科学技術振興機 課題達成型基礎研究の一環として、理化学研究所は、有機半導体の溶液を塗布して作る(塗布型)有機薄膜太陽電池(OPV)の変換効率向上の要となる半導体ポリマーの配向制御技術を開発した。
塗布型OPVは軽量で柔軟な上、有機半導体の溶液を塗布して作製でき大面積化が可能であるため、現在普及しているシリコン太陽電池にはない特長を持つ次世代太陽電池として注目されている。ただ変換効率が最大でも10%程度で、シリコン太陽電池(20%以上)より劣るため、変換効率の向上が急務となっている。従来、効率向上にはポリマーの吸収波長領域を広げる手法が主に検討されてきたが、ほかにも光吸収によって発生した電荷がポリマー内で流れやすくする手法が考えられる。そのためには、ポリマーの配列方向(配向)を平行にそろえることが有効とされているが、これまで配向が偶然そろうことはあっても、その機構は解明されておらず、制御は不可能だった。
今回同研究所は、溶解性を高める目的で半導体ポリマーにアルキル基を導入した際に配向が変化したことにヒントを得て、導入するアルキル基の形状や長さの組み合わせを系統的に変化させた。その結果、導入した2種類の異なるアルキル基の長さがそろった時に、基板に対して垂直(「エッジオン(edge-on)」)であったポリマーの配向が、平行(「フェイスオン(face-on)」)になることを発見した。「フェイスオン」のポリマーは、電流が流れる方向とポリマーの向きがそろい「エッジオン」に比べて電荷を流しやすいため、ポリマー膜を従来の2~10倍厚く作製することが可能。ポリマー膜が厚くなったことで、太陽光をより効率的に集光できるようになり、約5%から最大7.5%まで変換効率が向上した。さらに、厚いポリマー膜は均質な膜を形成しやすいことから、大面積OPVが作りやすくなるという相乗効果も得られるという。
本成果で得られた半導体ポリマーの自在な配向制御技術を塗布型OPV開発に活用することで、実用化の目安とされる変換効率15%の到達に向けて研究開発が大きく加速することが期待できる。将来的には、大面積の塗布型OPVの製造にも大きく貢献することが期待される。
塗布型有機薄膜太陽電池(塗布型OPV)の模式図