本作は、謝礼金目当てに資産家の遺産相続人を捜す男女と、ダイヤモンドを狙い誘拐を繰り返す男女の二つのカップルが織りなす、アルフレッド・ヒッチコック監督の遺作。
イカサマ降霊術師ブランチ・タイラー(バーバラ・ハリス)は、老資産家ジュリア・レインバード(キャスリーン・ネスビット)の邸宅に呼ばれ、1万ドルの謝礼と引き替えに、たった一人の身内である死んだ妹の息子を見つけ出してほしいと頼まれる。恋人で探偵もどきのタクシー運転手、ジョージ・ラムレイ(ブルース・ダーン)とともにレインバード老嬢の甥エディーの捜索にかかるが、家族とも火事で死んでいるという。しかしその死に疑問を持ったジョージは、フラン(カレン・ブラック)という謎の女と組んで政府高官を誘拐、その身代金としてダイヤを受け取る宝石商アーサー・アダムソン(ウィリアム・ディヴェイン)として生活しているエディーに行き着く。
さて、エディーの死にジョージが疑いを持ったのは、一緒に死んでいるはずのレインバード老嬢の妹夫婦の墓と甥エディーの墓が別々に並んでいたことと、甥の墓だけが真新しかったため。そこで墓石を加工した石材屋を訪ねる。何人もの職人が原石をダイヤモンドカッターで切断したり、切断した石材を研磨したりダイヤモンドバイトで角をRにしたり、歯科用ハンドピースみたいなもので字彫りしている。現在なら石材屋にこんなに職人を抱え込んでいることはないかもしれない。字彫りにしてもサンドブラストで自動施工というのが一般的だろう。しかも、材料費も加工賃も安い中国で墓石加工を手がけていたら、真相にたどり着くのは容易ではなさそうだ。本作ではほかにも様々なメカが出てくる。誘拐された高官は、アーサー宅の煉瓦の壁の向こうの隠し部屋に閉じこめられる。壁の煉瓦を一つ外すと錠前が現れ、解錠すると煉瓦の壁の一部、ジグソーパズルみたいな形のドアが開くのである。
本作はバーバラ・ハリスが可憐なコメディエンヌとして活躍、ヒッチコック初期の頃のユーモアも交えたサスペンスの逸品である。