今回はC・S・フォレスター原作、ジョン・ヒューストン監督による1951年度アカデミー賞受賞作品である。
舞台は1914年ドイツ領・東アフリカの、ある村。ローズ・セイヤー(キャサリン・ヘプバーン)は宣教師の兄と村で布教活動をしていたが、折りしも勃発した第一次世界大戦からドイツ軍の乱暴で兄を失い敵国人として孤立、宣教師のもとに郵便や食糧を届けていたカナダ人の船乗りチャーリー・オルナット(H・ボガート)とともに、蒸気船「アフリカの女王」号で村を脱出する。チャーリーは戦争が終わるまで身を潜めようと提案する一方で、ドイツ兵に兄を殺されたローズは、川を下り、下流の湖に碇泊しているドイツ砲艦「ルイザ」に近づき、魚雷を舳先に装着した船をぶつけて撃沈しようと主張する。聖書を片手にとりすましているくせに物騒なローズと、飲んだくれながら終始彼女に押され気味のチャーリー。水と油のように見える二人の、急流あり、滝あり、葦の群生ありの川下りはどう展開していくのか。
さて、タイトルのとおり主役は蒸気船「アフリカの女王」号である。蒸気機関は燃料を燃やした熱で、水を加熱し高温・高圧の蒸気を発生、その蒸気をシリンダー内に導いてピストンを動かし、シャフトを回転させ船尾のスクリューを回す。劇中、チャーリーはしょっちゅう薪をくべており、画面の片隅では常にピストンが上下している。ローズは後ろで舵を取っているが、あるとき急にチャーリーがエンジンを蹴り始めたのに驚き尋ねると、
「給水ポンプがたまに止まる。蹴ると動き出す」とのチャーリーの答え。
「ポンプが止まるとどうなるの?」
「ばらばらに爆発するだろうね」
蹴ると動き出す?昔はテレビの映像が乱れると本体の後ろのほうを叩いたりする場面をよく見かけたが、テレビにしてもエンジンにしても、叩いて蹴飛ばして直るシロモノではないと思うのだが。
さらに続けてチャーリーが言うには、「女王もたまには蹴飛ばさないとね」。押し気味のローズをけん制したつもりか。「君の瞳に乾杯!」で有名な『カサブランカ』とは違ったボギーの一面が愉しめる作品である。