本作は、死神が人間に恋するファンタスティック・ラブストーリーである。死神が若い女性に共感して運命を変えてしまうのは、伊坂幸太郎の原作を映画化した『死神の精度』だが、本作にヒントを得ているような気がする。もっとも、本作で連れて行こうとしているのは若い女性ではなく、その父親だが。
スーザン(クレア・フォラーニ)はカフェで若い青年と隣り合わせ、意気投合して結婚観などについて語りひと時を過ごす。別れ際、互いに恋に落ちたことを打ち明けて別れる二人だが、青年は次の瞬間には車にはねられ、死神に身体を奪われる。それが、スーザンの父親で大富豪のパリッシュ(アンソニー・ホプキンス)を迎えに来た、死神ジョー・ブラック(ブラッド・ピット)である。スーザンは彼の姿を見るなりカフェでの想いがよみがえるが、死神のジョーに死んだ青年の記憶はない。だが、連れて行くその日までパリッシュのそばに付き添い、会社の経営危機に際しアドバイスをしたりなどしているジョーは、スーザンとの出会いを重ねるうちにいつしか彼女に惹かれていく。
ところでジョー・ブラックとして登場する前の青年は、スーザンと別れ、道を横断しようとするときに双方向から車にはねられる。これは即死だろう、観るものにそう思わせる吹っ飛び方だ。それでなんとなく、あの車が衝突安全ボディーだったら、と考えた。衝突安全ボディーの考え方は近年、衝突時に乗員を保護するだけではなくなっている。歩行者傷害軽減ボディーというやつで、衝撃吸収素材と衝撃吸収構造によって歩行者の被る傷害をも軽減させる。たとえばトヨタでは、2001年のプレミオ以降、エンジンフード、カウル周辺、ワイパーピボットには衝撃吸収構造を採用し、歩行者の頭部への衝撃を緩和したほか、フロントバンパー裏には衝撃吸収構造を設定し、脚部への衝撃も緩和している。こんな車だったら青年も吹っ飛ばされることもなく、死神が入り込む隙もなかったかもしれないが、それではジョー・ブラックが登場できない。
ジョー・ブラックはあの世に連れて行こうというパリッシュに、現世での案内役を頼む。ピーナッツ・バターにはまったりと、スポンジのように現世の出来事を受け入れる衝撃安全ボディーのように柔軟で無垢な死神を演じる、個性派ブラッド・ピットのおどけた演技の妙も見どころである。