボットの基台にLIFTKITを組み合わせることで垂直方向の作業動作範囲を拡大できる提案も進めていきたい。

今後の展開

 2013年に世界第一位のベアリングメーカーであるSKFのグループとなっているケイドン社は、カスタムメイドという従来からのフットワークの軽さに加えて、SKF仕込みの技術力・開発力を日々アップグレードさせている。

 木村洋行では、顧客の現場のニーズに対して最適な提案を行うために、ケイドン社にせよエバリックス社にせよ、製品やアプリケーションに関するトレーニングを定期的に受け、製品の性能や利点に関する知見、適用の可能性などの情報と知識を常にアップグレードさせている。

 例えばLIFTKITはパレタイジングなどの用途に限られるものではなく、顧客の声に耳を傾けていれば、顧客の利益となるフィールドでの新しい提案が必ず生まれてくる。木村洋行 第2事業部 部長の木村光正氏は「頭を柔らかくして、ケイドン社、エバリックス社の各種製品の特質を活かしつつ、現場の様々な課題の解決につながるような用途開拓を引き続き進めていきたい」と語っている。

kat