新日本製鐵( http://www.nsc.co.jp )は、大河内記念会(理事長:吉川弘之氏)より、「コークス炉リフレッシュの実現を可能にした極限環境下での診断・補修技術の開発」で、第55回(平成20年度)大河内賞大河内記念生産賞を受賞した。贈呈式は3月11日に日本工業倶楽部会館(東京・千代田区)で行われた。
大河内賞は、故大河内正敏博士の功績を記念して大河内記念会が、わが国の生産工学・高度生産方式の実施等に関する顕著な業績を表彰する伝統と権威ある賞。今回の新日鐵の受賞は、高温・狭隘な条件下にあるコークス炉炭化室壁全面の損傷状況を迅速に観察・診断し、その結果に基づいて高精度の溶射補修を効率的に行うという完成度の高い技術(DOC:Doctor of Coke Oven)を開発した結果、生産性の維持やコークス炉寿命の延長だけでなく、コークス単位生産あたりに要するエネルギーの増大を防ぐことで二酸化炭素の排出増加を抑制し、また従来の過酷な補修作業の改善を実現したなどの点が高く評価されたもの。
わが国のコークス炉の多くは1970年頃に建設されて40年近い炉齢を迎えており、老朽化に伴う炉壁の損傷により、例えば「押詰まり」と呼ぶ生産障害の発生頻度の増加、所要エネルギーの増大等の課題や、将来的に同時期に炉寿命を迎えることによる設備新設に関わる種々の問題にも直面していた。
新日鐵ではこれらの事態を予測して1990年代半ばから炉壁の観察技術の開発に着手、種々の技術的課題を克服して、2003年に大分製鉄所に1号機を設置、以降順次新日鉄各製鉄所コークス炉に設置を進め、現在7機を設置、2機を建設中で、これらにより同社全コークス炉への展開を進めており、炉寿命延長、大きな経済効果・省エネ効果・二酸化炭素削減効果が確認されている。
高炉によって銑鉄を生産するための還元剤および熱源としての役割を果たすコークスは、煉瓦構造体であるコークス炉炭化室で石炭を高温で蒸し焼きにして生産されるが、押出装置で排出される際に炉壁面の損傷が、炉齢の進行に伴って進行する。今回受賞した技術は高温(1,000℃以上)・狭隘(幅0.45m)・大面積(高さ6m、奥行き16m)の条件下の炉壁を健全な状態に維持するもので、以下の診断技術と補修技術から構成される。
(1)診断技術
・特殊CCDカメラと水冷耐熱ミラーの組合せによって炉壁全面の鮮明(解像度1?)な画像を迅速(4分)に得る技術を開発。
・レーザ光を投影して炉壁の凹凸を撮像と同時に計測する技術を開発。
・画像と凹凸計測情報を処理する技術により、損傷状況を定量化して補修計画を策定。
(2)補修技術
・補修部位の凹凸形状を±0.5mmの精度で精密測定する技術を開発。
・高精度で効率的な補修を実現するための特殊な溶射バーナを開発。
・凹凸形状測定結果に基づいて、高い平坦精度(±5?)の補修を最も効率的に実現するための溶射方法を自動設定する技術を開発。
(3)機械装置
・1,000℃を超える高温条件下で支障なく装置が作動するための特殊な断熱・冷却技術を開発。
・幅45cmの狭隘な条件下で炭化室炉壁全面(高さ6m、奥行き16m)で±1?以内の精度で正確に作動する多関節マニピュレータを開発。
・総重量10tを超える装置を炭化室内に円滑に挿入するための特殊な機械機構を開発。
新日鐵では、「これらの開発技術から構成される本設備により、従来の補修作業と比較して効率・精度・信頼性が飛躍的に向上しただけでなく、炉壁劣化の機構を解明することにも繋がり、設備保全のあり方に革新をもたらした。本設備の導入以降、信頼性の高い炉壁補修が確実に進められており、長期間のコークス炉寿命延長が期待されている。またエネルギー利用効率を高めることに効果的で、新日鉄の全てのコークス炉へ本設備を適用した場合、年間100万t規模の二酸化炭素の排出増加の抑制効果を実現する」とし、同設備(DOC)をコークス炉には不可欠な装置と位置付け、「このような大きな効果をもたらす本設備を広く内外に普及することにより、環境と人に優しい鉄造りに貢献できると考えている」と述べている。